ソラフグの空
【設定】
空想の街参加の“ソラフグの空”の設定・ヨーズィ:数少ないソラフグ漁の漁師で、一番の漁師でもある。酒好きでスリルが好き。妻には逃げられた。 #空想の街 #ソラフグの空
空想の街参加の“ソラフグの空”の設定・ソラフグ(1):成人男性4人分ほどの大きさの空の魚。数百尾から数千尾の群れを作る。泳ぎが速く、気も荒く、漁の際は危険。体当たりや鋭い牙で齧つたりするだけではなく、体液は電気をもち粘る雲にもなる。ソラクジラが主食。 #空想の街 #ソラフグの空
空想の街参加の“ソラフグの空”の設定・ソラフグ(2):身は美味で、内臓や骨や目玉などは薬にもなり、皮は丈夫でしなやかでバッグなどの加工品に使はれる。 #空想の街 #ソラフグの空
空想の街参加の“ソラフグの空”の設定・ソラフグ(3):粘膜は身を守るためだけではなく、獲物を狙ふ際にも使ふ。粘る雲にして視界を奪ふと共に動きを阻害し、さらに電気で追ひ詰める。群れの作る電気はまさに大きな雷そのもの。 #空想の街 #ソラフグの空
空想の街参加の“ソラフグの空”の設定・ソラフグ(4):基本的に上空を飛んでゐるため、街に被害を与えることはない。ただし、嵐などで群れからはぐれ傷ついたソラフグがゐた場合は別。 #空想の街 #ソラフグの空
空想の街参加の“ソラフグの空”の設定・ソラフグ(5):上空の群れの所まで戻れないほど傷ついたソラフグ1尾でも、その巨体さと凶暴さと粘膜の性質で建物を壊し人や動物を襲ひ被害を与える。 #空想の街 #ソラフグの空
空想の街参加の“ソラフグの空”の設定・ソラクジラ(1):空を飛ぶ非常に巨大な鯨。頭から尾の先端までで街の半分近くになるほどの巨体で、あまりに大きすぎるために漁の獲物にはされない。 #空想の街 #ソラフグの空
空想の街参加の“ソラフグの空”の設定・ソラクジラ(2):非常に温厚で頭も良く、大きさゆゑに力も強い。主食は白い雲。 #空想の街 #ソラフグの空
空想の街参加の“ソラフグの空”の設定・ソラクジラ(3):かつて街の漁師にソラフグに齧られた傷を手当てされた個体がいくつかゐるらしく、嵐などの際にはその巨体で街を守る壁になつてくれることもある。 #空想の街 #ソラフグの空
バリバリに空を引き裂く雷の竜巻になるソラフグの群れ / ソラフグの粘膜光る 舵握る身体が痛む 手に血が滲む #空想の街 #ソラフグの空 #tanka #jtanka
隕石のやうな魚体をすり抜ける ナルジアの矢の照準をシッカリ覗く / ソラフグの牙がゲイガに向く前にナルジアの矢を無数に放つ #空想の街 #ソラフグの空 #tanka #jtanka
見た目はフグそつくりのトボけた姿だが、ソラフグの生態はフグのそれと大きく異なる。大人の男4人分ほどの全長で、数百から数千の群れを作り、好物のソラクジラを見つけると瞬く間に骨も残さず食べ尽くす。実に獰猛な魚だ。 #空想の街 #ソラフグの空
ヨーズィのゲイガ号は空を目指して一筋の線になる。その直線が黒い影を貫く。直線は曲線になり影と絡まり雷光を撒き散らす。ヨーズィのソラフグ漁を地上から見ると、それだけしか見えない。 #空想の街 #ソラフグの空
大人1人が入れる程度のゲイガ号が2尾のソラフグをぶら提げて地上に降りた。フヒィと声を上げながら、中からヨーズィは出てくる。「さてさて解体といきますかいなごさん」ニヤニヤしながらヨーズィは石造りの道具小屋に入つた。 #空想の街 #ソラフグの空
「子供もねえ妻逃げたよおヨヨヨノヨ♪ 俺には酒の他にやあお前だけ♪ スリル溢れるお前だけ♪ ポッポポポ♪」ヨーズィは歌ひながら解体包丁を動かす。「身は旨えし腹に骨は気力になるし皮はしなやかルドルドル♪ 何よりスリルが良いのよプノプノプ♪」 #空想の街 #ソラフグの空
