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第一門

 ウガルガの大砦は建設時から今のような三重門の巨大建造物であったわけではない。

 長い年月の間に徐々にその規模を大きくし、今の形となったのである。

 大砦の玄関口であり、最大の特徴でもある三重門は、それぞれ異なった建築材料を用いて作られており、最初に作られた門、砦の心臓部への侵入を防ぐ最後の一枚『第三門』には鉄鋼材が、次に作られた『第二門』には石材が、そして最後に作られた最初の番人『第一門』には木材が使用されていた。

 通常、木材は様々な利点はあれ、耐久性を考えれば外郭と言えど重要地点の砦のそれとしては向かない。それにも関わらず、第三門に木材が用いられたのは使用された木材がただの木材ではないからだ。

 帝国より東、大陸西部と中央部を隔てるように広がる大森林。そこに住まうエルフ達は聖樹サンタリオの守り手として遥か古の時代より暮らしてきた。大森林は聖樹の名からサンタリオ大森林と呼ばれるようになり、エルフの聖地として人間の支配を退け続けた。

 時の流れの中、繰り返された聖地をめぐる戦いはその数だけ悲劇も増やし、人間とエルフ、種族間の溝をより深くしたのである。

 聖地に暮らすエルフ、『ライトエルフ』の人間嫌いは数百年ですむようなものではない。しかし、そんな種族間であっても友情の念が芽生える事もあった。

 二百年近くも昔、バテノアの王となる男とエルフの男の間に生まれた友情は、国と国をも結び付け、男のバテノア王、その戴冠の日に友好の証としてサンタリオのエルフよりバテノア王国へある木材が送られる。

 それこそがウガルガの大砦『第一門』に使われた木材であり、木材となった木は『リオの木』と呼ばれる特別な木だった。

 リオは聖樹サンタリオの『子木』で、サンタリオ大森林でのみ自生する木である。聖樹の影響かその生命力は凄まじく、根がある程度残ってさえいれば、幹を切り倒そうと再び成長する大木だった。

 さらにその材質は非常に軽く丈夫で燃え難く腐り難いと、加工に一手間かかる事を除けばまさに理想とも言える材木で、エルフの住居にはもちろん様々な用途に使われた。

 サンタリオのエルフ社会を象徴するような木材で作られた『第一門』、大砦の外郭と言えど突破するのは簡単な事ではない。

「梯子だ!! 梯子を掛けろ!!」

 帝国兵達は大砦の外郭『第一門』に辿り着くと、門壁の上へと昇る為の巨大な梯子を立て掛け始める。

 当然敵側である王国兵達はそれを防がんと矢を射り妨害、帝国の弓兵もそれに応戦した。

 激しい攻防が行われたのは門壁だけではない。

「急げ!! 何をちんたらしてる!! 門はすぐそこだぞ!!」

 門扉には梯子ではなく、ぶち破る為の攻城兵器『破城槌』が向かっていた。

 破城槌にもいろいろと種類はあり、中には魔力を秘めた強力な物もあったが、帝国が第一門に対して使用した物は一般的な破城槌だった。

 それでも、丈夫なリオの木で出来た門扉だろうと破城槌の攻撃を受け続ければ破られてしまう。

 王国兵の矢と魔法の雨が近付いて来るその兵器と運び手に集中した。

「急げ!! 急げ!!」

 悪路を破城槌が帝国兵に押されながら前進する。

 押し手を守るように大盾を構える兵達、それを射ぬかんとする王国兵。

――バチーン。

 王国の弓兵が放つ矢が目標に到達する前に弾け飛ぶ。

 帝国魔術師の魔法壁が彼らを守ったのだ。

 そして御返しとばかりに別の帝国魔術師の指先から雷が放たれ、王国弓兵を襲った。

「うぎゃああ!!」

「ぐわ!!」

 門壁から吹き飛ばされ落下する部下の弓兵達を見ながら指揮官らしき男が叫ぶ。

「魔法だ!! 指雷の術だ!! こちらの魔術師共にも射ち手を守らせろ!!」

 それを聞いてそばにいた兵士が言う。

「ですがそれではこちらの弓兵の攻撃も障壁に阻まれてしまいます!!」

「こちらの攻撃は上手く通し、敵からの攻撃は防ぐのだ」

「そんな高度な術、使い手は限られますし、何より咄嗟には無理ですよ!!」

「だったら読書好きの頭でっかち共に脳みそ使わせろ!! どこに、いつ、どれだけ、魔法の障壁を張ればベストなのか!!」

 指揮官の怒号が飛び、別の兵士が叫んだ。

「次ぎが来ます!!」

 見ると大きな火球が指揮官目指して飛んでくる。

「うわっ!!」

 指揮官周辺の王国兵達が屈み込み、避けるように退く。

――ドーン。

 火球が音を立てて消えた。

 だが爆散したのではない、龍に呑まれ消えたのだ。

「おお!! 今のは」

 兵士が驚きと喜びの混じった声を上げる。

「水龍の術だ。でかした!!」

 王国の魔術師を褒め、指揮官は再度弓兵達に命じた。

「奴を狙え!! 攻撃時は障壁の外であるはずだ!!」

 慌てて王国弓兵が矢を射るが、敵の魔術師も棒立ちでそれを待つほどアホではない。

「ええい、糞!! ちょこまかと!!」

 大勢の人間が押し寄せてくる中、動く目標だけを射抜くのは困難で、しかも帝国兵達は魔術師を庇い、熟練した魔術師は己の術で多少の矢など防いでしまう。

「殺れ!! 殺れ!!」

「奴だ!! 近寄らせるな!!」

「門だ!! 門をぶち壊せ!!」

 門扉に門壁の上と下、対峙する二軍は激しく衝突していた。

 だが忘れてはならない。王国兵は門だけでなく、左右の崖上にも配置されている事を。

 攻め入る帝国兵の左右の崖上から王国兵が矢を放ち、石を飛ばし落とす。

 帝国兵達はそれらを魔術師達や弓兵達の協力を得て凌ぐが、彼らの意識は完全に固定されてしまっていた。

 門の上、崖の上、『上』へと意識が集中していたのだ。

 だから彼らは気付かなかった。

 彼らをずっと見つめていた目の存在に。

「そろそろ頃合か……」

 暗闇から覗くそれが、呟いた。

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