第五話
17 作:有吉 正春
「ウワァーーーーーーーーーッ!!!!!」
「どうしたの?マーちゃん!?」「ハァハァ…夢を見ただけだ、スマン…」
「……トモコちゃんの夢?」
「ああ……やっぱり何度見てもなれないな」
「……………」
「もう朝か、朝飯食うだろ?」
「…ゴメンね、ボクがセイコちゃん紹介したからまたマーちゃんにあの時の事思いださせて」
「気にするなよ、お前だって悪気があったわけじゃないんだし、つらいのはお前も一緒だろ?」
「うん、ボクもセイコちゃんを始めて見たときひょっとしたらって思ったんだ…」
あの日結局トモコは発見されなかった、事件現場の状況から見てトモコは車に弾かれた後連れさられたらしくすぐに警察の捜査が始まった、しかしトモコは見つからなかった……、周りの人間はトモコは死んでしまったと思ったがオレ達は信じられなかった、信じたくなかったんだ、警察が諦めた後もジュンのオヤジさんは随分頑張ってくれているが四年たった今でも何もわかっていない。
「確かに似ていたよ、瓜二つだった、性格以外はな」
「ねぇ……バカな事言うみたいなんだけど…本人じゃないかな?」
「………オレも一瞬そう思ったよ、でもな?良く考えてみろよ?」
「…そうだね、自分がひき殺しかけた人間を助けて大学にまで通わせるなんて、ありえないよね…」
「ああ、仮にアイツが記憶を失っていたとしても戸籍はごまかせないよ、セイコちゃん免許持ってたしな」
「だよね……やっぱり違う人なんだね…」
「ああ…、さぁ飯食おうぜ?」
「うん、ボクお腹へっちゃったよ」
飯を食ってジュンが帰りしばらくすると、ヒロキがオレの部屋にやって来た
「いや〜昨日はサンキュな?おかげでアイリちゃんといい感じだったよ」
「そうか、よかったじゃないか?」
「ああ、そっちはどうだったんだ?」
「あの後すぐに別れたよ」
「へぇ、そういえばお前知ってるか?」
「何をだ?」
「アイリちゃんから聞いたけどセイコちゃんって軽い男性恐怖症らしいぜ」
「そうは見えなかったけどな」
「ああ、お前気に入られたみたいだな、セイコちゃんがあそこま楽しそうにで男と話すの珍しいってさ」
「責任重大だな、オレ」
「ああ、ところで『トモコ』って誰だよ?昔の女か?」
「……そんなところかな」
「へぇ、お前に女がいたってのは初耳だな、そんなにセイコちゃんに似てるのか?」
「ああ」
「相変わらず無愛想なヤツめ、そんなんじゃセイコちゃんますます男嫌いになっちゃうぜ?」
「ほっとけ、セイコちゃんってどうして男性恐怖症なったんだ?昔酷いフられ方したとか?」
「それがちょっとありえない話しなんだよ、昔は活発で男とも普通に仲が良かったんだってさ」
「それが何でいきなり?」
「まぁ聞けよ、セイコちゃん高一の秋に交通事故で入院したんだって」
「………!!」
セイコちゃんはオレの一つ年下、つまりセイコちゃんとトモコは同じ時期に交通事故にあった訳だ
「ケガは大したことなかって1ヶ月後には退院したそうだ、…ここからが話しのミソなんだけどな…」
「何だ?早く言えよ」
「頭を強く打ったらしくって記憶喪失になったらしい」
「記憶喪失?」
「ああ、何もかも忘れてしまったらしくてね、オヤジさんが色々と苦労して何とか記憶を取り戻したってさ」
「……何か凄い話しだな、オヤジさんが苦労したって、医者か何かなのか?」
「……聞いて驚くなよ?」
「驚くような事なのか?」
「ああ、中山誠一郎だ」
「…中山誠一郎って…あの中山誠一郎か?」
「言っとくけどマジだぜ?」
最初はヒロキが嘘を付いていると思ったがヒロキは真剣な顔をしていた、中山誠一郎、多分日本で一番有名な俳優の一人だ、更に10年程前に独立し自分の事務所『中山プロダクション』(通称中プロ)を設立、若手の俳優や女優を中心に勢力を拡大し今では『中プロ無しでドラマはできない』とまで言われるまでに成長した
「本当にマジなのか?」
「疑うのもわかるよ、オレも信じられなかったからな」
「セイコちゃんそんな事全然言わなかったぞ?」
「お前に引かれるって思ったんじゃない?アイリちゃんにも口止めしていたし」
「中山誠一郎か…凄いな」
「そういえばお前覚えてないか?『中プロ悪夢のミレニアム』って?」
「ああ、言われてみれば」
2000年の春に中プロが力を注いでいた若手俳優が麻薬所持で逮捕された、更に夏に追い討ちをかけるかの様に事務所が火事で全焼し、当時トップアイドルだった娘が出来ちゃった結婚で芸能界を引退、秋には中山誠一郎の義弟と呼ばれていた大物俳優が謎の失踪、トドメを刺すかの様にプライベートでは一人娘が交通事故で記憶喪失……ワイドショーや週刊誌は『中プロ悪夢のミレニアム』と銘打って、霊能者や占い師は
「悪霊の仕業」
と騒ぎたてた、それでも今、中プロが芸能界で権力を握っているのは中山誠一郎の経営者としての才能によるところが大きい
「あの時騒がれた『一人娘』がセイコちゃんって訳よ」
「ああ、思いだした」
中山誠一郎はマスコミから娘を守りきった、
「窮地に立たされても娘を守る父親」
と言うイメージを世間に印象付けて結局人気は前以上になり、マスコミも大衆を敵に回してまで誠一郎の娘を追い回す様なバカはしなかった
「それにしてもヤケにセイコちゃんに熱心じゃないか?そんなに昔の女に似てるのか?」
「ああ」
「又それだよ…、何か苦い思いででもあるのかよ?」
「………行方不明なんだよ…」
「どう言うことだ?」
「…ジュンも呼んでいいか?」
「ああ、なんだよ?もったいぶって」
「お前とジュンに話したい事があるんだ、アイツがきたら全て話すよ」
続く…