「ウヘェ、晴れちまつてやがる。これぢやあ漁に出れやしねえ」ヨーズィはもぞもぞと毛布から出ると、酒瓶に手を伸ばす。しかし瓶に酒は残つてゐない。「頭が痛え」ヨーズィはふらふらと立ち上がつた。 #空想の街 #ソラフグの空
「仕方ねえ、バラしたソラフグでも届けるか」ヨーズィは蛇口から水を飲む。親指でこめかみを押さへる。「届け先はどこだつたかな? クソッ、飲みすぎて忘れちまつた!」机を蹴飛ばし、新しい酒瓶を開ける。「飲みやあ思ひ出す」 #空想の街 #ソラフグの空
「大体よお、何で漁に行つてる俺が届けなきやあならんのよ。取りに来いつてんだ。そしたら俺は漁と酒だけで過ごせるのによお」ヨーズィは酒瓶に口をつけてグビグビと飲む。「酒えええのおおォ♪ 世おおおうワワダワダワダ♪」 #空想の街 #ソラフグの空
ドンドンッとヨーズィはオトトイ食堂の戸を叩いた。もちろん、ヨーズィは既に酔つてゐる。「酒、ヒック、いつもの酒えヒッ、一杯くれよおお、ウック、一杯だけで良いんだ、ヒッ、夜漁のねえ、ウッ、景気づけにはあああヒック、酒しかねえ」 #空想の街 #オトトイ食堂 #ソラフグの空
「だからあ、ヒッ、俺の漁は釣りぢヒック、釣りぢやあねえといつも言つてんぢやああああ、ウック、ヒッ、ああ、これだよ、これ、ヒック、星砂吟醸、ウック」 #空想の街 #オトトイ食堂 #ソラフグの空
「悪いねえねえネネネネネ♪ ヒック、ありがたうううハイィッ! また頼みますわ、ヒッ、ウック」#空想の街 #オトトイ食堂 #ソラフグの空
一般的に、ソラフグの夜漁は行はれない。確かにソラフグの動きは鈍くなるが、さういふ問題ではない。 #空想の街 #ソラフグの空
まづ夜に船の離着陸をすること自体が危険だ。また、ソラフグは大量の粘膜で身を守り群れで固まつて眠るため、鉄の雷雲と変はらない。その上、闇によりどのソラフグを仕留めるか狙ひを定められない。ただでさへ危険なソラフグ漁がさらに困難になる。 #空想の街 #ソラフグの空
ヨーズィは夜空を眺めながら酒瓶から直接に飲み干す。空になつた瓶を倉庫の隅に置くと、そのままゲイガ号に乗り込んだ。「軽く的撃ちにでも行きますかいすいよくはまだかいな♪」 #空想の街 #ソラフグの空
垂直に昇る黄色い光の線になつたゲイガ号はさらにぐんぐんと夜天を目指す。ぽかんと浮いたひとつ雲も黒い塊のソラフグの群れも越える。孤独に満ちた蒼い夜空に飛び込んでから、やつと速度を落とす。水平飛行に入り、空中の島となつたソラフグの群れを見下ろす。 #空想の街 #ソラフグの空
ゲイガ号は一度速度を緩めた。静かに船首を下方へ向ける。急降下、続くナルジアの矢、黒雲に雷の波紋、瞬きの光の連続、それを追ひ駆ける轟音。そして、夜天の雷嵐になる。 #空想の街 #ソラフグの空
「酒えええのおお命はああ短ああああくてええええ♪ と、ここだな、ここ」ヨーズィは乱暴に左手で戸をガンガン叩く。深夜で近所迷惑などとは考へない。「おい! 届け物だ! クモゾラガツオの鱗が欲しいつふのはここだらうが!」 #空想の街 #地下の硝子屋 #ソラフグの空
「ゐるなら早く出ろよ。大体な、俺はソラフグ漁をしてんだ。クモゾラガツオなんて雑魚は興味ねえんだよ。ああ、ついでだ。鱗だけぢや面白くねえから身や腹を瓶詰めにしといた。受け取つとけ」#空想の街 #地下の硝子屋 #ソラフグの空
「それはもう貰つた。お前からしたら作りたい物ぢやあねえんだらうが、光を反射しねえ強化硝子の窓がなけりやあ夜漁なんてできやしねえ」 #空想の街 #地下の硝子屋 #ソラフグの空
