夢美堂~あなたの夢はなんですか?~
―皆さま、ご希望の夢はなんですか―
素敵な空想の街でひっそりと繰り広げられる、少女宙と夢のお話です
(ドーン...ドドーン...) 遠くで花火の音がきこえる。 「…はぁ。」 何度目かの溜め息をつくと、小さなカウンターに顎をのせた。母の怒った顔が浮かんだが、今日ぐらいは許してほしい。 「こんな日も店番なんて。」 #空想の街 #夢美堂
ここは橋本駅から歩いて10分ほどの、満月の形をした小窓が目印のひっそりとしたお店─『夢美堂』 夜の19時から0時の間、こうみえてもわたし、宙はまだ女子高生ながら、ここの店主をやっている。 売っているのはそう─店の名の通り、夢だ。 #空想の街 #夢美堂
店と言ってもずらっと何かが並んでるわけでもなく、あるのはカウンターと小さな椅子とキャンドルの灯りが包むだけ。ただ一つ、カウンターの上に置かれた虹色の星型の瓶詰めが、ゆらりと光っていた。その瓶からこぼれる飴を求めに、人々はやって来るのだ。#空想の街#夢美堂
花火の音も止み、いつも通り静かな闇に見守られる頃。宙はすっかりカウンターを枕にまどろんでいたら、どんどんっと鈍い音に起こされた。 「んー...はい?どうぞ」 返事がない。恐る恐るドアを開けると、車椅子の男性がそこにいた。 「すみません、お邪魔します。」 #空想の街 #夢美堂
中に通すと、彼は満足そうに店中をぐるりと眺めた。 「...コホン。いらっしゃいませ。」 「ああ…すみません。夢を、ひとつ下さい。」 わたしは金色のコインを一つもらうと、星型の瓶を3回ゆっくりと振った。 そして彼の手のひらにコロンと涙型の飴を落とした。 #空想の街 #夢美堂
それはきれいなスカイブルーだった。 「…ありがとう。これでやっと空が飛べるよ。」 彼はそっと口に含むとふわっと笑った。 そしてギシギシと車椅子を軋ませながら店を出て行った。 「おやすみなさい。素敵な夢を…あなたに。」 ...たとえ束の間だとしても。 #空想の街 #夢美堂
わたしがお店を継いだのは、2年前に母が亡くなってからだ。 わたしの家系は代々、女に生まれたものはこうして夢守となる定めだ。 人に本当に望む夢を与えるという不思議な力を持つが、その代わり短命で...母もわたしが15の冬に亡くなってしまった。 #空想の街 #夢美堂
やさしくてしっかり者で、厳しい母親だった。わたしがいつでもひとり立ちできるように、必要なことは全て教えてくれた。 …さみしくないと言えば嘘になる。 ある日、わたしはそっと星型の瓶を手に取り、母を想い浮かべながら3回振ってドロップを取り出した。 #空想の街 #夢美堂
出てきたのは、漆黒のドロップだった。初めて見る色だった。 なんとなく怖かったが、舐めながら眠りについた。 ―翌朝。 夢は…見れなかった。 ただただ、漆黒が広がるだけだった。 ―この不思議な力は、与えるためにある― そのことを強く思い知らされた。 #空想の街 #夢美
もうそろそろ店じまいかな・・と思っていた矢先、ガチャッと勢い良くドアが開き、女の人がつかつかと入ってきた。 「いらっしゃいま…」 「どういうことよ!」 女はバンッとカウンターを両手で叩くと、キッとこちらを睨みつけた。 「どうって..」 #空想の街 #夢美堂
「昨日飴舐めたけど、なんにも見れなかったのよ!」 そんなはず…。たしかにこの人は昨日来てた人だ。色は淡いさくら色だったのに、どうして…。 「…ちなみに、どんな願いを?」 「どうでもいいでしょ!そんなの…ただ…亡くなった彼に会いたかったのよ。」 #空想の街 #夢美堂
彼女の拳はいつしかわなわなと震えていた。 わたしにはすでに、理由がわかっていた。 「ドロップは、その時その人に本当に必要な夢を見せるんです。」 彼女は涙をためてゆっくりと目をこちらに向ける。 #空想の街 #夢美堂
