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三枚目

「準備出来たのは、三人編成の三部隊だけしか……」

 ジェイドの指示を受け、師団内から余力のある魔術師を必死でかき集めた副官であったが、用意できたのはそれだけの数だった。

 普通の兵士ならば脅威となりえるだけの戦力ではあるが、相手がオリハルコン装備の兵士となるとどうしても火力に不安が残る。

「まぁ、いいだろう。相手の不意をつくならそれぐらいの数が逆に丁度よい」

 多くの魔術師が強力な魔法を放とうとすれば、当然空間にある魔力の流れ、濃度、そういったものの変動は大きくなる。それはすなわち、魔法の発動前に敵側がその攻撃を察知する可能性が上がってしまうという事になる。

 少数で不意を付く形の方がよいとジェイドは判断したのだ。

「では、さっそく攻撃を?」

「ああ、二百二十旅団と交戦中の目標に関してはすぐに始めさせろ。他の二匹は知らせがはいってからでいい」

「わかりました」

「私は近付いて目標を仕留めきれるか見ておこう」

「何もジェイド様自らそのような事をなさらずとも」

 副官が戸惑いながら言った。

「失敗なら私がそのままでれるようにね」

「危険ではありませんか? それに戦闘中に知らせとやらが入ってくる可能性もあります」

「いらぬ心配だ。知らせに関しては入ってきたならお前でもすぐにわかる」

「……わかりました」

 抽象的な話に釈然としない感がありながらも副官はジェイドの考えに従うしかない。

「では、任せた」

 そう言ってジェイドはさっさと前線の方へ一人で向かってしまう。

 残された副官は急いで指示内容を部下達を使い魔術師達へと伝達させる。

「二百二十旅団と交戦中の目標について攻撃の許可がでた。すぐに始めろ!!」

 待機していた三人の魔術師はその指示を受けると、体内に残る魔力のすべてを費やして強力な魔法を作りあげ始めた。

 体内で魔力を練り、空間へと練った魔力を放出し、そして放出先の空間内で魔法へと形成する。

 ただ、威力の高いものを作りだせばいいわけではない。不意をつく為に通常よりも攻撃目標との距離をとっており、いたずらに魔力を込めただけの魔法では途中で暴発、暴走してしまう。そうならぬように適切な魔法を作りださねばならない。

 それには高い集中力と繊細な感覚、丁寧に魔力を練り上げ、魔法を形成する為の時間が必要となるのだ。そうして三人の魔術師が生み出す、無数の魔力を帯びた氷の槍、破壊力のある稲妻、大きな火球の魔法は、たった一人の兵士を殺す為のものだった。

 前線で戦う者達の中で最初にその脅威に気付いたのは公国軍側の一人の魔術師である。彼の任務は公国軍の切り札であるドワーフの傭兵ゴールを魔法攻撃から守る事であり、ゴールが前線で暴れはじめるまでは神経を尖らせ警戒していたが、敵味方入り乱れての戦闘が始まってからは心のどこかに油断し警戒を怠る部分があった。

