空想の街のきつね8日目
おかしい…。体が動かない…それに頭も重いしすごくだるい…。朝起きたらこんな状態だ。「なんだろう?」あたしは何とか体を起こすとベッドからでた。だけどふらふらと眩暈がする。寝不足ではないはずだ。昨日は早く寝たのになあ…。まあそのうち治るかな?準備しよう。 #空想の街 #狐
「おはようございます…」「おはよう。あまねちゃん。あら?あまねちゃん顔真っ赤だよ」ハーヴェストに行くとみどりさんはあたしの顔を見るなりすぐ近づいてきて、あたしの額を触った。「すごい熱…。あまねちゃんあなたこんな状態でどうして来たのよ」熱?熱って?風邪とかの? #空想の街 #狐
「今日は休みなさい。家で寝てなさいな」みどりさんはちょっと怒ったように言った。あたしは「大丈夫ですよそのうち治ります」って言ったら、却下された。しかも「うーん…。心配だなあ…よし今日はハーヴェストは臨時休業するわ。わたしがあなたの看病します」なんて言ってきた。 #空想の街 #狐
え?臨時休業って?それに看病って…。申し訳なさすぎるよ。あたしは大丈夫です。って何度も言ったけれど、それはもう決定事項らしい。うー…また迷惑かけちゃったよ…。あたしはみどりさんに連れられて自分のアパートに向かった。 #空想の街 #狐
アパートに着くとすぐに寝かされた。顔が熱いし頭も痛くなってきたみたい。みどりさんはあたしの額に濡れたタオルを載せては交換してって何回もしてくれた。気持ちい。それにしてもこれが風邪なんだ。あたしがこの街に来て初めての経験だ。 #空想の街 #狐
「そういえば、あまねちゃん昨日からおかしかったものね」とみどりさんは言った。そういえばそうだった。昨日はものすごく眠くて、あたしはただ疲れてるだけだと思っていたんだ。あれって風の前兆だったの?「さあ寝なさい。今はゆっくり休むことだけ考えなさい」 #空想の街 #狐
みどりさんはやさしくあたしを安心させるように言ってくれた。よかった。もう怒っていないみたい。でも本当に申し訳ないなあ…。臨時休業までさせてあたしなんかの看病なんて…。あたしはそんなことを考えていたらいつのまにか意識が遠くなっていった。 #空想の街 #狐
ぼんやりと意識が浮上した…。遠くで声が聞こえる…。「あまねちゃんの面倒はあたしが見てるから、あんたは薬買ってきな」あの声はお隣のおばさんの声だなあ…。「はい。お任せしますね。すぐに戻ります」みどりさんの声もする…。二人って知り合いだったっけ? #狐 #空想の街
ぼーっとした頭ではうまく考得られない…。あたしは意識が浮上してぼんやりと天井を見ていた。するとすぐ近くから声がした。「おや?目が覚めたかい?まだ顔色は良くないねえ。お腹空かないかい?」なんで隣のおばさんがいるんだろう?「…食欲ないです…」と答えると #狐 #空想の街
おばさんは「でも何か腹に入れとかなきゃだめだよ。よし!お粥作ってきてあげるからね。ちょっと待ってな」そう言うとあたしの部屋を出て行った。あーそうか…あたし風邪引いてお店休んで寝てたんだっけ…。ようやく思い出した。みどりさんはどこに行ったんだろう? #狐 #空想の街
お店に戻ったのかな?しばらくするとおばさんがお粥を持ってきてくれた。「ほら。少しでもいいから食べな。あんたの好きなお揚げも乗せておいたよ」とお粥を差し出された。正直食欲なかったけれど、せっかくなのでいただいた。…温かい…… #狐 #空想の街
頑張ったけれど結局お粥は半分残してしまった。そして食べ終わった頃みどりさんが帰ってきた。「あら?起きちゃったの?大丈夫?」「…まだ駄目みたいです。ごめんなさい…」あたしは正直に答えた。どうやらお薬を買って来てくれたみたい。すぐにコップに入ったお水とお薬を渡された #狐 #空想の街
お薬は人用と動物用(犬用。狐はイヌ科だから)か悩んだけど人用にしたんだってお薬を飲んだらまた眠くなってきた。「みどりさんお店に戻って下さい。ちゃんと寝てますから」とあたしは言ったけれど、やっぱり却下された。ごめんなさい。あたしは心の中でそう言うとまた眠りについた #狐 #空想の街
次に目が覚めた時はだいぶ身体が楽になっていた。お薬が効いたのかな。今はみどりさんしか居ないみたい。あたしは「おはようございます…」と声をかけると「ん。気分はどう?まだ辛い?」とやさしく返してくれたけれど、みどりさんは心配そうにあたしの顔を覗く。 #狐 #空想の街
「さっきよりはだいぶ楽です」と答えたらほっとしたようだ。みどりさんはにっこり笑った。そしてあたしはある物に気づいた。いや、ある物達かな…。小さな2人用の机の上いっぱいに何か置かれていた。あたしは「みどりさん。あれはなんですか?」って聞いた。 #狐 #空想の街
そしたらすごく優しい笑顔でみどりさんは言った。「全部あまねちゃんへのお見舞いだよ」って。うそ…。こんなに?「どこからかあまねちゃんが風邪で倒れたって広まっちゃったみたい」と、みどりさんは付け加えた。信じられないよ…。気が付くと何か温かいものが目からあふれてきてた #狐 #空想の街
これは何?どんどん溢れてくる…。「みんなあまねちゃんのことが好きなんだよ」と、みどりさんに言われた時、あたしの中の何かが破裂した。「うあぁぁぁぁん!」あたしはみどりさんにしがみついて泣いた。お母様が死んだ時だって泣けなかったのに…。あたし泣けるんだ…止まらないよ #狐 #空想の街
お見舞いの品にはうどん屋さんはもちろん。何回かしか会ったことがないハチミツ屋さんの物まだある…。ほかにもたくさん。嬉しくて嬉しくて涙が止まらないよ。あたしこの街に居ても良いんだ。人間じゃないけどこの街にいていいんだ…。#空想の街 #狐 #ルグッグ蜜蜂の巣箱 #うどん屋
泣きじゃくるあたしの頭と背中をみどりさんは優しく撫で続けてくれた。あたしはひとしきり泣いた後「みんなありがとう」と小さく呟いた。しばらく経ってみどりさんは「ちゃんと寝てるのよ。治るまで出勤禁止だからね。それとご飯もちゃんと食べる事」と言うと帰って行った #空想の街 #狐
あたしの風邪が治るまでお隣さんが面倒見てくれることになった。みんな優しすぎるよ。ここには昔のあたしは居ない。お母様を殺した人間は許せないけど、あたしは人間が好きだ。あたしはお母様の好きだったこの街が好きだ。それはもう変わることがない。あたしの心に深く刻まれた。 #空想の街 #狐
数日後。ようやく風邪が完治した。今日からまたお仕事。あたしの名前は「あまね」フラワーショップ・ハーヴェストで働く「白狐」だ。今日もがんばるぞ!朝露の香りがする街の中を白い尻尾を振って歩く。ハーヴェストで今日も皆様をお待ちしています。おわり。 あまねきつね #空想の街 #狐
【感謝】あまねきつねこと日下部あまねです。区切りをつけたかったので一応あまねの物語はこれでおしまいです。これから先はあまねの番外編ということで時間軸とか無視したお話を書かせてもらうかもしれません。お付き合いいただいた皆様及び企画者様本当にありがとうございました。 #空想の街 #狐