「あなたに今必要なのは、亡くなった彼ではなく…さくら色に満ちた明日なんです。」彼女はその場に泣き崩れた。神様、どうかこの人に優しい夢を。わたしは瓶からドロップを取り出し、彼女の手に握らせた。「…ありがとう。」「…おやすみなさい。素敵な…夢をあなたに。」 #空想の街 #夢美堂
今日も夢は届いただろうか... わたしは髪をほどいてベッドに入ると、星型の瓶を月光が差し込む窓辺に置いた。夜の間こうして置くと、次の日には瓶が満ちている。 どうして瓶が星型か、どうしてドロップが涙型か…昔尋ねた時、母もわからないと言っていた。 #空想の街 #夢美堂
でもわたしは、きっと星の涙だと思う。 誰かの願いの結晶が、想いが、雫となって溜まっていくんだ。 「…明日も素敵な夢になりますように。」 おやすみなさい、誰か。 眠りゆく街にわたしは目を閉じた。 #空想の街 #夢美堂
朝目が覚めると、瓶にはドロップが満ちていた。わたしは大きく伸びをすると、手早く身支度と朝食を済ませた。「よーし。はじめますか。」今日は一週間に一度の、お店をピカピカにする日。母はいつも隅々まで綺麗にしていた。 平日は学校があるから、頑張らなくちゃ! #空想の街 #夢美堂
「…ふぅ。終わった~~。」 最後の満月窓を綺麗に磨き終わると、床にごろんと寝っ転がった。 きれいって気持ちいいんだなぁ…っといけない! 慌てて片付けると、萌黄色のコートを羽織り店を出た。 少し肌寒く、霧雨が降っている。宙はまず遅めのお昼へと向かった。 #空想の街 #夢美堂
「小籠包と担担麺で。」 笑顔の素敵な店員さんに注文を告げると、コートを脱いだ。パンダ食堂はこの天気にも関わらず活気に溢れている。皆、美味しそうな湯気に包まれて幸せそうだ。(笑顔を感じられる仕事もいいなぁ…)わたしの仕事はその瞬間を見ることができない。 #空想の街 #夢美堂
わふわふとあっという間に平らげると、宙はすっかり幸せな一人になって店を後にした。 相変わらず天気は落ち着かない様子だ。 暗くなる前に買い物を済ませなくちゃ...。 宙は小走りに時計塔の方へと向かうことにした。 #空想の街 #夢美堂
「…ふふふ。」 ここはいつものお店、いつものカウンターにわたしがひとり。 ただ一ついつもと違うのは、カウンターで揺れる薄紫のあじさいだった。 『「雨に唄えば」っていうんです。今日入荷したんですけど、こんな日にはピッタリですね!』 #空想の街#狐 #夢美堂
わたしが通りかかったお花屋さんでもう10分も見入ってた時だった。 ふわふわのしっぽにぴょこんと耳を2つ付けた可愛い店員さんが立っていた。今度はその姿に釘付けになる... 耳がピクピクして、なんだか照れてる様子だった。 (かわいい…狐さん…?) #空想の街 #狐 #夢美堂
『あらぁ、それ可愛いでしょ~。おすすめよ。』『みどりさん』 みどりさんと呼ばれた人は、少し…母に似ていて、なんだか胸があったかくなった。かわいい狐の店員さん(あまねちゃんと言うらしい)からもらったあじさいで、わたしもお店も少し明るくなったみたい。 #空想の街 #狐 #夢美堂
お客さんの方といえば、天気が悪いせいか未だ一人だけだ。 たまに来る、隣のクラスの女の子だ。来る度彼女は決まって同じ願いをし、同じ薔薇色のドロップを持って帰る。 「…ずっと恋、してるの?」 「女の子だもん。当然。相手は毎回違うけどね。」 #空想の街 #夢美堂
彼女はぺろっと舌を出して、悪戯そうに笑った。 「ねぇ、毎日来るから毎日もらえないの?」 「何回も言ってるけど、だーめ。舐めた後は最低でも30日空けないと。夢に取り憑かれてしまうんだって。」 「ふーん…。まだまだ恋したいし、それはごめんかな~。」 #空想の街 #夢美堂