ソラフグの身の大雑把な部位ごとの特徴:【背身】引き締まつたタンパクな白身で、サッパリした脂が僅かに乗つてゐる。【腹身】よく脂が乗つてゐて、カンパチの腹身に近い。 #空想の街 #ソラフグの空
ソラフグの身の大雑把な部位ごとの特徴:【血合】生ではカツオに近く、火を通すと牛の赤身に近い。【縁側】旨味が濃く、骨に沿つた鶏のせせり(ネック)のやうな身をササミのやうな身が包んでゐる。 #空想の街 #ソラフグの空
ソラフグ関係の屋台:ソラフグの串焼き・ソラフグの鉄板焼き・ソラフグのスープ・ソラフグの革細工など #空想の街 #ソラフグの空
「ソラフグの串焼き、売れてるぜ」「おう」「ソラフグの鉄板焼きも良い感じだ」「おう」「ソラフグの革のサイフやバッグも売れてるらしいぞ」「おう」ヨーズィは前だけを向いて歩く。 #空想の街 #ソラフグの空
(ああ、クソッ! これぢやあ酒も飲めやしねえ! 俺は生活のためにソラフグ漁をしてるんぢやあねえ、あのギリギリの中でのソラフグとの真剣勝負のためだけにやつてるんだ! フェステバルだか売れるだか知らねえが騒ぐんぢやあねえ!) #空想の街 #ソラフグの空
「おい、ヨーズィ、花火の後に来るやうにつて、時任さんが言つてたぞ」「誰だそれ?」「おいおいおい、街主さんだよ」「おうおうおう、祭りの日にも仕事かよ、精が出るねえ」「お前が呼ばれてるんだよ」「ああクソメンド臭え」 #空想の街 #ソラフグの空
「ヨーズィ、時任さんのとこに行くなら伝へて欲しいことがあるんだ」「自分で行け」「さう言ふな。オニソラフグが出た。その一言で良い」「あん? オニソラフグ? そんなのただの噂話か伝説かなんかぢやあねえの?」「違ふ。23年前の7月の新聞を見てみろ」 #空想の街 #ソラフグの空
「新聞ねえ、事件にでもなつたのか。面白さうだ」ヨーズィはポケットから小さなウイスキーボトルを取り出し、開ける。グイッと飲むと、人々を文字通りかき分けて強引に進む。「相手によつちやあ、俺の獲物だ」ヨーズィは笑みを浮かべてゐた。 #空想の街 #ソラフグの空
時計塔の階段から地下図書館へ入ると、急に静かになる。外の喧騒も花火も彼方へ遠ざかり、取り残されたやうな静けさが溜まつてゐる。その静けさを乱暴に突き破り、ヨーズィは資料室へ真つ直ぐ進む。「あの、すみません。図書館内での飲食はご遠慮ください」 #空想の街 #ソラフグの空
ヨーズィは片手の小さなウイスキーボトルを飲み干し、注意に来た司書に押し付ける。「わかつたよ、もう飲み終へた。で、23年前の新聞はどこだ? 23年前の7月だ」 #空想の街 #ソラフグの空
23年前の7月の新聞記事まとめ(1):当時はソラフグが増え続け、それを追ふやうにソラフグ漁師も増え続け、大ソラフグ漁時代と言へるほどであつた。盛んなソラフグ漁で街が活気付くと同時に、増えすぎたソラフグによりソラクジラが激減してゐた。 #空想の街 #ソラフグの空
23年前の7月の新聞記事まとめ(2):そんなある日、最大のソラフグ漁師団のカッカケ漁師団が空で壊滅するといふ大事件が起きた。生き残つた漁師によると、わづか十数尾のソラフグによる被害だといふ。 #空想の街 #ソラフグの空
23年前の7月の新聞記事まとめ(3):また、カッカケ漁師団を襲つた十数尾のソラフグの群れは、ソラクジラではなく、他のソラフグの群れを襲ひ、食べてゐたといふ。その群れが、カッカケ漁師団にも襲ひかかつたさうだ。 #空想の街 #ソラフグの空
23年前の7月の新聞記事まとめ(4):そのソラフグの群れに対抗するため、カッカケ漁師団の残りとダダ漁師団を中心に、ほぼ全てのソラフグ漁師が空へと上がつた。しかしながら、生きて地上に降りてきた漁師は十名前後であつた。 #空想の街 #ソラフグの空
