表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

レプリカを抜いただけなのに

掲載日:2026/08/14

 高校の夏休み。暇だ。

 朝から暇なので、なんの気なしにテレビを点ける。


 ピッ。



『……では、中継先の佐藤さ〜ん』


『は〜い。私はいま、碼留(メル)フォード領の毛呂(ケロ)トン村に来ておりま〜す。今は夏休み真っ只中ということで、観光客でいっぱいで〜す』



 碼留フォード領って隣じゃん。



『村なんですねぇ。本当に観光客が多いみたいですが、何かあるんでしょうか?』


『はい、この毛呂トン村には、実は【勇者の剣】のレプリカがあるんですよ〜。勇者の剣はご存じのとおり王室が所蔵する神器ですが〜、あちこちの土地にレプリカが造られているのを知ってますか〜?』



 あ〜、はいはい。勇者の剣ね。



『そうですねぇ。確か全国の四十九ヶ所にあったと記憶してますが』



 えぇ、そんなにあんの?



『そうなんです〜。町おこし・村おこしで申請して王室が許可を出した土地に勇者の剣のレプリカがあるんですが〜、このっ、毛呂トン村がっ、五十ヶ所目になるんです〜。ちょうどキリが良いということもあって、今年の夏休みは、こうして新しい勇者の剣を見に、観光客が訪れているんですね〜。他にも、勇者グッズとか展開してて賑わってるんですけど〜、それだけじゃ無いんです〜。スタジオの鈴木アナ、それぞれの土地の勇者の剣、何で出来てるか知ってますか〜?』


『ほとんどは鉄製ですよねぇ。あと銅ですか。惧玲(グレ)デナール領にあるのが木製だったかなぁ』


『そうですね〜。ほとんどの勇者の剣は、鉄製か銅製なんですよ〜。で・す・が、この毛呂トン村の勇者の剣、実は、勇者の剣初の、石製なんです〜。驚きでしょう!?』


『え? 石? 石の彫刻ってことですか?』


『そうなんです〜。こちらが、その石製の【勇者の剣】で〜す』


『わ〜、本当に石ですねぇ(笑)。思った以上に精密で、クオリティ高いです』



 なんだよ、石製の勇者の剣って。意味わかんねぇ。



『今日は、村長さんと製作者の方に来てもらいました〜。おはようございます〜』


『おはようございます』

『おはようございます』


『村長さんは、右の方? あ、はい。えっと随分と賑わっていて、村おこしは成功してるようで良かったすねぇ』


『はい、お陰様で。去年の寂れ様が嘘みたいに、観光客に喜んでもらっております』


『製作者さんは、なんで石の彫刻にしようと思ったんですか?』


『あ、村おこしで勇者の剣のレプリカを造ろうってなった時に、一応、調べたんですよ、全国にある勇者の剣。そうしたら、鉄製が八割で、他も銅とか木とかで石製が無かったんですね。じゃあ、どうせ造るならちょっとでも話題になればと思って、ちょうど花崗岩の産地でもありましたので』


『なるほど。ですが、唯一無二の石製のレプリカではありますが、そんなに観光客を呼べるもんなんですか?』


『それは〜、石製ならではの特徴が、若者にウケたみたいなんですね〜』


『ほお、確かに観光客は若い人が多いですねぇ』


『はい、そうなんです〜。で、その特徴なんですが〜。ここ、この剣が刺さってる土台の所、よく見てください〜』


『いや、カメラさん、寄りすぎ寄りすぎ(笑)。はい、見えました……。あれ? これ、もしかして……』


『分かりました〜? この石製の勇者の剣、土台込みで掘り込んであるんです〜。全国の他の剣は、土台に刺さってるんですよ〜。だから抜けるんです。それで剣を抜いたところを写真に撮ったりするんですけど〜、この勇者の剣は抜けないんですね〜(笑)』



 土台と剣が一体化してるってことか。そりゃあ、抜けんわ。



『抜けないのに若者にウケてるんですか?』


『それがですね〜、抜けるのが当たり前になってるのにここのは抜けないってことで、それが今時の若者にウケちゃったんですね〜。ちょっと、観光客の方に聞いてみましょうか。そこの、青いTシャツの方、どうですか? 石の【勇者の剣】』