 その為、彼が気付いた時にはすでに魔法が発動される寸前となっていた。

「まずいぞ、奴等味方ごと殺るつもりだ!! 障壁を張れ!!」

 彼の叫び声に、近くにいた幾人かの公国魔術師は慌てて部隊を守る為に障壁の魔法を発動させる。

 だが、その多くはすでに魔力のほとんどを使用しており、弱弱しいものしか張ることができない。

 それに問題は魔力の量だけではなかった。

 強力な魔法攻撃に時間が必要なように、それを防ぐだけの障壁を作りだすのにもまた時間が必要なのだ。

「無茶苦茶しやがる!!」

 無敵の防具を身につけたゴールもさすがに焦っていた。

 オリハルコンがどれだけ丈夫であろうと、中身は生身の肉体である。無事ですむ保証はない。

 当然、他の兵士達も大きく動揺していた。

「そんな、嘘だろ!!」

「俺達を捨て駒にしやがった!!」

「奴から離れろ!!」

 両軍の兵士達がターゲットであろうゴールから離れようと距離をとり始める。だが、魔法の範囲から逃れるには気付くのが遅すぎであった。

 帝国側の前線を援護していた魔術師達は慌てて己の身を守る為だけの小さな魔法の障壁を張る。

 無理矢理召集されただけの彼らには帝国兵達を守る義理などありはしないし、自分一人を守るだけの小さいものなら短時間でもある程度強力な障壁を作れるからだ。

「くるぞ!!」

 兵士の叫び声と同時にそれは飛んできた。

 いくつも重なるようにして張られた魔法の壁へ最初に衝突したのは、氷の槍である。

 闇夜の中、風を切りながら現れた無数のそれらは淡い青色に光りを放ちながら次々と魔法の障壁へとぶつかる。

――バリバリバリ。

 砕け散るような爆音。

 その音が鳴り続ける間に障壁はさらに弱弱しいものへとなっていく。

「だめだ、もたない!!」

 魔術師達の中の誰かが弱音を吐き、砕け散る音が鳴り止むとまた別の魔術師が叫んだ。

「次がくる!!」

 稲妻の強力な一撃が障壁にぶつかる。

――バチーン。

 稲妻は辺りに雷撃を飛び散らせながら、音をたてて障壁と共に消滅する。

 魔法攻撃を防ぐ壁を失った者達は悲鳴をあげる、悪魔の攻撃はまだ残っていたのだ。

「まだくるぞ!!」

「うわああああああ」

「助けてぇえええ」

 巨大な火球が彼らに襲いかかる。

――ドーン。

 地面にぶつかるとそれは爆発を起こし、大地と兵士達を焼き払った。たった一発の魔法が両軍合わせて八百名近い人命を瞬時に奪いさる。

 爆発に巻き込まれた中で生き残っているのは己の身だけを守ろうとした何人かの魔術師達だけ、そうなるはずであった。

 だが、炎の中をゆっくりと動く魔術師ではない者がいた……、ゴールである。

「やってくれるじゃねぇか」

 ゴールの周りには、焼け焦げた遺体がいくつも転がっていた。

 彼が強力な火球魔法の直撃に耐えれたのには、身に着けていたオリハルコン製防具の性能の高さはもちろんの事、ドワーフ族であったという事も大きい。途方もない時の間、ひたすら優秀な鉱物を求めて火山や地下深く、マグマの熱に当てられた中で生活してきた彼らは熱に強い皮膚を手に入れていたのだ。もちろん人間に比べてという話で、限度はあるのだが。

