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魔族の秘密と魔王の想い

 魔王アンゴルモアは、目が覚めた時

なんだか花のような甘い香りが周囲に

漂っているのを感じた。

 何の匂いなんだろう、と手を伸ばすと、

何故か柔らかい感触が手に残る。

 布団ではない。自分はちゃんと、布団を

かけて寝ている。ならばなんなのか――?

 と魔王は一瞬思い、そして紫の瞳が

ぱっちり覚醒する。

「な、な、な……っ!?」

 魔王の顔が瞬時に真っ赤になった。

かつてないほど、頭が沸騰して何も考えられ

なくなる。

 それもそのはず、ベッドで寝ていたはずの、

勇者ユーリアが魔王に抱きつくような態勢で

眠っていたのである。

 魔王が触れたのは、ユーリアの腕だった、と

いう訳だった。

 ううん、とユーリアが呻くような寝言を

上げながらさらに魔王にくっつく。

 さらさらとした栗色の長い髪が手に触れ、

さらに甘い匂いが

濃厚になり魔王はカ――ッ、と自分の顔が

熱くなっているのを敏感に感じた。

「な、ななな何してんだよ!」

 魔王が大声で喚き立てると、ユーリアは

栗色の瞳をうっすらと見開いて辺りを

見回していた。

 次いで、魔王がそばにいる事に気付い

たのか目をこすりながらあいさつする。

「アンゴル、おはようございます」

「あ、おはよ……ってそうじゃなくて!」

「一体、どうしたんですか?」

 ユーリアは本気でこの状況がなんでもない

事、だと思っているのだろうが、魔王に

とってはなんでもない事であるはずが

なかった。

 涙目になりながら真っ赤な顔で抗議する。

「な、何でユーリアが床で寝てるんだよ!? 

 俺が、ベッドを譲ったはずだろ!?」

「……そういえば、そうでしたね……」

 ユーリアはどうやらまだ少し寝ぼけていた

ようだ。

 少し考えるように顎に手を当て、そして

魔王の目を見つめて謝った。

「ごめんなさい、狭かったですね。水を飲む

ために一度起きた時、うっかり寝床を間違えて

しまったようです」

「……っていうか何でお前そんなに冷静で

いられてるんだよ――っ!」

 魔王の絶叫が館中に響き渡った――。



 女性陣がお湯が張られた浴槽でお風呂を

楽しんだ後、一同は朝食を取る事にした。

 ユーリアが悪気なく魔王も一緒に入り

ますか、と問うて、入る訳ないだろ、

馬鹿!と真っ赤になりながら魔王が

ユーリアに悪態をついたのは余談

である。

 その後、ユーリアがリル・フェイ・

シェイラとサーリヤ=リステイカに呆れ

られ、魔王に同情の視線が集まったのは

言うまでもない。

「そういえばさ、魔王っていくつなの?」

「へ!?」

 唐突に聞かれたリルの質問に、果物の

ソースがかかった鳥肉のソテーを食べて

いた魔王は思わずお肉を飲みこみそう

になった。

 慌ててよく噛んでから口の中のお肉を

飲みこむ。

「な、何だよ藪から棒に……」

「いや、なんとなくいくつなのかな、って」

「そういえば、君は魔族――というか魔王

だったな」

 見た目的にはかなり幼く見える魔王。

しかし、彼は魔族の王だ。無論、見た目年齢に

実年齢が伴わない事を彼女達は知っている。

「私も気になります、魔王はいくつなの

ですか?

「私も、気になるな」

「といっても、魔族ってのは成長が遅いんだ。

今は俺だって子供のように見えるかもしれない

けど、いつかは父様のように立派に――」

「――なれるのかなあ、魔王に。ちびっこなのに」

「まだ分からないだろ! っていうか俺、リルや

サーリヤやユーリアより年上なんだからな!?」

 魔王が幼く見えるのは、まだ魔族にとっては

子供という年齢だからだ。

 無論、魔族は成長が遅い長寿な種族のため、

その年齢はこの中で実は一番上である。

 この館にいる魔王以外の全員の年齢を足した

とて、彼の実年齢にははるか及ばない。

「……それで、いくつですか?」

「お前、本当に動じないな……三百歳だよ」

『さ、三百!?』

「そうですか……それは私達より年上でも仕方

ありませんね」

 魔王はユーリアに何度突っ込んでも通じない

のは分かっていたので、それは無視して絞り

立てのオレンジジュースを飲む事にした。

 またもや魔王がユーリアに頼まれて作った

氷が入っているので、冷たくて喉に心地いい。

 自分が、今より背が高くなって幼さが抜けた

顔立ちになった時、ユーリアはどんな反応を

するのだろうか。

 驚いてくれるのか、それとも無反応なのか、

それとも今の自分と同じようにドキドキして

くれるのか。

 早く、もっと大人になりたいと魔王は

思った。

 今のままでは、ユーリアは自分を子ども

扱いしかしない。

 自分がもっと男っぽかったら、ユーリア

だってきっともっと意識してくれただろうに、

子供みたいな姿だからいつまでも子ども扱い

のままだ。

 魔王がそう考えている事など全く気が付かない

ユーリアは、果物のソースがかかった柔らかい

鳥肉のソテーを上品に平らげ、果物のペーストが

かかった白いパンをちぎりながら食べ、色鮮やかな

果物入りのサラダまですっかり平らげてしまい

席を立っていた。

 サーリヤとリルも夢中になって料理を

食べている。

 リルが魔王の手を付けていないサラダを

横取りしてケンカになってサーリヤとユーリアに

止められるという事件が勃発するのはこのすぐ

後だった――。

 今回はうちの魔族の秘密と

魔王の想いについて書いて

見ました。

 寝起きドッキリです!

(いろんな意味で)

 勇者が寝ぼけて魔王の

布団に……な冒頭です。

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