『ウィ〜〜〜、抜けないとか、ちょっとクールじゃね?(笑)』『ウィ〜〜』

『面白いっすよね〜、めっちゃ写メっちゃいました〜』



 うわ、陽キャの集団かよ。楽しそうだなぁ。



『あ、お友達も一緒なんですね〜。どんな感じの写真を撮ってるんですか〜?』


『これこれ。こうやって柄握って、うを〜、抜けね〜っ! って(笑)』

『オレら、結構、あちこちの勇者の剣で写真撮ってるんっすよ。スタンプラリーみたいに(笑)』


『わぁ、すごいですね〜。ほらほら、鈴木さん、この方達、こ〜んなにいろんな勇者の剣の写真、持ってますよ〜』


『や、だからカメラさん、近い近い(笑)。あ〜なるほど、他の剣では勇者になりきって撮影するんですねぇ』



 いや、カメラ下手すぎだろ、さっきから。



『そうっすよ〜。だけどここじゃ、勇者じゃ無かったごっこができるんで〜』


『とまあ、こんな感じで若者を中心に、子供さんを連れたご夫婦とか、新しい物好きな方とかが訪れています〜』


『思った以上に楽しそうで、良かったですねぇ』


『そうですね〜。では、スタジオにお返ししま〜す』


『はい、お疲れ様でした〜。……勇者じゃ無かったごっこって、……勇者になりきるのに飽きたってことなんですかね?』


『ちょっと、私には分からないですけど(笑)。でも、それで村おこしができてるなら、結果オーライってやつですね』


『そうなんでしょうねぇ。碼留フォード領の毛呂トン村から中継でした。この後は……』



 ピッ


 面白そうだな。賢治に電話してみるか。


 トゥルルル、トゥルルル、ガチャ。


「おう、賢治? オレオレ。や、待て、切るなよ、詐欺じゃねぇよ。分かってるクセに。いや、今朝のテレビ見た? うんうん、そう、その番組。お前も暇してんだろ? だったら行ってみねぇ? そうそう、勇者の剣を抜きにさぁ(笑)。一泊二日……いや、余裕を持って二泊三日でどうだ? 他のところでも遊ぼうぜ。碼留フォードなら海もあっただろ。うん、うん。あ、それいいな。聖香と摩帆も呼ぼうぜ。ああ、じゃあ、そっちの連絡は任せた。待ち合わせは駅で良いだろ? 宿が取れたらまた連絡するわ。うん、うん。じゃ、また」


 ヒュ〜、ダブルお泊まりデートじゃん。言ってみるもんだな。聖香と摩帆なら断らないっしょ。

 さて、宿、宿。今の時期、空いてるとこってあるかな? あるよな? 





















 イェ〜イ、やってきました、毛呂トン村。

 結局、宿は取れなかった。夏休みなうえに、村おこしが成功して観光客で賑わってる観光地の、周辺の宿泊施設が空いてるはずもなかった。

 幸い、聖香の親戚が毛呂トン村の隣町に住んでて、二泊させてくれることになった。


「勇人くんってば、相変わらずおっちょこちょいなんだから」


「普通は、夏休み前に計画立てるもんでしょう? いっつも思いつきで行動するんだから。直したほうがいいよ〜、ユ〜ト〜?」


「そう言ってやるなよ。勇人なりに僕達と楽しく過ごしたいって思ってるんだから。それに、僕もあの番組見て、ちょっと感化されちゃってたしね」


「マジ、聖香様、神です。アザーっす!」


「もう、調子いいんだから。それは叔父さんに言ってね? いきなりなのに四人も受け入れてくれたんだから」


「ま、せっかく来たんだし、楽しもうよ。まずはどこ行く? やっぱり【勇者の剣】?」


「お店も色々あるんでしょ? 道々、のぞきながら行こうよ〜」


 オレたちは観光客でごった返す道を、逸れないように固まって進んだ。

 道の入り口にはアーチ型の門があって、「勇者ゆかりの地 毛呂トン村」と書かれている。なんでも、2000年前に魔王を倒した勇者が、その旅の途中に立ち寄った村らしい。全国で勇者の剣のレプリカ作製の許可が下りている土地は、全部、勇者が立ち寄った記録が残っているところなんだとか。

 造られたレプリカは【勇者の剣】だけじゃなく、【賢者の杖】【聖女の鏡】【魔法使いの玉】とかもあるらしい。ここ毛呂トン村じゃまだ剣だけみたいだが、そのうち他のレプリカも製作予定らしい。……と、観光ガイドのチラシに載っていた。