「ん、敵か、味方か」

 炎の熱で視界の先が歪む中、ゴールは自分以外にも動く何かがいる事に気付く。それはゆっくりと彼の方へ近付いてきている。

「誰だ!!」

 現れたのは白髪の男だった。

 薄ら笑いを浮かべながらゴールを見つめるその男が持つ雰囲気には、ただの兵士達とは違うものがあった。

 不自然な落ち着きと、溢れ出す禍々しさ。友好的な者ではないと本能が判断する。

「てめぇか、こんなふざけた真似しやがったのは」

「だったらどうしますか?」

 間違いなくこの男の仕業だ、ゴールはそう直感した。

 夕刻から続く戦場の喧騒、焼け焦げたいくつもの遺体と、赤々と燃え上がる炎の中で二匹の獣が睨み合う。

 一匹は傭兵として、もう一匹は軍人として戦場を渡り歩き。

 一匹は金の為に、もう一匹は生理的な欲求を満たす為に無数の人間を殺し続けてきた。

 二匹に共通するのはただ、己が為に凶器を握り続けた事。

「ぶっ殺す前に名前だけ聞いておこう。こっちは傭兵稼業の身でね。あんたいい値つくんだろ?」

「帝国軍第二十師団師団長ジェイド」

 その名をゴールが知らぬはずがない。

「なるほど、狂乱の貴公子様か。どうりでイカれた面してるわけだ」

「フフ、ドワーフの方よりは整ってるとは思いますが」

「よく言うぜ。人の面の皮こそ被ってはいるが、中が透けて見えちまってるよ。殺人狂の化け物の顔がな」

「怖いのですか?」

「まさか、化け物退治は好きでねぇ。金になるからな」

「残念ですが、お金にはなりませんよ。……貴方はここで死ぬ」

「ほざけ、狂人!! くたばるのはてめぇだ!!」

 ゴールが両刃の斧で攻撃を繰り出す。

――ブオン。

 だが、簡単に避けられてしまう。

――ブオン、ブオン。

 ジェイドは余裕の笑みを浮かべながら、ゴールの攻撃をかわし続ける。

 攻撃が当たる気配はなくゴールは体勢を立て直す為に一度足を止めた。

 予想以上のジェイドの身の動きの速さは、いくら優秀な戦士であろうとその限界を超えているとゴールは感じていた。

「チッ、てめぇ加速の魔法をかけてやがるな」

「ええ」

 あっさりと認めるジェイド。

「だが、魔法の効果はそのうちきれる。いつまで逃げまわっていられるかな」

 体内の魔力によってもたらされるものではなく、意図的に他者、あるいは自分自身で肉体の能力を向上させる魔法をかけた場合、かなりの負担が肉体にかかってしまう。

 その為、比較的短時間で魔法の効果は消えるようになっている。もし、無理に魔法をかけ続ければ死に繋がる場合もあるのだ。

「逃げてるわけではないですよ、からかって遊んであげてるだけです」

「なめた口ばかり叩きやがって」

――ブオン、ブオン

 必死に攻撃を続けるゴールだが、時間が経てども経てども、ジェイドの動きが鈍る様子はなく、一向に捉える気配がない。

 さすがのゴールも何かがおかしいと感じていた。

「もう終わりですか?」

 嘲笑うジェイド。

「何をした、何故スピードが落ちない」

 問い掛けに答えず、ジェイドは相変わらず人を馬鹿にしたような笑みを浮かべるだけだった。

「チッ、……俺を殺すじゃなかったのか? 攻撃を避けるだけじゃ、俺は死なんぞ」

 このままでは、いつまで経っても埒が明かないと、ゴールがジェイドを挑発するかのように言った。

 いくら動きの速いジェイドでもゴールを攻撃しようとすればわずかでも隙が出来るはず、そこを上手く捉えようとゴールは考えたのだ。

「そうですね。そろそろ終わりにしますか」

 ジェイドの言葉に、ゴールは思惑通りに事が進みそうだと思った。

 だが、ジェイドは予想だにもしない行動を取り始める。

――ガシャン。

 手に持っていた剣を放りなげて捨ててしまったのだ。

「何を考えてる」

「貴方を殺そうと」

 余裕を見せ続けるこの男の意図が読めず、空手で棒立ちのその姿にゴールは戸惑う。

「もう攻撃をかわしたりはしませんよ。どうぞ、かかってきてください」

 隙だらけにしか見えないその姿は、いっそう不気味さを増したように感じられた。

「こないんですか? ではこちらからいきましょう」

 ジェイドの言葉にゴールの足が動く。

 相手の攻撃を受けてその隙を付く、それがゴールの狙いだったはずなのにジェイドの予想外の行動は、彼を動揺させ焦らせた。

「なめやがって!!」

 襲いかかるゴールに、ジェイドは言葉通り一歩も動こうとはしない。しかし、動きだしたゴールを見たジェイドは腰を一段と低く落とし、まるで背丈の低いドワーフ為に首を切り落とし易くするかのように構える。

「もらったぁ!!」

 ゴールの持つ両刃の斧がジェイドの首めがけて振り下ろされる。

――ガシッ!!

