夢見の国
夢見の国、人口一万人ほどの小さな王国。
空は闇に覆われ、お月様の月明かりだけが地上を照らす常夜の世界。
夢見の国には私達、夢見族という種族の妖精が住み、世界中に発生する様々な夢の管理を行っています。
妖精と言っても、伝記に出てくる様なミニマムサイズであるとか、羽が生えているという事はなく、見た目は普通の人間と変わりません。
ただ、普段は人間に見えない様に仕事をし、人間とは違う世界に住んでいるということで、妖精という呼ばれ方をしているのだと教わりました。
私とマールが住んでいるのは、夢見の国の中心にそびえ立つ夢見城。
高く積み上げられた城壁と、周りをグルリと囲むように水路が設けられ、攻めるに難く守るに易い鉄壁のお城です。
とはいえ、これまで革命とか紛争といった類の事柄には無縁の王国だったため、その城壁などが役立つ機会はそうそうありませんでした。
「アンネ様、睡眠薬の調合も良いですけど、もう少し勉学の方にも力を入れて頂かないと、ネンネ様に申し訳が立ちません」
「まるで、私が勉学をサボっているとでも言いたげですね」
私が大股かつ早歩きで歩くせいで、マールは小走りじゃないと付いて来れないようです。
その様子を横目で確認しながらも、私は歩を緩めることはしませんでした。
「実際、毎回サボっているじゃないですか」
「……むう」
スピードアップしてやる。
赤絨毯の廊下を競歩スタイルで突き進む私、それを小走りで追いかけるマール。
「あぅ、速いです」
「マールが小さいからです」
「小さくないです」
謁見の間へと続くこの廊下ですが、数分歩いても奥が見えないほど長いのです。
半分位削ってしまっても良いんじゃないかと思う今日この頃。
まぁこれだけ長ければ、敵侵入時にも十分な時間稼ぎが出来るというものですが。
「しっかり勉学しないと、ネンネ様みたいに立派な人になれませんよー」
「良いのです、私は私の道を行くのです」
さて、さきほどからマールが言っているネンネ様というのは、先代女王、ネンネクロイツドリームドリムエリストリーアシュトワルゼの事です。
相手の瞳を直視するだけで、思い通りの夢を見させることから、彼女の瞳は夢見る瞳と呼ばれていました。
この瞳を使いこなし、数々の争いを治めながら夢見の国をまとめあげ、さらに多くの者達を幸せにしたという史実。
歴史の教科書にも記載されているほど有名な話です。
「もう五年、ですか……」
「待って下さいアンネ様ー、速いです」
「そうですね、早いものです……」
そんな誰からも愛されていた女王が亡くなったのは、夢魔族と呼ばれる夢を喰らう魔族との戦争が原因でした。
本来は大人しいはずの夢魔族が突如、エネルギー源である夢を目的に、夢見の国に戦争を仕掛けてきたのです。
周囲の反対も押し切って勇敢にも前線に立ち、夢見る瞳によって夢魔族を撃退していく女王。
ほどなくして戦争は終結するかのように思えました。
しかし、夢見の国側より放たれた一筋の矢が、前線に立っていた女王の胸に、深く深く突き刺さったのです。
心臓を貫かれたショックにより崩れ落ちそうになりながら、それでも彼女は気丈にも立ち上がりました。
胸を己の血で紅く染めつつ、最後の力を振り絞って夢魔族を退けた女王の姿は、今でもこの瞳に焼き付いて離れません。
声すら出せず、瀕死の状態で倒れ伏した女王は、医療隊の救助を無言で断りました。
もはや助からないという自身の状態を理解して、国民の救助を優先したのでしょう。
夢見る瞳は、駆け寄った私の瞳を捉え、そして微笑みました。
――アンネ
微笑みながら、優しく私を抱き締めてくれる女王。
こうしてもらうのは何年ぶりでしょうか、消える間際の生命とは思えない温もりが、肌に伝わります。
――この国を、夢見の国を頼みます
――貴方には、この
突如見せられた夢から醒める私。
最後の言葉を聞かないままに、私の意識は現実へと連れ戻されました。
それは夢見る瞳が見せた最期の夢。
国王は、愛する妻の名前を何度も何度も呼びながら彼女の胸の上で泣き、
私の妹リンネは、事態がよく分かっておらず、私の顔と亡くなった女王の顔を交互に見比べて、困ったような顔をしていました。
既に息を引き取った女王の姿を見て、涙が頬を伝います。
私は声すら出せずに泣いていました。
後になって、矢の先端には毒が塗ってあり、この事件が意図的な物だということが分かりました。
愛する妻を失い、怒り狂った国王は弓兵隊を一人残らず処断してしまいます。
結局、矢を放った犯人は分からないまま真相は闇に閉ざされ、五年の歳月が過ぎたのでした。