じゃあねッと軽く手を振って、彼女は軽やかに去って行った。 「…恋、かぁ。」 わたしには幸か不幸か、夢に見たいほどの相手もいない。 いたところで、自分は見れないしね... カウンターの下で足をぶらぶらさせながら、宙はあじさいをツンとつついた。 #空想の街 #夢美堂
そうこうしていると、真っ白なワンピースに黒髪を肩にさらりとのせた女性がやってきた。真っ白な傘を閉じる所作までが美しく、わたしはみとれてしまった。「御免下さい。夢をいただけるというのはこちらかしら?」「あっ…そうです!」自分のカッコ悪さに顔が熱くなる。 #空想の街 #夢美堂
女性はにっこり笑うと、コインを手渡してくれた。白くてすべすべの手に落とされたのは、宝石のような瑠璃色のドロップだった。 「…きれい。」 「ええ…とっても。」 女性はさっきとは違い、なぜか悲しそうに笑った。 「…少し、お話させてもらってもいいかしら。」 #空想の街 #夢美堂
「わたし…もうすぐ結婚するの。」「えっ…おめでとうございます!」 「…決められた人と…ね。」女性の顔が曇った。「本当は、世界を飛び回る仕事をしたかったの。この脚で、自分の力だけで。でも…叶わなかった。」女性は瑠璃色のドロップを大事そうに見つめていた。 #空想の街 #夢美堂
「…だから、これで夢を見るわ。」それじゃあ、と来た時と同じように美しい所作で女性は店を出て行った。わたしは夢で、この力で、彼女に何をあげられるのだろうか... どうか、せめて胸の奥でやさしく残り続けてほしい…。「…おやすみなさい。素敵な夢をあなたに。」 #空想の街 #夢美堂
―ハッ どうやら、カウンターに突っ伏して眠っていたようだ。 「…いけない。0時過ぎちゃってる!」 慌てて店仕舞いしようと、ドアにかかっている札を『close』にしようとした時、ごうっと風が鳴いた。 なんだか誰かに呼ばれている気がする... #空想の街#探し人 #夢美堂
なんだか、忘れ物をしたような気持ちになって落ち着かない... 宙はあじさいに水をやりながら、店を閉められないでいた。 …と、そこに遠慮がちにノックする音が聞こえた。 「…どうぞ?」 わたしはドアを開けに向かった。 #空想の街 #探し人 #夢美堂
「…あなただったんですね。」 きれいな女性の方で、なんだかほっとした。 彼女は訝しそうに少し首をかしげた。 「あっ…いいえ、お気になさらず。まだ片付けをしてました。どうぞお入りください。」 すれ違う時、雨の香りがした。 #空想の街 #探し人 #夢美堂
どうやら長い間眠っていたようだ。 それはきっと、あの不思議な夜のせい... 夢と現実の境目で宙はあの晩のことを思い返していた― ふらりと訪れた不思議な女性はどこか不安気な様子でこう言った。 『夢が、欲しいんです。安心して眠れるような夢が…』 #空想の街 #探し人 #夢美堂
儚げな女性は遥か遠くの誰かを見つめているようだった。その顔が徐々に曇り、瞳の色が失われていった。「ぁ…ごめんなさい…」彼女は誰かを深く想い、ずっと追い求めているのだ。全てを聞かずとも、それが痛いほど伝わってきた。「随分お困りみたいですね。」 #空想の街 #探し人 #夢美堂
心の芯にはあえて触れずに、わたしは瓶を3回振った。 すると、見たことのない光を放つ丸い檸檬色のドロップがころんと出てきたのだ。 (涙型じゃない…) わたしは内心ひどく驚き、動揺したが、彼女の顔を見た瞬間にその意味が分かったのだ。 #空想の街 #探し人 #夢美堂
これは…星の涙じゃない。大切な誰かの想いの結晶だ。そして、それが彼女がずっと探している相手だということも。 「…おやすみなさい。素敵な夢を。」 彼女に、彼に、その想いが届きますように…。満月窓からはいつしか、やわらかな月光が差し込んでいた。 #空想の街 #探し人 #夢美堂