「な!?」

 ゴールの腕と彼の両刃の斧の柄の部分をジェイドが掴む。

 わずか刃先の数センチ先にはジェイドの首があるというところで、斧は止まっていた。

「くっ、くぅぅ」

 ゴールが力み動かそうとしても、ジェイドの両手はしっかりと腕と斧を抑えびくともしなかった。

「てめぇ……」

「クックック」

 邪悪に笑うジェイド。その顔からは人の面の皮など消えていた。

「てめぇ、筋力強化まで……」

「まさか、俺にかけてた呪文の効果なぞとっくの昔に消えてるよ」

「馬鹿を言え、そうでなければてめぇみたいなひょろい野郎に俺の一撃を受け止めれるわけがない!!」

 必死の形相でジェイドの手を振り解こうするゴールだが、ジェイドはそれを楽々と封じている。

 その怪力がジェイドにかかる魔法によってもたらされているものだとゴールは考えていた。

「クックック、ずっとさ」

 ジェイドの瞳に宿った狂気が広がっていく。

「不思議だったんだよ……」

 語り始めたジェイドの言葉には愉悦と嘲笑が混ざっている。

「どうして、お前達はこんな物を作れるだけの技術がありながら」

 オリハルコン製の両刃の斧の柄を握るジェイドの手に力が込められる。

「人間から逃げるようにして地下に国を築き暮らしてたのかって」

「逃げるだと、俺達の先祖は逃げてたわけじゃねぇ」

「逃げてたさ」

「地下の豊富な鉱物を求めて暮らしていただけだ!!」

「違う、逃げてたのさ。逃げて、逃げて、暗い陽の当たらぬ地下で惨めに暮らしてたんだよ、お前達は」

「何だと!!」

「だって、そうするしかなかったんだよ。ドワーフはみんなお前みたいに弱かったから。クックック」

「てめぇえええええええ!!」

 怒鳴るゴールの思いとは裏腹に動かそうとしても武器はびくともしない。

「術さえきれればお前なぞ」

「お前はまだ気付かないのか」

「なにっ」

「さっき言っただろ。俺にかけた魔法の効果などとっくに消えてる」

「馬鹿を言え。現に今こうやって……、ま、まさか」

「クックック、そうさ。魔法がかかってるのは俺じゃあない。お前だよ、お前にかけていたのさ。しかし、驚いたよ。魔法に弱い種族とは聞いてたが、自分に魔法がかけられたかも気付かぬほど、馬鹿で、マヌケで脆弱な奴等だったとは」

「な、何をした。俺の体に何をした!!」

「衰弱の呪文、徐々に肉体の限界を引き下げる魔法だ。たしかに他の魔法に比べて異変に気付きにくいものではあるが、ここまで術が進行しても気付かぬマヌケは初めて見たぜ」

「衰弱の呪文だと、てめぇ『ブラッドマジック』の使い手か……」

 禁忌の魔術『ブラッドマジック』。大昔の大魔術師グアイドが生みだした魔術である。

 魔王ウルトルが作り出した魔界。そこからこの世界へやってくるとされる魔族や悪魔、一部の魔物達が使う暗黒魔法(闇の魔法)の力に魅せられたグアイドは秘密裏に多くの人体を実験台にしながら研究を続け、血の魔法とも呼ばれるこの魔法を生み出した。

 ブラッドマジックは暗黒魔法にも引けを取らぬほど凶悪、強力な術で、グアイドの研究に気付いた当時の国王は大軍をもってしてなんとか彼を討ち取ったが、術は戦いから逃げ延びた弟子達によって各地に広まってしまう。

