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カーニバル開催中

「いらっしゃい、魔王。よく来ましたね?」

「な、なんだよその恰好!?」

 いつでも来てもいいという勇者の言葉に

従って魔王が勇者のいる村に行くと、勇者は

妙に可愛らしい恰好をしていた。

 ふわりとした赤いワンピースにフリルや

レースやリボンで装飾されたエプロンが

ついたエプロンドレススタイルである。

 いつもはそっけない黒のゴムで結って

ある栗色の髪は、今日はドレスと同じ

赤いリボンで二つのお下げに結われて

いて魅力が増して見える。

「何か問題でも?」

「べ、別にないけどさ!!」

 勇者ユーリアは魔王が何故文句を言って

いるのか全く分かっていなかった。

 スカートをつまみあげ、首をひねって

いる。

「か、可愛いとか思ってねえし!!」

「……は?」

「いや、なんでも、ない」

 顔を赤らめながら魔王はそう言うが、

ユーリアが首をかしげたので小声で

なんでもないと言った。

 ユーリアは再びスカートをつまみあげ、

栗色の瞳で魔王を見つめながらくるりと

一回転して見せる。

 ふわりとスカートが一瞬舞い、そして

元に戻った。栗色の三つ編みの髪が揺れる。

 魔王はユーリアが可愛いと思いつつも、

ただ素直に慣れていないだけなのだが、

ユーリアは気づいていないようだ。

「似合いませんか……」

「に、似合ってない訳じゃ、ない、と思う」

「はっきりしていただきたいのですが」

 魔王は菫の花を思わせる紫の瞳を潤ませた。

まるで女の子みたいに大きい目である。

 こんなのが魔王で本当に大丈夫なのだろう

か、とユーリアはつい思ってしまった。

 まあそのおかげでこの世界は平和なのだ

けれども。

「そういえば、魔王に聞きたい事があり

ました」

「な、なんだよ?」

「……魔王の名前って、まだ聞いてません

でしたよね」

「おせえよ! 今聞くのかよ!? もっと前に

聞けよ!!」

 そういえば魔王は勇者に名前を教えて

いなかった、と気づく。

 ユーリアも興味がなくて聞かなかった

のだが――。



「俺の名前は、あ、アンゴルモア、だ」

「そうですか、私の名前はユーリアです」

「ゆ、ユーリア、な。一応覚えとく」

「無駄にかっこいい名前ですね魔王の名前は」

「無駄って言うなああ!!」

 ユーリアは顔を赤らめそっぽ向く魔王をスルー

して持っていたバスケットを漁り、可愛らしい

小袋に入ったお菓子を彼に手渡した。

 無駄にかっこいい名前と言われた魔王が喚く。

「これ、カーニバルで売るお菓子です。よかったら

味見してみてください魔王」

「結局魔王って呼ぶのかよ! ん? カーニバル

ってなんだ勇者?」

「ああ、まだ説明していなかったですね。今日から

しばらくこの村ではカーニバルと呼ばれるお祭りが

始まるんです。規模は小さいですけどね」

「というか魔王も私の事勇者って呼んでますが」

「う、うるさいな!!」

 魔王は勇者の突っ込みにムッとしつつ袋を開けた。

中にはチョコチップがまぶしてある小さなクッキーや、

しっとりと柔らかい手触りのパウンドケーキが

入っていた。

 香ばしい匂いに思わず魔王の腹が鳴る。

再び赤くなってわたわたする魔王だったが、ユーリアは

すでに違う事をしていた。

 愛しい妹シーナといろいろ話し合っている。

ちぇっ、と小さく呟きながら魔王はそれらを齧ってみた。

「う、美味い……!」

 食べた事もないくらい美味かった。

まあもっとも、魔王が住んでいる魔界と勇者が住んでいる

人間界では料理に隔たりがあるのだが。

 クッキーはサクサクふわふわしっとりでいい感じに焼き

あがっていた。美味しそうな狐色をしていて、どれも焼き

むらがない。

 甘すぎず、苦すぎないのが特徴の上品なお味だった。

パウンドケーキには微量なお酒が入っているのだけれど、

それが多少の苦みを感じさせてフルーツの甘さとよく

あっていた。

 大人でも食べられそうである。

魔王は瞬く間にそれを平らげてしまった。

「どうでしたか?」

「う、美味かった……」

「ん? その手はなんですか?」

「もう一個、よこせ。っていってえぇ!!」

 ユーリアは図々しく告げて手を差し出してきた魔王の

小さい手をひっぱたいた。もちろんかなり手加減をして

の事だが、魔王は涙目になっている。

「何すんだよ!?」

「よこせってとは何ですかよこせとは。これはあなたの

略奪品ではなく、私が好意で手渡した物ですそれを

忘れないように」

「た、叩く事ないだろぉ!」

「態度にむかつきました」

「ううっ。に、人間の癖に生意気だぞお前」

 ユーリアは魔王が鼻をすすったので仕方なくもう

一個だけクッキーの袋を上げた。

 魔王はすぐさま機嫌を直しクッキーに齧りついている。

魔族ではあるけれどそれはユーリアの妹とあんまり

変わらない。ユーリアは微笑ましくなった。

「あ、いらっしゃいま――」

 と、村の入り口に誰かが入ってくるのが見えたので

ユーリアは無表情のままで声をかけようとした。

 その顔が青ざめ、言葉が途切れる。

「……勇者?」

 魔王が発した声さえも彼女には聞こえていないようだ。

ユーリアの体が小刻みに震えていた。

 一体何があったのか魔王は訳が分からない。

「な、何故、あなたが……?」

「久しぶりだね、俺の愛しいユーリア。全然連絡をくれ

ないんだもの寂しかったよ。せっかく君の村でカーニバルが

始まると聞いて来たのにごあいさつだな」

 ユーリアが持っていたバスケットが地面に零れ落ち、中に

入っていたお菓子の袋を地面にばらまく。

 魔王は困惑したように震えるユーリアを見つめていた――。


 勇者の村でカーニバルが開催されます。

そのカーニバルの日にたまたま遊びに来た

魔王様。しかし、唐突に現れた男に勇者は

何故かひどく怯え……?

 四話目です。魔王の名前がここで

明かされます。

すみません、魔王の名前をアンゴルモアに変更

しました。イヴリスは別のキャラに差し替えたい

と思います。

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