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魔王様と勇者の共同作業と氷菓

「――あ~、すっきりしたぁ~」

 いかにもおかしそうに笑いながら、

リル・フェイ・シェイラはぱたぱたと

足音を立ててリステイカ邸を歩いていた。

 今日もまた、兎の耳のように赤みの

強いふわふわした二つ結びが揺れる。

 隣を歩くのは、女主であるサーリヤ=

リステイカその人である。

 炎のような一つに結われた赤い髪を

揺らし、同色の瞳にどこか困ったような

色を浮かべていたけれど、求婚者である

ルーストをかばってはいなかった。

「あいつの顔ってば、ほんと見物だった

よねぇ~」

 リルは元来優しい娘であったが、この

家の主であるサーリヤの求婚者の態度に

よっぽど腹立たしかったのか、彼に

対しては少し意地悪な気持ちを抱いて

いるようだ。

 赤みの強い瞳を楽しそうにくるくる

動かしている。

「……俺は、さすがに気の毒だったかも」

 後ろを歩く魔王アンゴルモアが、げんなり

した様子で呟いた。

 私はどうでもいいです、と勇者ユーリアが

肩をすくめる。

「私は、勇者だと名乗りたくなかったんです

けどね」

「え~いいじゃない、たまには自分の身分を

利用したって」

「ひけらかすのが嫌なんです」

「――ひけらかしてないもん!」

 お、おい!?と魔王が紫の瞳を見張る中、

ユーリアとリルの言い合いが始まって

しまった。

 といっても、熱くなっているのはリル

だけで、ユーリアは無表情のままだ。

「大体、好き好んでリルもユーリアもその

役割りになった訳じゃないんだし、こういう

時くらい利用するのもいいじゃない!」

「それを、ひけらかしている、って言うん

ですよ」

「ち・が・う――っ!」

「お、おい! 人んちで言いあい

すんなよ!」

「止めるんだ、二人共!」

 結局、魔王とサーリヤが間に入る事で

ケンカは終結したのだが、リルはその後も

膨れっ面で、ユーリアはユーリアでムッと

なっているのかリルと目を合わそうと

しなかった――。



 という訳で、リルはサーリヤと、魔王は

ユーリアとのペアに分かれて行動する事に

なってしまった。

 おい、と魔王がユーリアに声をかける。

「ユーリアらしくないぜ、ケンカする

なんてさ。さっさとリルと仲直りしろよ」

「――私らしいって、何ですか?」

「えっ?」

「魔王は、私の事なんてほとんど知らない

じゃないですか、いい加減な事を言わないで

ください」

「あ……」

 さっ、と魔王が青ざめて口をつぐむ。

ユーリアはさすがに言い過ぎたと思ったのか、

少しかがんで魔王と同じ目線になるようにすると

彼に謝って金色の髪を撫でた。

「ごめんなさい、八つ当たりでした。……私、

本当に今日はどうかしていたようです」

「お、俺も、適当な事言っちゃってごめん」

「「……」」

 二人はしばし無言になった。

魔王は傷ついたのを隠すためにただ黙り、

ユーリアは魔王に酷い事を言ってしまった、

と反省の気持ちになっていたのである。

 魔王が場を明るくしようとわざと声を張り

上げたのは、それから数分経ってからだった。

「そ、それにしても暑いよな!?」

「え? ……そ、そうですね。ここは暑い

地域のようですし」

「こういう時、冷たい物が食べたいよな……」

「ここの地域では、あまり冷たい食べ物や

飲み物は売られていないみたいですね」

 と、あっ、とふいにユーリアが声を上げた。

怪訝そうな顔をする魔王の手を掴む。

 かあっと赤くなりながら魔王は喚いた。

「な、何だよお!?」

「いい事思いつきました、協力してください、

魔王」

 栗色の瞳を珍しくきらきら輝かせ、少し

嬉しそうに微笑むユーリアに、魔王が

ノーと言える訳もなかった――。



 魔王がユーリアに連れて行かれたのは、

厨房だった。無論勝手に入ったり作業する

のは駄目なので、厨房にいたメイドさんに

断りを入れてから入る。

 髪の毛が混入したら困るので、長い栗色の

髪を黒い地味な髪留めでアップにする。

 ユーリアの白いうなじが剥き出しになって

魔王は少しドキッとした。

 それを気取られないように、幾分乱暴な

調子で問いかける。

「一体、何するんだよ?」

「氷菓を作るんです」

「ヒョーカ?」

「冷たいお菓子の事ですよ、アイス

クリームとか……」

 魔王に首をかしげられたユーリアが

苦笑する。そして、魔王の方にポンと

手を置いた。

「氷、作れますか? あなたは、魔力の

使い方が私より上手いのでコントロール

出来ると思ったのですが」

「ま、まあ多少の制御は出来るけど……」

 魔力の使い方が自分より上手い、と

ユーリアに言われた魔王は少し照れくさ

そうな顔をしたけれど、作業に夢中な

ユーリアは全く気付いていなかった。

 銀製のボウルやホイッパーなどの道具を

次々と揃えている。

 むぅっと魔王は唸りながらも、集中して

魔力を制御し、氷の魔術で氷をいくつか

作り出す。

 ユーリアはそれをボウルに入れ、塩を

入れて混ぜ始めた。

 もう一つボウルを出し、塩と氷を入れた

ボウルに重ねるようにしてから生クリームと

牛乳と砂糖、卵とバニラエッセンスを入れて

ホイッパーで混ぜる。

 俺も手伝うと魔王が言おうとしたが、非力な

魔王には無理なので引っ込んでいてください、と

そっけなく言われてしまい魔王は落ち込んだ。

 十分くらい経った頃だろうか、それは見事に

固まって立派なアイスクリームとなったの

だった。

 さらにユーリアは、似たような要領で手作り

した林檎ジュースと桃ジュースを使用して、

林檎シャーベットと桃シャーベットのような

物を作り上げた。

 多めに作ったので、味見として作ったのを

魔王と一緒に食べる。

「う~っ、つめてぇ――っ! でも

美味い~っ!」

「即興で作ったにしては、なかなかですね。

これなら、リル達にも食べてもらえそうです」

 メイドに頼んでアイス三種類を氷室で

冷やしていてもらってから、魔王とユーリアは

サーリヤとリルに会いに行った――。





 涼しくなったけど、まだ暑い!

そんな時に思いついたお話でした。

 ユーリアは大分大人びていますが、

まだ子供っぽさはあるという感じです。

 今日のおやつはアイスクリームと

桃と林檎のシャーベット(みたいな

物)です!

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