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炎の波

 戦いが始まってからどれほど経っていたのだろう。

 門壁にはいくつもの梯子が掛けられ、門扉を帝国の破城槌が打ち叩く。

 梯子を昇りきり斬り込む帝国兵に押し返そうとする王国兵。

 苦しいながらも戦況は徐々に帝国へと傾いてきていた。

「昇れ!! 昇れ!! まずは橋頭堡を確保しろ!! 門はその後だ!!」

 門壁上の帝国兵の数がどんどん増え始める。

 一度、橋頭堡となるような地点を作ってしまえば、後は穴が空いたようにあちらこちらでも帝国兵が王国兵を押し出した。

 それを見る暗闇の中の目の主、王国の魔術師が詠唱し始める。

 長い長い詠唱だった。

 時間にして一分は軽く過ぎていただろう。

 王国の魔術師がその長い詠唱を終えた時、戦況は一変した。

「まずい!! 敵の魔法がくるぞ!!」

 周辺の魔力の変化に気付いた帝国側の魔術師の一人が叫び、魔法の障壁を張る。それはさきほどまで張っていた頭上からの攻撃を防ぐ為だけのものではなく、己の身と周囲の者達を僅かばかり守る為の半球体状の障壁である。

「しまった!!」

 他の魔術師達も慌てて障壁を張りなおす。だが周囲の者全てを守るのは不可能だった。

「左だ!!」

 誰かの大声と同時にそれは襲ってきた。

 左手の崖側から突如炎の大波が押し寄せてきたのだ。

 炎の波は腹を空かせた怪物のように、魔法の障壁の範囲外にいた帝国兵達を次々と呑み込んでいった。

「助けてくれぇぇぇ!!」

 範囲外に逃れようとする兵士もその波の速度には敵わない。

 炎に塗れた人間達の絶叫が辺りに木霊し、地獄を体現させる。

「な、なんという力じゃ」

 帝国の老魔術師は必死に己の障壁に魔力を送り込み、炎の濁流を耐える。

 二つの魔法の力が音を鳴らしながら激しく衝突を繰り返した。

「ちくしょう、障壁がもたない!!」

「うわあああ」

 何人かの若い魔術師達は耐え切れず、障壁を破壊されそのまま味方の兵士達共々炎の中へと消えた。

「やばいぞ、後ろが完全に断たれた!!」

 門壁の上の帝国兵達も動揺していた。退路が断たれただけではない下からの弓兵、魔術達の援護が受けれない状態で孤立してしまったのだ。これでは王国側にとってただの巨大な的である。

「放てぇ!! 射って、射って、射ちまくれ!!」

 王国弓兵達が孤立した帝国兵の固まりに矢を浴びせる。

「盾を構えろ!! 耐えるんだ!!」

 盾を構え、手足に矢が刺さりながらもなお戦う意志を見せる帝国兵達、そこに容赦のない一撃がやってくる。

「魔術師共!! 今が好機よ!!」

 王国魔術師達が放つ魔法攻撃は門壁上の帝国兵に直撃、次々と吹き飛ばし散らせた。

「ぎゃああ!!」

「うわああ!!」

 もはや一方的である。

 戦況は誰の目にも明らかであった。

「後退だ!! 後退しろ!!」

 惨状を目の当りにした帝国の指揮官達が叫ぶ。

 門壁上にはまだいくらか帝国兵が残ってはいたが、救い出すには状況が絶望的すぎた。

「ち、ちくしょう!!」

 炎の波が消えた後、門壁下の焦げ付いた大地に幾らかの兵士が飛び降りる。

 だが高い壁から動き辛く重い防具を着て飛び降り、無事で済むはずもない。打ち所悪く即死する者もいたし、残りは瀕死または重傷を負った。

 とても王国兵達から逃げ切れるような状態ではなく、彼らの運命は死以外にはあり得ない。

 当然だ。帝国の行いを見れば、捕虜として丁重な扱いを期待する方が酷というもの。清い死すら、慈悲と呼べよう。

「魔術師共は何をしてたんだ!!」

 ブレオベリスは激昂していた。

「それほどの術なら、ひよっこ共でも感知できるだろうが!!」

「それが皆上へと意識が集中しておったようで、さらにはどうやら砦の魔方陣も利用していたらしく……」

 ウガルガの大砦の魔方陣は守りの障壁と機能するだけでなく、魔力を高める為の機能も持っていた。

 炎の波を発生させる魔法を唱えた王国側の魔術師がかなりの使い手だとしても、大砦の強力な魔方陣を利用する事なしでは、帝国の熟練した魔術師達の隙を突きながらあれほど強力な魔法を放つなど不可能であったろう。

「言い訳などいらん!! 何の為に奴らに高い金をだしてると思ってるんだ!! こんな馬鹿みたいな目に遭わず済ます為だろうが!!」

「それはそうなのですが、まさか崖の中に空洞を作っているとは」

 報告に来た部隊指揮官の一人が言い訳する。

「馬鹿か!! それぐらい十分有り得る事だろうが、ええ!! ロマリアとの戦いじゃあこっちはもっと大規模にやってたんだ!! 魔術師の一人や二人警戒させんでどうする!!」

「ははっ!! 次はその辺りもしっかりと警戒させ」

「次ぎ? 次だと!! こっちの被害見てそれが言えるのか!! 見捨てたも同然で退いておいて、いったいどうやって兵士共にもう一度壁を昇らせるつもりだ!!」

「では、撤退ですか?」

「馬鹿言え、そんな事出来るか。……糞、予定が完全に狂ったわ。アレを用意させろ」

 ブレオベリスが副官に命じる。

「アレ、ですか。しかし、それでは」

「わかっておるわ。だがな、第一門は何としてでも落とさなきゃならねぇ」

「残りは諦めると」

「……負けだ。俺たちは負けたんだ。だが、最低限の仕事はやり遂げる」

「わかりました、すぐに準備させます」

「丸一日、兵士の休憩兼ねてアレの準備をさせる。勝負は期限最終日だ。失敗は許されねぇ」

 ブレオベリスが睨みつけるように部隊指揮官達の顔を見た。

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