「お、あった、あった。あれじゃね?」


「わあ、やっぱり人が多いね。みんな『勇者じゃなかった人』やって写メ撮ってる」


「何が面白いのかよく分かんなかったけど、アレ見ちゃうとなんかウケる〜」


「抜けなくて悔しがるところまでがセットなのか。写メだけじゃなくて動画まで撮ってるから、演技力で楽しんでるんだね」


「よし、順番、並ぼうぜ」



 …………1時間半後。



「やっと順番来た〜。聖香、一緒に撮ろう!」


「うん、じゃあ、両側から一緒に持とう!」


「一番渋ってたやつが先って(笑)」


「いいじゃないか、楽しんでくれるんなら。じゃあ、僕が撮るよ、ポーズ取って!」


 カシャ、カシャ、カシャ。


「じゃぁ、次〜、ケンジね〜」


「え? オレは? オレが言い出しっぺなのに」


「まあまあ、勇人くんは真打ち登場ってことで、最後ね」


 カシャ、カシャ、カシャ。


「ケンジ〜、もっとこう、悔しそうにしなさいよ〜。どっちかって〜と『勇者じゃなくても構わない人』みたいになってんじゃ〜ん」


「いや、勘弁してよ。僕に演技とか求められても」


「んじゃ、次、オレな〜」


「ユ〜ト〜、頑張って剣、抜いちゃえ〜」


「できっか、ば〜か(笑)」


「えぇ? 抜けたら勇者よ。そのつもりでやってよ(笑)」


「それじゃ、撮るぞー」


「おう!」


 グッ、…………ゴトッ。


「へ? え?」


 ゴトンッ、スラーーーッ


「!」「!」「!」



「お、おい、あの子、【勇者の剣】を抜いて……!」

「え? いや、なんで? 土台とくっついてたんだよな???」

「くっつくっていうか、一体だったろ!?」

「えええ? どういうこと? って、なんか剣が……っ!!」


 ペカーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!


「きゃあああ、勇人くんっ!!」


「勇人っ!!」


「ユ〜トッ!!」


「うわあぁぁあああああああああああああぁぁぁぁっ!!」


 シーン…………。


「……って、あれ? 何ともない……」


「勇人、そ、それ、剣が……」


「え? 剣? って! ええっ!? 何これ何これっ!???」


「石の剣が……、普通? の剣に? え、でもこれ【勇者の剣】のレプリカで……」



「……本物だ。本物の【勇者の剣】だっ!!」

「ウヲオオオォォォォッ!! 【勇者の剣】が抜けたぞおぉぉぉぉっ!!!」

「すげぇ! 世紀の瞬間だぁっ!!」



「えええぇぇぇえええぇぇっ!?」











 こうして、現代における勇者が爆誕した。

 村長から知らせを受けた政府の高官らが勇人たちを迎えに来て、彼らは首都の政府庁舎へ連れていかれ国家機密に当たる情報を聞かされる。

 曰く、王室所蔵の神器【勇者の剣】は本物ではあるものの、すでにその役目は終えているため、今はただの剣であること。

 世間に流布している、封印された神器の剣を【勇者】が抜いたから【勇者の剣】と呼ばれているという説は誤りであること。

 真実は、何の変哲もない、剣の形をしたものであればどんな素材でできていようと、【勇者】が抜けばそれが神器と変じ【勇者の剣】となること。

 他の神器【賢者の杖】【聖女の鏡】【魔法使いの玉】も同じ理屈で、それぞれ【賢者】【聖女】【魔法使い】が触れて手に取ることで、どんな素材でできていようと神器になること。

 そして、【勇者】が誕生したということは、現代に【魔王】が現れる可能性が高いこと。

 当然、勇人たちは尻込みしたが、【勇者の剣】を手にした勇人に選択の余地はなく、また、勇人の友人三人もそれぞれのレプリカを試させられ、みな無事に【賢者】【聖女】【魔法使い】として目覚めた。



「なんでこうなるんだよ〜!」


「ユ〜トが剣を抜くからでしょ〜!」


「まあまあ、なっちゃったものはしょうがないよ」


「そうよ、もう覚悟決めて、訓練、頑張りましょう!」



 人類の未来は、きっと、多分、明るい…………んじゃないかなぁ(汗)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