―あれが、共鳴というのだろうか...。 きっと彼女も不思議な力を持っているのかもしれない。 意識がはっきりとしてきた頭でそう考えながらあたりを見渡した。 どうやら夜みたいだ。瓶の方に変わりはなさそうだ。 ふっと肩の力が抜ける。 #空想の街 #探し人 #夢美堂
階下に降りると、あまねちゃんからもらったあじさいがカウンターで肩を落としていた。「いっけない!お水!」あわててたっぷり水をあげ、優しく撫でた。「ごめんね…元気だしてね。」 外はまた雨のようだ。風も強くなってきている。 宙はなぜだか胸騒ぎがした。 #空想の街 #狐 #夢美堂
ふいに覚えた不安感は、時間を追うごとに増してくる。 (なんだろう…こんなのはじめて…) 宙が震える肩を強く押さえた時だった。 突風の様にドアが開き、雨風とともにぬっと黒い影が現れた。 体に稲妻が走り、金縛りのように動かない。 「だ…だれ、あなたは…」 #空想の街 #夢美堂
声を出した瞬間、いつもの夢見堂に戻っていた。体の力が抜けると、宙は壁にもたれかかった。心臓だけが壊れるくらいに鳴っている。(なに…いまの) 「…大丈夫ですか?もう閉店でした?」よく見ると、全身黒い服を纏った男の人だった。年は少し上くらいだろうか... #空想の街 #夢美堂
「…いえ、大丈夫です。すみません。」 ひとまず、宙は体勢を整えた。気のせいだろうか... 「夢をもらえるって聞いたんですけど…。」 「ええ。本当に求めている夢をご覧になれます。お一ついかがですか。」 「お願いします。」 男は口を片方だけ上げて笑った。 #空想の街 #夢美堂
宙は瓶を3回ゆっくりと振ると、男の手に落とした。 ―それは、前に目にしたことのある漆黒のドロップだった。「え…これって…どうしてこれが…」すぐには理解できない。だってこの色はわたしが出した… 「ハッ!わざわざこんな田舎のボロい店まで来てこれかよ…!」 #空想の街 #夢美堂
男はそう言い放つと、崩れるようにどっと椅子に腰を落とした。 「あなたまさか…」 「…そうだよ。俺も夢守だ。」 男の声が頭の中でリフレインする。 「うそ…だって、夢守は女しかなれないはずよ。」 「何百年に一人、俺みたいな出来損ないができるんだよ。」 #空想の街 #夢美堂
「どうせ知りもしないだろうな…。悪魔の呪いか神の悪戯か知らないが、男として生まれた夢守は、気味悪がられて虐げられるか、上辺だけの奴らに祭り上げられるかどっちかだ。唯一味方のはずの母親は、俺を産んで死んじまった。」 男の話には鬼気迫るものがあった。 #空想の街 #夢美堂
「そんな奴らに夢なんか見せて何になる!肝心な力も母親の顔さえ見せちゃくれない...。風の噂でここに夢守がいると聞いて、村を捨てて来てみたが…結局はこれだ。」 男は漆黒のドロップを力無く投げ捨てた。 顔は血の気が失せ、目には漆黒の闇が広がっていた... #空想の街 #夢美堂
「…信じられないけど…信じるわ。」 宙は今、恐ろしさよりも強い悲しみでいっぱいだった。うまく言葉に出来ないものが目から溢れる。 「お前…名前は?」「…ソラ。宇宙の宙。」 「俺はカイだ。不可解の解。分かりやすいだろ?」 ふっとまた片方だけで解は笑った。 #空想の街 #夢美堂
ふいにこの人になにか希望を与えたいと思った。ほんの少しでもいい。信じてみたくなるような希望の光を― 「…わたしはたしかに恵まれてる。短い時間だったけど、母ともいられたし...。でもだからこそわかる。夢は素敵なものよ。誰かや何かを強く想う結晶なのよ。」 #空想の街 #夢美堂
「ばかばかしい…!形にも残らない、忘れられるだけの作り物なんかに何の意味があるんだよ!」解は椅子を蹴って立ち上がると、何かを振り払うように怒りに身を任せ、カウンターの上にあった星型の瓶を床に叩きつけた。 ―ッガシャーン 瓶は大きな音を立て粉々に壊れた。 #空想の街 #夢美堂