23年前の7月の新聞記事まとめ(5):三百名以上の漁師が亡くなる被害を出したにも関はらず、仕留めたのは2尾のソラフグだけだつた。その2尾のソラフグの身体は徹底的に調べられたが、普通のソラフグとの違ひは見つけられなかつた。 #空想の街 #ソラフグの空
23年前の7月の新聞記事まとめ(6):しかし、行動的な特徴はいくつか確認された。まづ他のソラフグを主食にすること。泳ぎが非常に早く、小回りも利くこと。粘膜を雲にして使ふことはなく、積極的に雷を発生させること。 #空想の街 #ソラフグの空
23年前の7月の新聞記事まとめ(7):このソラフグの群れの出現をキッカケに、ソラフグ漁は瞬く間に衰退した。一方、このソラフグの群れも他のソラフグの群れが減るにつれて出現することが減り、やがて見られることはなくなつた。 #空想の街 #ソラフグの空
23年前の7月の新聞記事まとめ(8):この、他のソラフグを食べる異常な群れのソラフグは、伝説に準へ、“オニソラフグ”と呼ばれるやうになつた。 #空想の街 #ソラフグの空
「風えええがあ呼んだあかああ♪ あいあいやああ♪ とな」ヨーズィは酒瓶片手に街主室の扉を蹴り開けた。「呼ばれえええましいいいたあので♪ デデデデエエデッ♪」ヨーズィはぐるりと見渡す。街主の時任ケイと漁師組合組長のルンダがゐる。 #空想の街 #ソラフグの空
「いやはや、皆様方、お揃ひで! 結構なあことです!」ヨーズィがニヤニヤと笑みを浮かべると、ルンダは舌打ちをした。「何で呼ばれたか、わかつてるはずだ!」「サッパリ。トイレの紙でも取つて来れば良いんですかね?」 #空想の街 #ソラフグの空
ルンダはヨーズィを睨む。「お前の空の飛び方に苦情が来てゐる、どこからだかわかるな!」「サッパリ。ソラフグからですかいわれだいこん」「違ふ! 魔法使ひの箒乗りたちや街に住む鳥たちからだ!」「ノロノロ飛んでる方が悪い。交通渋滞の元さ」 #空想の街 #ソラフグの空
ヨーズィはグイッと酒を飲んだ。ルンダがヨーズィに詰め寄つて襟を掴む。「それにな、お前の船が漁の船舶に見えないつふ話も来てるんだ、戦闘艇にしか見えない、つてな! わかつてるのか!」「そりやあ、元が戦闘艇だからな、当たり前だ」 #空想の街 #ソラフグの空
「お前なあ!」とルンダが拳を上げる。「落ち着いてください」と時任ケイの静かな声が響く。「ヨーズィさんも、あまり問題を起こすと飛行船舶免許を取り消さなくてならなくなります。わかりますよね?」ヨーズィは顔を歪ませて酒をグビリと飲んだ。 #空想の街 #ソラフグの空
「わかつた、わかつたよ。クソメンド臭え。ああ、さうだ。時任さんに伝言があつたんだ。オニソラフグが出たんだとよ」「ウソだ!」「本当ですか?」ヨーズィは酒瓶に口をつける。そして、そのまま飲み干す。それから、ふたりに視線を向けた。 #空想の街 #ソラフグの空
「本当かは知らん。さう伝へるやうに言はれただけだ。見間違ひかもしれんしな。だが、これで俺の免許を取り消し難くなつたんぢやあねえのか?」街主の時任ケイは静かに首を振つた。「オニソラフグの情報が確認されたら、ソラフグ漁はしばらく禁止です」 #空想の街 #ソラフグの空
「はあ? おい、ふざけるな!」ヨーズィの怒鳴り声が響いた。それを時任は静かに見つめる。「もちろん、今すぐ禁止するわけではありません。本当にオニソラフグなのか、確認をしてからです。しかし確認できたら、禁止せざるえません」 #空想の街 #ソラフグの空
