陸上、恋。
中学時代、私と彼と彼女は陸上部に入った。
単に水泳部がなかったからだ。
彼と彼女は短距離を選んだ。
私は長距離を選んだ。
3ヵ月後、先輩が引退して私たち3人は記録を伸ばすことができずスランプに陥った。
理由は簡単、目標とするものがなくなったからだ。
先輩がいなくなってから2週間後、彼女は陸上部をやめてしまった。
「陸上に魅力を感じられない。地域の水泳クラブに入るわ。」
彼女はそう言って去っていった。
彼女がやめたことで私は相当悩んだ。
私もやめようと思い、彼に相談した。
「確かに俺らは水泳部の代わりに陸上部に入ったけど、俺はもう走ることが好きになったから絶対にやめないよ。でも、お前がやめたいのならそうすれば良いよ。」
彼は私をひきとめようともせず、淡々とそう言った。
四ヵ月後、私はとうとう走る楽しみを見つけることができた。
校内マラソン大会で4位になったのだ。
風を切りながら、景色を楽しみながら、軽快に、前にいる人を一人、また一人と抜いていく。
たくさんの人が応援してくれている。
声援に包まれた私からは自然と笑みがこぼれる。
楽しい。
水泳をしていたときにも感じた高揚感。
ゴール手前のダッシュ。
ここでも一人抜いていく。
最後は3位の人と僅差でゴール。
惜しくも表彰台には届かなかったが私には十分だった。
走ることを楽しいとはじめて思えたのだから。
そうか。
彼はこの楽しさを見つけていたのだな。
ほんとに楽しそうに走っている。
私はそんな彼を見てときめいてしまった。
そういえば私が走っているとき、応援してくれていたな。
ならば私も彼を応援してみよう、私の応援で彼がさらに楽しいと感じられるように。
中学3年生になり、最後の試合で彼が泣いているのを見た。
彼よりも速い人がいたため個人種目に出ることができなかった彼は4×100mリレーにすべてをかけていたのだが、リレーチームは区大会、市大会を勝ちぬいたのだがたったの一秒差で県大会にすすむことができなかったのだ。
私は彼になぜ短距離を選んだのかたずねた。
彼は長距離ならば楽勝で県大会にいける実力を持っていたからだ。
彼は答えた。
「長距離と違って短距離は一瞬で終わるだろ?俺はその一瞬の向こう側にある何かをつかみたいんだ。やっとつかめたと思ったのにもう終わりなのかよ・・・。」
高校に入ってからもできるだろう、と声をかけると
「お前が見ていなかったら応援してくれなかったら意味がねぇんだよ。高校はどうせ別だろ、俺バカだし。県大会よりも上の大会に行かなきゃ推薦もらえねぇし。」
私自身は陸上を完璧に趣味として楽しみ、最後の試合もまた楽しみながら終わらせることができたのだが、彼にとってはそんなものではなかったらしい。
彼は私と同じ高校に行くためにがんばってくれていたらしい。
それならなおさら長距離を選べばよかったのではないかと思うのだが、と言うと
「だって長距離の応援って疲れるだろ?」
と、彼は笑いながら答えた。
結局、リレーチームは他のチームの不正が発覚し県大会にすすむことができたのだが予選で敗退した。
そして私と彼はそれぞれ違う高校に入学した。
彼は陸上部にはいり、相変わらず短距離でがんばっているらしいのだが大会の応援に来るなと電話でいわれていたので応援にいけない。
なぜ応援に行ってはいけないのかは謎。
私は陸上はあくまで趣味とし、いくつもの文化部に入って毎日を充実させていた。
部活や勉強で忙しくて私たちは高校に入ってから会わなくなってしまった。
高校3年生となり、彼はようやく大会の応援に行くことを許可してくれた。
3年ぶりに応援席から見た彼は、私の知らない男子になっていた。
しばらく何も言えずただ突っ立っていたら、彼の組がスタートした。
第四レーンで走る彼はやはり楽しそうだ。
気持ちよさそうに風を切って走っている。
2着でゴール。
私を見つけた彼はそのまま私のほうに走ってきた。
かっこよかった、と告げると
「その言葉がききたかった。」
と彼は頬を染めながら言った。
大会が終わったあと私たちは会わなかった間の話をたくさんした。
今、私たちは同じ大学に行くために勉強をがんばっている。
自分の経験を基にしたものですが
あくまでモデルとしただけで実際とはものすごく違います。
まずあれだよ、あたしまだ高2だもん。