数多の破片が粉雪のように舞い、宙は息を呑んだ。次の瞬間には、全てガラスの欠片となって床に散らばっていた。「…うそよ」解の息は荒かったが、目は色を取り戻していた。「なんてことをっ…!」宙は混乱するままに解に掴みかかる…と同時に、解は力を無くし床に崩れた。 #空想の街 #夢美堂
解は人形の様に動かなくなり、宙は怒りをぶつける場所もないまましばらく放心していた。瓶の中のドロップは溶けて全て消えてしまっていた。 少し気を落ち着かせると、解をなんとかベッドに運び、散らばったガラスを一つずつ集めた。その間もどんどん涙だけ溢れてくる。 #空想の街 #夢美堂
「…お母さん、わたしどうしたらいいの…。」 宙は灯の消えたような部屋にへたり込んだ。 どうしようもなく、何かにすがり付きたい気持ちでいっぱいだったが、満月窓からは月光も星もなにも見えなかった。 #空想の街 #夢美堂
―深い深い闇の底。どんどん滑り落ちてゆく... じわりじわりと闇と同化してゆく感覚...だが不思議とそれを静かに受け止めている自分がいる。 (…ソ…ラ…こっちよ…宙) ふいにあたたかな光に包まれて、ふわりと全てが軽くなる― 「…お母さん…!」 #空想の街 #夢美堂
「…はぁ…はぁ。」 宙は頬を涙で濡らしながら目を覚ました。久しぶりに夢を見ていた…母の夢を。 手を開くと、割れた瓶の欠片を握り締めていた。 (夢じゃない…これは…現実なんだ) また泣いてしまいそうになるのをこらえて、宙はのろのろとベッドに向かった。 #空想の街 #夢美堂
だがそこには解の姿はなかった。「…なんなのよ。どうなってるの…もう…」ベッドはしんと冷えている。宙は混乱していた。自分をこんな目に合わせ、母から託された大切な瓶を粉々にされた激しい怒りと憎しみがつのる一方で、そんな彼を放っておけない気持ちになっている。 #空想の街 #夢美堂
宙はぶんぶんとおもいっきり頭を振った。 「それよりも、これをなんとかしなきゃ…!」 握り締めていた欠片たちを鞄に詰めると、宙は店を飛び出した。 あてなどはない。思いつくままに街をさまよい歩く。 (また瓶にするには…近くにガラス工房とかないかな…) #空想の街 #夢美堂
不思議な紳士は一陣の風のように現れると、星型の瓶を残して闇へと消えてしまった。「…魔法みたい。ありがとうございます!」宙はすぐに駆け寄ると、瓶を手にとった。見た目は複製のようによく似ている。…だが、何かが違う。何度振ってもドロップは出てこない... #空想の街 #夢美堂
そう、これはやはりただの「瓶」なのだ。力がなければ夢は生まれない... ―壊れたものは元には戻りません―紳士の言葉が耳の奥でずっと鳴り響いていた。どこをどう歩いただろうか...ふらふらとさまよっていたら、いつの間にか時計塔の近くまで来ていた。 #空想の街 #時計座 #夢美堂
ふと一軒のお店が目にとまる。―『ブックカフェ黒猫』 (本屋さんなら何かわかるかもしれない…!) 宙はすがりつくようにお店の扉を開いた。 ―中に入った瞬間、コーヒーの香ばしい香りと、甘いお菓子の匂いと、古書の独特の匂いに包まれる。 #空想の街 #ブックカフェ黒猫 #夢美堂
胸いっぱいに香りを味わうと、少し落ち着いてきた。「いらっしゃいませ」店主の佇まいもまるで店と一緒に呼吸しているように馴染んでいた。「お席へどうぞ。ご注文はいかがいたしますか?」「…ミルクティー、ホットで。」宙は近くの椅子に腰掛けた。 #空想の街 #ブックカフェ黒猫 #夢美堂
ずらっと並んだ古書に目を奪われる。 「…何かお探しでしたか。」 「はい…。大切な瓶が割れてしまったんです。硝子屋さんに新しいものをもらったんですが、それじゃだめで...」 「ほう…困りましたね。」 店主は湯気の中で険しい顔をした。 #空想の街 #ブックカフェ黒猫 #夢美堂