「嘘だらう? さう言へよ!」ヨーズィの言葉に時任は首を振つた。「ソラフグ漁だけではなく、時計塔より高く飛ぶことも禁止します。漁師組合も、調査に協力してくださいね。お願ひします、ルンダさん」ルンダは「ああ、ああ」と小さく頷いた。 #空想の街 #ソラフグの空
「チクショウ」とヨーズィは頭をかいた。クルリと向きを変へる。その背中に時任が声をかける。「どこへ行くんですか?」「夜漁だよ」「あれでも、ですか?」時任が窓から空を指差した。ヨーズィはため息を吐いて窓際へ歩き、眺める。「何だありやあ!?」 #空想の街 #ソラフグの空
空全体が赤い風船で覆はれてゐる。時任は穏やかに笑みを浮かべた。「ぶくぶく風船ださうです。あれでは今夜は飛べないと思ひますよ?」ヨーズィは「ワケわかんねえよ」と呟いた。 #空想の街 #ソラフグの空
ヨーズィは、ソラフグの半身の後ろ半分を荷車に乗せて、オトトイ食堂の前まで来た。半身の後ろ半分とはいへ、ソラフグは大きい。大の男3人分の重さはある。「ひよの女将さん、ソラフグの身を持つて来たよ」眉を寄せて挑みかかるやうな顔をしてゐる。 #空想の街 #オトトイ食堂 #ソラフグの空
ヨーズィは、ソラフグの半身の後ろ半分を荷車に乗せて、オトトイ食堂の前まで来た。半身の後ろ半分とはいへ、ソラフグは大きい。大の男3人分の重さはある。#空想の街 #オトトイ食堂 #ソラフグの空
ひよの女将さん、ソラフグの身を持つて来たよ」眉を寄せて挑みかかるやうな顔をしてゐる。 #空想の街 #オトトイ食堂 #ソラフグの空
「ああ、みんなで食つてくれよ、俺の捕つたソラフグは旨いに決まつてるんだ。それで、捕つて来れる最後のソラフグかもしれないんだ」 #空想の街 #ソラフグの空 #新米情報窓口係り #オトトイ食堂
「ぢやあ、ひよの女将さんはこの空でも夜漁に出られると思ふのかい?」ヨーズィは、無数の赤いぶくぶく風船で覆はれた空を窓から指差した。 #空想の街 #オトトイ食堂 #ソラフグの空 #新人情報窓口係り
「神さま、か。フンッ、新しい酒瓶くれねえか? そいつを持つて帰りたえのよ。どうせ風船だ。突つ切れば夜漁もできるさ」 #空想の街 #オトトイ食堂 #ソラフグの空
「悪いな、女将」ヨーズィは酒瓶を受け取るとオトトイ食堂を出た。風船に覆はれた空を見上げる。「命ィイイ♪ 短しいいいィイイイイ♪ 酒えええのおおおお花ッ♪ ダダダダアアダ♪」 #空想の街 #オトトイ食堂 #ソラフグの空
「愛し愛しのソラフグちやんは、まだ怒つてるかねえ? 随分と花火が鳴つてたからな。まだ寝ててくれるなよ、ソラフグちやん♪ 怒つてるアンタに会ひたいのよララララ♪」ヨーズィは空になつた酒瓶を後ろに投げ捨てる。酒瓶がバリンッと割れた。 #空想の街 #ソラフグの空
ゲイガ号がナルジアの矢で風船を割りながら突き進む。バチッと小さな火花が飛んだ。瞬く間に風船が割れる。雷が空を跳ね回る。ゲイガ号は小さく宙返りや逆宙返りや急旋回を繰り返し電気の塊を避けながらナルジアの矢を放ち続ける。 #空想の街 #ソラフグの空
怒気に満ちた夜天に雷と矢が舞ふ。空を覆ふ無数の赤い風船は抵抗もできずに割れて落ちてゆく。ソラフグの巨体よりもなほ、小さなゲイガ号は猛り狂ふ閃光であつた。 #空想の街 #ソラフグの空
ゲイガ号にぶら提げられる分だけのソラフグ、2尾のソラフグをぶら提げて降りると、燃料を入れてすぐにまた空へと上がる。地上には5分もゐない。夜漁から始めて、もう3往復だ。ただ空を駆るためだけに駆る。ただソラフグを狩るためだけに狩る。 #空想の街 #ソラフグの空
空はもはや怒気ではなく殺気に満ち満ちてゐる。ゲイガ号を叩き壊そうと次々とソラフグが体当たりをする。食ひ殺そうと噛み付く。しかしゲイガ号はその表面をぬめり滑るやうに避けてナルジアの矢を放つ。 #空想の街 #ソラフグの空
