第三話
17 作:有吉 正春
「一つだけ心当たりがあるのよ」
「心当たりって?」
「私の家の近くにアンティークショップがあったの覚えてる?」
「ああ、そう言えばあったな」
「あそこって『値段の割にいい品物置いてる』って結構人気あるのよ」
「らしいな、ジュンがいってたよ」
「でも場所がわかりにくいじゃない?」
「確かに住宅街にあるしな」
「そうそう♪で店に行きたくてもわからない人がかなりいるわけ」
「で、道案内したってわけか?」
「そう、『好きな人の誕生日にプレゼントを書いたい』って先輩がいてね」
「誕生日のプレゼントか……!」
ヤバい、確かコイツの誕生日って…
「来週私誕生日なんだよね♪」
「まさかお前計算してたのか?」
「んなわけないじゃん♪偶然よぐ・う・ぜ・ん」
「ハ〜でお前何が欲しいんだ」
「あら意外に素直ね?」
「お前に誕生日プレゼント貰ったからな…お返しだよ…」
そう、オレの誕生日にトモコはプレゼントをくれた、クマの様な謎のアイツオリジナルキャラクター『クイッキ〜君』の手作りぬいぐるみを…
「ん〜とねあのアンティークショップ結構カワイイの揃ってるのよ、今から見に行かない?」
「ああ、久しぶりにお前の家にも行ってみたいしな」
「ええ♪母さんも会いたがっていたわよマーちゃん♪」
「その呼び方はジュンだけにして欲しいよ」
「私歩きだから自転車後ろに乗せてってよ」
「走れよ、重いんだから」
「殴るよ?」
「すいません、どうぞ」
トモコを後ろに乗せて自転車をこぐ、いつもの事なのに何故か俺は嬉しかったジュンに
「トモコに男ができた」
と聞かされたとき、オレは気づいたんだろう、でも認めたくなかった、アイツは他の誰かと付き合っているのに好きになってもそれはツラい、だから認めたくなかったんだ、いつもアイツはオレの横にいた、そんなアイツが誰かに取られたと思って始めて気づいた、情けない話しだ、でも勘違いだったって分かった今認める事ができた『トモコが好きだ』と
「もうすぐ冬ね」
「ああ、寒いか?」
「ううん、アンタの背中暖かいから…」
「マサキさん?どうしたんですか?」
「ゴメン、またボーっとしてた」
「本当にヒロキさんの言う通りですね、すぐボーっとするって」
「怒った?」
「いえ、私もよくボーっとするんですよ」
「似たもの同士だね」
「ですね♪」
不思議だった、アイツと同じ顔なのに性格は全くの反対、もし神様がいるならオレに何を伝えたいんだろう?オレを苦しめたいのか?ん…待てよ…今日の合コンをセッティングしたのはジュンだったよな?アイツ何か知っているな…
「アイリとヒロキさんドコ行ったんですかねぇ?携帯は通じないし…」
さっきまで一緒に飲んでいたけどヒロキの
「すまん、オレアイリちゃんと…その」
の一言でお開きになった、見るとアイリちゃんも恥ずかしそうに頭をペコリと下げた、オレは事情を察知し2人分の飲み代を受けとった
「全くドコいくか位教えて下さいってんですよ〜」
この状況で何もわからないセイコちゃんって…演技か…?
「セイコちゃん、あのね、今日はもう遅いから…2人は…」
「あっ…帰ったんですね?」
「……ああ、そうだろうね」
この娘天然だ、間違いない…
「じゃあ私たちも、帰りますか…?」
「うん…駅まで送るよ」
「今日は楽しかったです、また遊び行きましょうね?」
「うん、気を付けてね」
「じゃあ、また」
そう言うとセイコちゃんは改札を抜けてホームへ向かう、オレも帰ろう…ここからなら歩いてかえれる、その時
「また会いましょうね〜マサキさん!!!」
大声が聞こえてきた、振り返ると改札の向こうでセイコちゃんが叫んでいた、オレは一言
「ああ!約束だ」
と叫んでいた、多分酒のせいだろう、周りの見る目なんて気にならなかった、セイコちゃんもだいぶ酔っていたみたいだ、そして今度こそ帰ろうとした時、無意識に涙がこぼれ落ちた、嬉しかったのか悲しかったのかわからない、ただオレはセイコちゃんを好きになりかけている、人を好きになる事なんてもう二度とないと思っていたのに、『アイツと同じ顔をしているだけって事で好きになりかけたのか?』そう思うと自分が凄く情けなく思えてきた、アパートに帰り付くなりいきなり
「だーれだ」
目隠しをしてきたバカがいた、オレにこんな事をするヤツは一人しかいない
「ジュンだろ?」
「当た〜り〜♪凄いじゃんマーちゃん」
「だからマーちゃんはやめてくれって、もう21だぞ」
「それより〜合コンどうだったの?」
「お前何か知ってるのか?」
「セイコちゃんの事?」
珍しくジュンが真面目に答えた、アイツが居なくなってジュンは少し変わった、それまでは何があってもふざけた返事しかしなかったがアイツの話題になるとピタリとふざけるのを止めるようになった、オレの事を
「マーちゃん」
と呼ぶ事だけは止めるなかったけど、