 大陸各地の当時の国々は最初こそ、その魔法の強力さに惹かれ、術の研究を許可、支援していたがすぐにその魔法の危険に気付き弾圧した。

 ブラッドマジックは非常に強力ではあるが、暴走しやすいものだったのだ。

 未熟な魔術師達がブラッドマジックによって次々と災いを国にもたらし、滅亡してしまった国すらあったという。

 この扱い難く、暴発、暴走しやすい凶悪な性質からブラッドマジックは大陸中でその使用と研究を封じられ、その決まりを破る者達には極刑の罰が与えられる事となる。

 その状況は現在も代わりなく、ブラッドマジックを正式に許可している国はない。

 だが、どんな時代にもその力に魅せられる魔術師達は存在する。

 彼らは秘密裏に研究をし術を身に付け、同志を集め、非合法集団を作り上げさらに研究を進める。一種の宗教と呼べるようなこの魔法への狂信的な信仰を持つ集団すらあった。

「こんな術を使っててただで済むと思ってるのか」

 ゴールの言う通りブラッドマジックは帝国においても極刑となる重罪、いくらジェイドと言えどバレるような事があれば破滅である。 

「魔法に疎いドワーフに教えてやるよ。この術の優れたところはその威力だけでなく他の呪文と違って探知され難いところだ」

 ブラッドマジックは少量の魔力で莫大な力を発揮する。その性質は必然的にこの魔術に他の属性の魔法に比べて感知され難いという特徴を与えていた。

「だが、完璧な魔法というわけではない。もちろん欠点はある」

「欠点だと?」

「臭いだ。術の生贄となった亡者達の血の臭いがするのさ。フフ、だけどここは戦場のど真ん中、血の臭いを気にする奴なぞいやしない。それにこの悪臭だ。お前だって何もおかしいとは感じなかったんだろ」

「くっ……」

 二人の周囲に漂う悪臭はひどいものだった。ジェイドがかけたブラッドマジックや辺りに転がる無数の遺体が流した血の臭いも当然あったが、それよりも火球の魔法に焼かれた人体が焦げる臭いは特に強烈であった。

「このまま衰弱の呪文の進行でくたばる様を眺めるのもいいもんだが、残念ながら俺は忙しい身でね。そろそろ終わりにさせてもらう」

 ジェイドは相手の体を引き寄せ、片腕と腋だけでその動きを封じる。

 そんな事が可能なほどゴールの筋力は低下していた。

 ゴールは既に自身が身に付けている防具の重さに耐えるので精一杯で、ジェイドを押し退ける力など無い。

「何をするつもりだ」

 ジェイドが空いた方の手をゴールの鎧の部分に添える。

「まぁ、見ておけ」

 そう言ってジェイドが呪文を念じる。すると、鎧の手が当てられた部分の色が変わりはじめる。

 オリハルコン特有の炎のように美しい光沢は失われ、黒く淀んだ色に染まっていく。

 それは徐々に拡がっていき、ジェイドの手より一回り大きなものとなった。

「腐食の魔法だ」

 鎧の黒く濁った部分はボロボロと崩れ落ち、ゴールの腹部に悪寒が走るような感触が生まれる。

「馬鹿め、調子に乗りぎたな。こんなに変色させれば、ブラッドマジックを使った事などすぐにバレる。てめぇも終わりだな」

「証拠を残さなければいい」

「なっ!?」

「俺は火属性の魔法にも心得があってね。クックック、この至近距離ではオリハルコンの防具とて爆破の呪文で木端微塵だ。もちろんお前の体もな」

 魔法の魔力はたとえ対象者が死のうと一定時間その遺体に残留する。

 ブラッドマジックは感知され難い魔法ではあるが、万が一遺体をすぐに調べる者がいれば使用した事がバレる可能性は零ではない。で、あるならば魔力が残留する肉体事吹き飛ばしてしまえばいいわけである。

「ま、待て!!」

「では、さようなら」

 問答無用でジェイドは爆破の魔法を発動させる。

――ドーン。

 ジェイドの手から爆炎が上がり、ドワーフの肉体をその装備品ごと散り散りに吹き飛ばす。

 爆発によって生まれた衝撃波はジェイドの周囲の遺体を吹き飛ばし、めらめらと燃えていた炎を掻き消すほどの勢いであった。

――この程度なら、奴等でも問題ないか。

 ハンスとトンボの事がジェイドの頭をよぎり、どこか不満気な表情を浮かべ彼はその場を去ろうと歩きだす。

――ヒヒーン。

 突然ジェイドの後方から馬のいななきが聞こえ、さらに男の声がする。

「ジェイドオオオォォ!!」

 ジェイドが歩みを止め振り返り、声のする方を向くとそこには見覚えのある男が馬に跨っていた。

「おやおや、これはお久しぶりです」

「キサマさえ、キサマさえいなければ!!」

 ジェイドの前に現れた男の顔は鬼の形相である。その顔を嘲笑うような口調でジェイドは言った。

「そんなに怖い顔しないでくださいよ、前師団長殿」

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