もはや漁といふより感情に任せた殺し合ひだ。“ヨーズィの”といふべき人間らしさはそこにはない。ソラフグとゲイガ号の殺し合ひだ。 #空想の街 #ソラフグの空
何度目に地上へ降りて来たときだらうか。ぶら提げたソラフグをドスンドズンッと落とすと、ゲイガ号は大きく傾き、落下するやうに着陸した。 #空想の街 #ソラフグの空
ゲイガ号の小さな機体から、白と黒の煙が昇る。中からガンガンと音が響き、船体が揺れる。船尾から炎が上がると同時に、側面に穴が開く。ウエッゴエッゲアッとむせながらヨーズィが出てきた。 #空想の街 #ソラフグの空
ヨーズィは脱いだ上着で叩いてゲイガ号の火を消した。しかし船体の半分ほどが焦げ、船板の多くが剥がれてゐた。 #空想の街 #ソラフグの空
もはや船舶とは言へないゲイガ号を眺めながら、ヨーズィは酒瓶に口をつけた。コポコポッと酒瓶の中に気泡が入る。ヨーズィの口の端から雫の流れになつて酒が漏れてゐた。 #空想の街 #ソラフグの空
早朝、漁師からオニソラフグの目撃情報が続き、情報に間違ひないことが確認された。過去の記録から、空の制限はソラフグに近づくことの禁止だけに留められた。もちろんソラフグ漁も禁止されるが、それら以外に影響はないだらうとの判断であつた。 #空想の街 #ソラフグの空
とはいへ、ソラフグを定期的に仕入れてゐる飲食業界には痛手であらう。ソラフグの巨体さゆゑに在庫はあるものの、いつまでソラフグ漁が行へないかわからない。それは大きな被害だらう。しかし前のオニソラフグの被害と比べれば軽微と言へる。 #空想の街 #ソラフグの空
結局、街主の時任ケイの言葉はヨーズィに対する警告にすぎなかつた。だが、そんなことヨーズィには関係なかつた。昨日の無理で無茶で乱暴な漁で、ゲイガ号と飛行船舶免許を失つたヨーズィにとつて、そんなことどちらでも良かつた。 #空想の街 #ソラフグの空
只今街主さんから緊急連絡が入りました!オニソラフグの出現が確認されました。ソラフグ漁は禁止。空を飛ぶ方は低空飛行で、ソラフグへの接近は大変危険です!漁の禁止はいつまで続くか分かりません、流通の現象が予測されますので飲食店さんはご注意ください!(情報窓口:堂坂みかこ) #空想の街
オニソラフグはとっても危険なので、みなさん絶対に、絶対に興味本位で近寄らないでくださいね!!(情報窓口:堂坂みかこ) #空想の街
暗い部屋の中で、ヨーズィは酒瓶をグビグビと空けた。朝からすでに6本目だ。ヒックと大きく息が漏れた。 #空想の街 #ソラフグの空
ヨーズィはフラフラと流しまで歩く。オエッとゑづくと、ダラダラと吐く。片手で軽く口元を洗ふと、ヨーズィは空瓶を壁に投げつけた。バラバラに砕けた破片がパラパラと飛び散つた。 #空想の街 #ソラフグの空
「昼間から酒か?」ヨーズィの家に大柄の男が無遠慮に入る。養蜂家主人だ。「うるせえ」ヨーズィは酒瓶の最後のひとくちを飲むと大柄の男に向かつて投げる。酒瓶は男の顔のすぐ横を通つて壁にぶつかり割れた。 #空想の街 #ルグッグ蜜蜂の巣箱 #ソラフグの空
養蜂家主人は酒瓶とパンかごを掲げた。「酒とつまみだ」「くれ」男が座る前にヨーズィは酒瓶を奪ひ、栓を開ける。そのまま口をつけて飲み始めた。 #空想の街 #ルグッグ蜜蜂の巣箱 #ソラフグの空
「旨え」「うちの試作品の蜂蜜酒だ」「こんなときは不味い酒にしろよ。余計に惨めになる」「では共に惨めになろう」「くたばれ」ヨーズィはパンを掴み齧つた。 #空想の街 #ルグッグ蜜蜂の巣箱 #ソラフグの空
