表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/31

カーニバルの闖入者

 勇者ユーリアは一瞬青ざめた後、

キッと顔を上げると目の前の男を

睨みつけた。

「よく、私の前に姿を現せたもの

ですね」

「君に俺の行動を規制する権利は

ないだろう? ユーリア。いくら

勇者だとはいっても、俺に村の

カーニバルに参加するなと命じる

事は出来ない」

「――来ないでください!」

 なおも近づこうとする男に

ユーリアは絶叫した。いつもの彼女

とは違う様子に、村人達が目を丸く

している。

 妹シーナも「お姉様……?」と首を

かしげていた。魔王アンゴルモアはキッ、

と男を見据えた。

 こいつが勇者に何かしたのだと思うと、

何故か怒りの感情が湧き上がって来た。

 魔王にとっては会った事もない男

なのだが。

 顔立ちはかなり整っている。

いかにも女好きというか、女性には

モテそうな雰囲気の男だった。

 柔らかそうな茶色の髪に宝石の

ような緑の瞳。

 服装は白いブラウスに上等なズボン

という簡素ではあるけれど、どれも

高価そうな物を身に着けていた。

「貴様! 俺の大事な娘に何を

しやがった!!」

 そう吠えたのは勇者ユーリアの

父親である。

 娘と似た、癖のある栗色の短い

髪を振り乱し、同色の瞳を怒りで

ぎらつかせた彼はまさに獣の

ようだった。

 今にも殴りかかろうとして、もう

一人の大事な娘であるシーナに落ち

着いてと押さえつけられていた。

 ぎょっと目を剥きながら魔王が

彼女に視線を移す。

 ちくん、と棘が刺さったかのように

魔王の胸が酷く痛んだ。

 しかし、返って来たユーリアの声は

愛しい人を語る声ではない。

 寧ろ、大嫌いな人物を語るような低い

声だった。

「ゆ、勇者! こいつとどういう関係

なんだよ!?」

「……真っ赤な他人です」

「ひどいな、キスまでした中なのに」

 芝居がかった仕草で男がユーリアを

見つめた。だが、ユーリアはぎらぎらと

怒りを込めた視線を彼に向ける。

「あなたが勝手に奪ったのではあり

ませんか! 私が、あなたを好きだった

みたいな言い方は止めてください!」

 ブチッと何かがキレる音がしたのは気の

せいではないだろう。

 絶句する魔王と勇者の父親には構わず

男は続けた。

「被害者みたいな顔してよく言うよ。僕は

その後君にボコボコに殴られたんだからね、

被害者はこっちの方さ」

 女性陣の方からヒソヒソと話し声が漏れ始めた。

うわぁ、最低と言う者もあれば、でもあの人

かっこいいわよねとか言う者もあった。

 ユーリア可哀想、と呟いたのは彼女と仲のいい

二人組リーシェとナナだ。

 実はユーリアは、街の学校でも主席卒業主席

入学だったために、奨学金が出て国の学校に

上がった事があったのだった。

 何かがあったらしく、卒業する前に村に

帰ってきてしまったのだが――。



 ユーリアは元同じ学校で、元同じ学部だった

というだけの赤の他人です、と男について称した。

 殺気すら感じられるほどの怒りを込めて今だ

彼を睨んでおり、相当に大嫌いだと言うのは

確かのようだ。

「僕の名前はトール=フレイアだよ。……

お嬢さん方。ご挨拶だなあ、ユーリア。赤の

他人だなんてそんな寂しい事を言うなよ」

「無理やり唇を奪った男が言うべきセリフで

すかそれは……」

「あの時君が何より可愛らしく見えたんだよ。

それに、何度も謝ったじゃないか」

「謝ればいいという訳ではありません。それに、

私は唇を奪われるより前からあなたの事がいけ

好かなかったんです。なにより、あなたのそういう

どの女性でも口説こうとする態勢が一番嫌いです」

「お、焼き餅かい? ユーリア」

「……誰がそんなものを焼きますか」

 怒りつつも一見冷静にも見えるユーリアとは

正反対に、魔王と勇者の父親はかなり熱くなって

怒っていた。父親はふざけんな! うちの大事な

娘によくも……!と息巻いて村人達数人とシーナに

押さえつけられ、魔王はリーシェとナナにまあまあと

止められていた。

「離せ! 俺はユーリアを傷物にしやがったあの男を

ブッ飛ばしてやる!」

「落ち着いてよお父さん! もう!!」

「暴力はまずいって! 親父さん落ち着きなよ!!」

『わしらの村のカーニバルにわざわざ来てくれた

お客さんだしなあ』

「ねえねえ、君魔王なんだって?」

「ユーリアの事どう思ってるの?」

「べ、べべべ別にどう思ってたっていいだろ!!」

 と、リーシェ達にユーリアの事をどう思っている

のかと問われた魔王が顔を真っ赤にしながらうろ

たえていた。

 ユーリアはその事には一切気づかず、ちゃっかり

手を握ろうとしたトールの手をぴしゃりと叩く。

 魔王は苛立っていた想いを全て吐き出すように

叫んだ。

「いい加減にしろお――っ!!」

 きゃっ!?と叫ぶリーシェとナナには構わず

魔王はユーリア達の前に飛び出した――。



「危ないっ!」

「ユーリア? ってうわああっ!!」

 いきなりユーリアに体当たりするように突き

飛ばされ、トールはそのまま無様に地面に

転がった。

 今まで自分がいた場所に雷のような物が

直撃し、ぎょっとなる。

「何で……何でそんな奴庇うんだよ勇者! 

お前に酷い事した奴なんだろ!?」

 犯人は魔王だった。

ユーリアは小さくため息をつきながら彼を見る。

 呆れたような顔で見られた魔王は泣きそうな

顔になった。何故、ユーリアにそんな視線を向け

られるのか、そしてトール=フレイアと名乗った

最悪な男をかばわれるのか訳が分からず魔王は

喚いた。

 それでも、勇者は容赦せず魔王を見据え

続ける。

「……魔王、今、何をしたか分かっているの

ですか?」

「分かってるよ! ユーリアだってそいつに

怒ってただろ!? そんな奴どうなったって

いいだろ!? なのに何で庇うんだよ!!」

「私が庇ったのは、彼ではありませんよ魔王。

私が庇ったのは……」

 ユーリアが言葉を続けようとしたその時、

このガキ!と顔を真っ赤にして怒鳴った

トールが魔王に殴りかかった。

 魔力は人一倍ある魔王だが、体力は人間の

子供にも劣るほどなのでそのまま殴り飛ば

されてしまう。 

 やめなさい!とユーリアが叫んだが両方

聞こえていなかった――。



 カーニバルにやって来たのは、ユーリアの

唇を奪った彼女が嫌う人物だった。二人のやり取り

にキレる勇者の父親と魔王!

 魔王と彼が乱闘になってしまい、ユーリアは二人を

止めようとするが――。

 次回は勇者が奮闘するお話です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