「…ですが、残念ながら私もお力にはなれません。」店主は真っ直ぐこちらを向いた。「大切なものが壊れる時…それには必ず意味があります。あなたはガラス瓶を追い求めるのではなく、その意味を見つけるのですよ。その時自ずと道は開けるでしょう。」 #空想の街 #ブックカフェ黒猫 #夢美堂
宙はもらったガラス瓶を握り締めた。 「あなたが暗闇で迷わないように、凍えてしまわないように…さぁ、どうぞ。」 一口、一口…飲み込む度にあたたかなミルクティーが心の奥まで沁みていった... #空想の街 #ブックカフェ黒猫 #夢美堂
「…ありがとうございました。」 「行ってらっしゃい。お気をつけて。」 店を出る宙の目に、迷いや不安はもうなかった。 全速力で走って行き着いた先は、夢美堂だった。 「…解に会わなくちゃ。」 彼を呼び寄せるように宙は祈った。 #空想の街 #ブックカフェ黒猫 #夢美堂
「お呼びでしょうか…雨をお探しならばなんでもお売りいたします、どんな雨をご所望で?」ふっと現れたのは雨屋だった。「…あの晩と同じ…激しい雨を風とともに。」「かしこまりました…篠突く雨をたっぷりと。」雨屋はニヤっと笑うと、ふっと姿を消した。 #空想の街 #雨屋 #夢美堂
いつの間にか、激しい雨が窓を打ち付けていた。 宙はあの晩の感覚を思い出す... その刹那、射抜くような雷光が走り、辺りに轟音が鳴り響いた。 ―バァンッ 開かれたドアから入ってきたのは、紛れもなく彼だった。 「…解?無事だったの…?」 #空想の街 #夢美堂
再び現れた彼は、雨に洗われたかのようにまっさらになっていた。 「宙…。カイカイってうるせえって。」 ニヤっと笑った顔はなんだか人間らしく思えた。 「俺は…あの晩一度死んだ。」 解はゆっくりと椅子に腰を下ろした。 「正確に言うと…力をなくしてたんだ。」 #空想の街 #夢美堂
「瓶を割った罰なのかはわからないが…不思議と今…楽なんだ。」 解の顔はどこか清々しかった。 「ただの人間ってやつになって、気づいたよ。俺は自分の力に、周りに、俺自身に振り回されていたんだ。そんなやつにいい夢なんか生まれるわけがない…」 #空想の街 #夢美堂
解は持っていた包みから、あるものを取り出した。 「これを…取りに行ってたんだ。俺はもう資格がないから、お前が持っててほしい。」それは少し形の違う…でもたしかに、星型の瓶だった。「これ…解の…」解はこくんと頷いた。「…すまなかった。母さんの形見を…」 #空想の街 #夢美堂
宙の胸に、もう憎しみや怒りはなかった。「…ありがとう。これからは、あなたの分までわたしは皆の夢守になる。たくさんの願いを、想いの結晶を届けていく。一人でも多くの人が救われるように…」抱きしめた瓶が月光のように淡く光った。全ての想いが今重なった気がした。 #空想の街 #夢美堂
「…俺、もう一つ気づいたことがあるんだ。」 解は優しい目でこちらを見つめた。 「俺はもう誰かの夢を守ることはできないけど…こんな俺でも、できることがあるんだ。今度は…宙、お前を守りたい。」 そう言うなり、宙はぎゅうっと力強く抱きしめられた。 #空想の街 #夢美堂
わずかに…海の香りがした。 そしてそれは、宙がずっと求めていたものだった。 満月窓からは光があふれ、二つの影を一つにした... #空想の街 #夢美堂
―願いは、ありますか。 誰かを、想っていますか。 空を見つめて月に思いを馳せる夜は、このドアを叩いてください。 きっと出逢えるはずです… 素敵な夢を、あなたに。 -Fin- #空想の街 #夢美堂
終わった~。゜(゜´ω`゜)゜。 とりあえず流れるまま駆け抜けましたw 書き足りないところも多々ありますが、それは番外編でまたいつか!ここ何日かTLお騒がせして申し訳ありませんでした><コラボ&ご覧いただいた皆さま、お付き合いありがとうございました☆感謝*:・(*-ω人)・:*本間紫織