ヨーズィはふと顔を上げた。それから大柄の男の顔を見つめる。「お前、名前」男は頷く。ヨーズィは小さく笑ふ。「羽をなくしたパイロットと名をなくした老兵か、確かに惨めな組み合はせだな」「違ふ。漁師と養蜂家だ」 #空想の街 #ルグッグ蜜蜂の巣箱 #ソラフグの空
ヨーズィは鼻で笑ふ。「その訂正に意味があるのか?」「それに私は自分で過去を捨てた身だ。名など要らん。ヨーズィの羽は直せる」「馬鹿馬鹿しい。捨てたものなら拾へるだらうが」 #空想の街 #ルグッグ蜜蜂の巣箱 #ソラフグの空
ヨーズィはふらふらと立ち上がり、男を睨む。「お前が羽を直せると言つたんだ。手伝へよ。前より無茶な設計にしてやる」「良いだらう。酔つ払ひより手は確かだ」大柄の男もゆつくりと立ち上がつた。 #空想の街 #ルグッグ蜜蜂の巣箱 #ソラフグの空
ヨーズィは瓶から酒を飲みながら、もう片方の手で斧を掴んだ。木造倉庫の出入り口の扉を蹴破り、握つた斧で出入り口を広げる。ヨーズィが斧を振るたびに木片が飛び散る。「これぐらゐで十分だな」 #空想の街 #ルグッグ蜜蜂の巣箱 #ソラフグの空
ヨーズィは落ちてゐる木片を蹴飛ばしながら倉庫へと入る。そこには、以前のゲイガ号より少し武骨に僅かに大きくなつた小型船が荷車の上にあつた。ヨーズィは荷車の持ち手を掴んで倉庫から引つ張り出す。 #空想の街 #ルグッグ蜜蜂の巣箱 #ソラフグの空
「ヨーズィ、それ、船だよな? もしかして飛ぶつもりか? 免許停止されてるんぢやなかつたのか? といふよりソラフグ漁は禁止されたままだぞ!」近所の漁師が窓を開けて怒鳴つた。ヨーズィは小さく笑みを浮かべる。「知るか」 #空想の街 #ルグッグ蜜蜂の巣箱 #ソラフグの空
「落ち着け、ヨーズィ! 今度は免許停止ぢやあ済まんぞ!」ヨーズィは空を指差す。「あの高い雲の陰を見ろよ。ソラフグの群れだ。陽が昇る頃には手遅れだ」「違ふ、さういふ問題ぢやあない!」「さういふ問題だ」 #空想の街 #ルグッグ蜜蜂の巣箱 #ソラフグの空
ヨーズィは荷車から新しくなつたゲイガ号を降ろす。「ヨーズィ!」近所の漁師たちが何人か家から出てきた。だが、ヨーズィは止まらずゲイガ号に乗る。そして操縦席から飲みかけの酒瓶を投げた。バリンッと割れて飛び散つた酒が地面を濡らす。 #空想の街 #ルグッグ蜜蜂の巣箱 #ソラフグの空
止めようとする漁師たちを突き飛ばしゲイガ号は空へ飛び立つ。ただ、速く速く高く高くを目指して。 #空想の街 #ルグッグ蜜蜂の巣箱 #ソラフグの空
ゲイガ号が光の点になつた頃、雲陰があらはになつた。果たしてそれは壮絶で苛烈で、ヨーズィの望んでゐた光景だつた。一万近いソラフグの群れを十数尾のソラフグが追ひ回すそれは雷嵐であり、神話の激しさそのものだつた。 #空想の街 #ソラフグの空
オニソラフグ、ただでさへ空の漁師を恐れさせるソラフグの群れを喰ひ荒らすソラフグ、速く激しく縦横無尽に飛び回る雷光を見据ゑて、ヨーズィは照準を合はせる。そしてナルジアの矢を放つた。 #空想の街 #ソラフグの空
養蜂家の大柄な年配の男は窓から小さな光が落ちてゆくのを、静かにじつと眺めた。 #空想の街 #ルグッグ蜜蜂の巣箱 #ソラフグの空
明け方の空に小さな光が落ちる。その小さすぎる光に何人が気づいたのだらうか。それがゲイガ号の燃える炎だと何人が気づいたのだらうか。 #空想の街 #ソラフグの空
小さな火を追ふやうに、ソラフグの群れは散り散りになりながら海へと飛び込んだ。また、十数尾のオニソラフグも飛び込んだ。そのソラフグの姿は多くの漁師たちに観察され、それから間もなく、ソラフグ漁が解禁されることになる。 #空想の街 #ソラフグの空
