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傲慢な求婚者

 勇者ユーリア、魔王アンゴルモア、

宮廷魔術師リル・フェイ・シェイラの

三人は、サーリヤ=リステイカに案内

されてリランタ国へとやって来た。

 リランタはかなり気候が暑いが、その

代わり果物が育ちやすく、果物栽培で

有名な国らしい。

 サーリヤの家も、果物栽培で成り

立っているらしかった。

「いい匂いが、しますね」

「甘い匂いだね~」

「結構匂いきついな」

 三者三様の反応を示しながら三人は

なおも歩いていく。と、サーリヤが

ふいに足を止めた。

「あれが、私の家だよ」

 サーリヤの家は華美ではないけれど、

上品な装飾に彩られたいい家だった。

 大きさはそんなに広くはないが、

やっぱり村人であるユーリアの家

よりは大きい。

 遠慮なく入ってくれと言われた

ので、ユーリア達は無論遠慮は

しなかった。

 三人の使用人しかいないと言って

いたけれど、魔王はともかく、

ユーリアの家は使用人自体がいない

ので、いる事自体凄いんじゃないかと

彼女は思ったが黙っていた――。



「さあ、遠慮せずに食べてくれ。

さっきは、君達の食事を奪うような

事をして悪かったね」

 一人だけいるメイドに命じて、

サーリヤは果物がたくさん載った皿を

取って来させた。

 綺麗に色づいて甘い香りをまき散らす

果物の数々に、わぁ、とリルと魔王が

声を上げる。

 ユーリアははしゃぎはしなかったが、

一切食事をしていない彼女はお腹が空いて

いたので少しだけ口元をほころばせた。

 彼女の村ではあまり果物は栽培されない

ので、果物自体が珍しかった、というのも

あるが。

 桃、ぶどう、ライチ、苺、林檎、梨、

オレンジなどなどを次々と気持ちのよい

食欲で平らげていく三人を、サーリヤは

嬉しそうに見ている。

 と、その時だった。

「――お嬢様! また、あの方がいらして

います……」

「また彼、か? 今は客が来ているという

のにあの人は……」

 一人だけの家令が来客を告げる。

どうやら、サーリヤにとっても家の人達に

とってもあまり好ましくない人物らしく、

一人だけの使用人もメイドも家令も皆

一様に嫌そうな顔になっていた。

 許されてもいないはずなのに、勝手に

ずかずかと家に上がり込んで来た件の

人物は、ユーリア達など見向きもせず

真っ直ぐサーリヤの元へと歩いていく。

「――困ります! 今は来客中です、

勝手に入られては……っ!」

「黙れ、使用人風情が」

 言われて当然の抗議を家令がしたが、

その人物は見下したような視線で彼を

見て言い捨てた。

 家令は悔しそうな顔で黙る。

「上級貴族の俺に、お前が命令をするな」

 使用人を同じ人間としても見ていない

ような彼の態度に、サーリヤと他の二人

だけでなく、ユーリアと魔王とリルも

嫌そうな顔になった。

 ユーリア達はサーリヤにも、家令達

にも会うのはこれが初めてでは会ったが、

知り合った人を侮辱されるのはとても

不快な気分である。

「……うちの者を侮辱するのはやめて

いただきたい」

 サーリヤが家令をかばうように前へ

出た。その表情は明らかに迷惑そう

なのが見え見えだが、彼はそう思って

いないようだ。

 淡い青の長い髪を後ろで一つに

結わえ、切れ長の青の瞳を得意げに

きらめかせている。

「ルースト=レイド様、いつも、

前触れもなくいらっしゃるのは困り

ます。私達だって、来客を迎える準備と

いう物がありますし」

「何を言っている、いずれお前は俺の妻と

なるべき女だ。未来の夫が、前触れもなく

来て何が悪い」

「――その話は、断ったはずです!」

 サーリヤが吠えるように怒鳴った。

ルーストと呼ばれた人物は、どうやら彼女の

求婚者らしいが、すでに彼女を自分の

所有物とみなしているようだった。

 きっと、女は家を守り子供を作るための

道具だと考えているのだろう。

「僕は上級貴族だぞ、こんなしみったれた

家で暮らしているなんてお前には似合わない。

いくらでも好きな物を買ってやるし、いくら

でも贅沢をさせてやるぞ」

「私は、贅沢もしたくありませんし、今の

ままで十分です。大きな屋敷も、たくさんの

使用人もいらない、彼らとずっとここに暮ら

せれば……。それに、今は来客中です。申し訳

ありませんが、出て行ってもらいたい」

「上級貴族の僕に、逆らうのか!? それに、

こいつら平民だろう? 僕より優先すべき輩

には見えないな」

「なっ……!?」

 平民扱いされた魔王がかっ、と赤くなった。

リルはむぅ、と声を上げ、ユーリアはただ

黙っている。

 サーリヤもカッとなったらしく、ルースト様!

と声を荒らげた。

 それを手で制して、引きつったにこにこ笑顔を

浮かべたのは、リルだ。

「――初めましてルースト様。宮廷魔術師の、

リル・フェイ・シェイラと申します」

 宮廷魔術師を強調してリルは言った。

相当に腹が立ったのだろう、案に、お前より各

上だ、と告げていた。

 上級貴族とはいえ、貴族であり宮廷魔術師で

あるリルの方が少なくとも彼より上の立場だ。

「きゅっ、宮廷魔術師!? しかも二つ名

持ち……」

 案の定、ルーストは青ざめて声を裏返らせた。

リルの素性を知らなかったサーリヤが、驚きに

目を見開いて固まる。

 続いて、リルと魔王に肩をつつかれた

ユーリアが、嫌そうな顔になりながら前へ

出た。

「――私は、勇者ですがそれが?」

「ひっ……!? ゆ、勇者!?」

 さすがに魔王だけは名乗らなかったが、

それが賢明だろう。

 淡々と言われた冷たいセリフに、もはや

ルーストはさっきの威勢をどこかにかなぐり

捨てて来たように震えていた――。

 問題児ルースト君登場です。

とことん嫌な奴として書いたので、

ラストのシーンでスカッと

しました。

 ユーリアはこういう時名乗り

たくないのですが、急かされた

ので仕方なく名乗りました。

 リルは自分の立場は有効活用

する子ですけどね。

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