「ボクも最初はビックリしたんだよ、彼女のアルバムを見ていたらいきなりトモコちゃんの顔があるんだもん」
「お前の今の彼女って ?」
「うん、○×女子大の一つ年下の娘、高校も○×女子大の付属女子高でセイコちゃんもその時からの友達だってさ」
「じゃあやっぱり他人のそら似って事か…」
アイツがいなくなった時誰もが死んでしまったと思った、事件現場をみた人間なら誰だってそう思っただろう、おびただしい量の血液が撒き散らされ粉々になったオレのプレゼント、今思い出しても頭がおかしくなりかけてしまう…… 2000年11月19日
「おいジュン、大沢さんと付き合ってるんだろ?」
「バレちゃったザンスか?しょうがないザンス」
「また新作?今度は何なのよ?」
「細かい事はどうでもいいザンス」
「…もうどうでもいいや…で、お前の言っていたレストランってどこだ?」
「そこの門を曲がったとこザンス」
「ジュン悪いわね〜、店探しから予約まで全部任せてしまって」
「馴染みの店なんだ〜『友達の誕生日』って言った特別コース作ってくれるって言ってくれたんだよ〜」
「馴染みの店ってお前誰と来るんだ?」
「女の子とか〜女の子とか…、あっ後女の子♪」
「アンタねぇ…全く」
「あっ、ココだよ〜」
そこは街外れにある洋館を改造した、小綺麗な感じのレストランだった、今日は主役のトモコはタダメシを食えるらしく(アイツが決めた自分ルールで)オレとジュンが3人分の料金を払わなければならない
「おいジュン…値段大丈夫なんだろうな?」
「心配しないでよ〜1人4000円のコースを2000円にしてくれるってさ〜」
「へぇー、なら安心だな、じゃあ入ろか?」
店内に入るとそこはレトロな感じの家具で揃えられた大人の雰囲気に包まれていた、こんな店を馴染みの店にしているジュンがなんだか大人に見えた
「いらっしゃいませ…あらジュン君、奥に準備できてるわよ」
「ありがとう〜レイコさん、えっとこっちの2人が…」
「マサキ君とトモコちゃんね?」
「うん♪」
「いらっしゃい2人とも、私がこのレストラン『月水館』のオーナーシェフをやってる、三河レイコよ、ヨロシクね」
「こちらこそヨロシクお願いします、今日は特別な値段でお食事させてもらえるらしくって、どうもすいません」
「あら、気にしないでよくジュン君から貴方達の話しを聞いていてね、一度会ってみたかったのよ」
「あのー、私達の話しって?」
「貴女がトモコちゃんね?私の若い時に似て美人だわ〜」
「何言ってるんですか〜レイコさんだってまだまだ30代じゃないですか♪」
オレとトモコはビックリした、レイコさんはどうみても20代前半、下手するとオレ達と同い年に見えた
「もう!ジュン君!歳の話しはしないでって言ったでしょ」
「ゴメンなさい」
「ホントにこの子は〜」
「あの〜レイコさん、私たちの話しって?」
「ああ、ゴメンなさいね、彼女にふられる度にジュン君がウチに来てボヤくのよ『幼なじみに仲のいいカップルがいるけどそんな風になりたい』ってね」
「「コイツとはそんなんじゃありません!」」
オレ達は声を揃えて否定した
「あらあら、仲のいいことで、さぁ奥に用意ができてますよ」レイコさんに進められて俺達は店の奥の個室に入った
「ジュンってレイコさんとどんな関係なの?ただのお客さんじゃなかったみたいじゃない?」
「前に付き合ってたんだ♪ふられちゃったんだけど今じゃいいお友達だよ」
「ふ〜ん、そうなんだ」
「お前やけに冷静だな…、驚かなかったのか?」
「もうジュンの恋愛関係は何があっても驚かない事にしたの」
「確かに、一々驚いてたらキリがないからな」「そう言うこと」
「なんかボクヒドい事言われてない?」
「気のせいよ」
「ふ〜ん、気のせいか〜」
「ねぇ貴方達食前のワインいかが?」
レイコさんがワインをもって部屋に入って来た
「俺達未成年ですよ?」
「いいからいいから、少し位平気でしょ?」
「う〜ん、じゃあ少しだけいただけますか?」
「はい、じゃあこれ」
そう言うとレイコさんはワインとグラスを3つ俺に渡してくれた
「お料理ももうすぐもってくるからね」「ワインなんて久しぶりだわ、早く飲みましょうよ」
「久しぶりってお前飲んだ事あるのかよ?」
「父さんの晩酌に良く付き合っていたのよ、最近は父さん健康の為に禁酒してるから」
「不良娘め」
「アンタだってよく友達と飲みに出かけてるらしいじゃない?ジュンからきいたわよ」「うっ…」
「アンタの方がよっぽど不良息子よ」
「………」
「ねぇ〜早く乾杯しようよ〜」
「そうね、じゃあマサキ音頭とってよ」
「…暴力女の誕生日に…
「殴るよ?」
「ゴホン!じゃあトモコの17のバースデイに…」
「「「乾杯!!!!!!」」」 アイツと一緒に飲んだ始めてのワイン、アイツの17歳のバースデイ、そして俺がアイツに気持ちを打ち明ける事を決意した日………もう戻る事はできないんだ… 続く…