後に、オニソラフグは増えすぎたソラフグの数を減らす自浄作用だといふ説が有力にるが、それは別の話。 #空想の街 #ソラフグの空
Twitter上の企画 #空想の街 に参加中の物語 #ソラフグの空 が完結しました。本編と関係しさうなところのまとめです→ http://t.co/i74R33jh 抜けてゐるところなどありましたら、気軽に仰つてください
#空想の街 で #ルグッグ蜜蜂の巣箱 と #ソラフグの空 を書いてゐた和伊啓太です。空想の街の企画・運営の方々、絡んでくださつた方々、企画参加して楽しませてくださつた方々、呼んでくださつた方々、本当にありがたうございます。楽しませてもらひました! #あとがき
実を言ふと、空想の街の企画に参加するつもりは最初ありませんでした。ただ、Twitter上の企画の進め方などには興味がありました。そこで企画の話し合ひを覗かせてもらつたのが参加のキッカケです。 #空想の街 #あとがき
ストーリィ展開によつては空く時間が多いだらうから、と考へたのがソラフグの設定です。空想の街らしい動物といつたら空を泳ぐ魚だらう、と安易な発想からです。悪ノリして危険な魚にしてゐたら、自然とヨーズィが生まれました。 #空想の街 #ソラフグの空 #あとがき
ルグッグ蜜蜂の巣箱は設定とポイントだけ考へ、プロットは緩々にして、他の方との絡みで進めるつもりでした。一方、ソラフグの空は伏線やら演出やらまで細々と決めてありました。それらの違ひは随所に現れたと思つてゐます。 #空想の街 #ルグッグ蜜蜂の巣箱 #ソラフグの空 #あとがき
ルグッグ蜜蜂の巣箱とソラフグの空に共通して意識してゐたことは、“壮大にしないこと”“街の中の時間と物語の時間を合はせること”の2点です。後者は少しズレてしまひましたが^^; #空想の街 #ルグッグ蜜蜂の巣箱 #ソラフグの空 #あとがき
それぞれのツイートは、基本的にツイートの30分ぐらゐ前から書きました。1回のツイートが140字といふことで、微調整したり区切りを変へたりが思つたより大変でした。 #空想の街 #あとがき
さうかうして思つたのは、ツイート速度・間隔自体が演出のひとつになるんだらうな、といふこと。それから、ツイートごとの区切りも演出になるといふこと。どちらも当然のことですし、考へればすぐわかることですが、それらを肌でよく感じました。 #空想の街 #あとがき
ソラフグの空は、先述の通り、細かく決めてありました。もちろん細かい修正はありましたが、誤差の範囲です。徹頭徹尾一貫して死へ進む物語でした。そのための演出と伏線をツイート内にガンガン押し込みました。 #空想の街 #ソラフグの空 #あとがき
たとへば、酒瓶の扱ひです。序盤では、酒瓶を割つたり酒瓶が割れたりの描写はありません。しかし、何度も何度も空瓶の描写を繰り返しました。それが22日の朝5時前ぐらゐのツイートで、後ろに投げ捨て、瓶が割れます。 #空想の街 #ソラフグの空 #あとがき
次に、24日の1時ごろのツイートで、今度は自分に向かつて話しかけてきた人に対して投げつけて割ります。そして最後、25日の朝5時ごろのツイートで中身のある酒瓶を投げ捨てて割るのです。 #空想の街 #ソラフグの空 #あとがき
かういふ風に、酒瓶・ヨーズィ・ゲイガ号・ソラフグの自浄作用の4つを重ねて描写しました。それぐらゐソラフグの空はガチガチに決めてありました。 #空想の街 #ソラフグの空 #あとがき
あと、ルグッグ蜜蜂や蜂蜜やソラフグやソラクジラや、さういふ文字がTLに流れるたびにニヤニヤしてしまつてゐたのはここだけの秘密ですw #空想の街 #ルグッグ蜜蜂の巣箱 #ソラフグの空 #あとがき