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ハンスとスタール

「どうした、どうした。これが栄光ある帝国軍様の実力かぁ!?」

 スタールがたじろぐ帝国兵を挑発するように言い放つ。

「いったいどうすれば」

 前線で戦う帝国兵達の間には絶望的な雰囲気が漂っていた。

 通常の武器は通用せず、魔術師が苦労して味方の間を縫う様に放つ魔法攻撃も下級魔法の為、避けられ、障壁に阻まれ、当たったと思えば、鎧や兜の傷が少し増える程度である。

「このままでは……」

 ほとんど打つ手なしとなり、兵士達が死を覚悟したその時、後方から馬が駆ける音と共に一人の男が現れた。

「ハンス様!!」

「師団長!!」

 その男の姿を見た帝国兵から驚きの声と共に安堵の声があがる。

「ハンス様なら奴も……」

 ハンスは馬から飛び降りると、そのままスタールの前へと立ちはだかった。

「奴の相手は私がする。周りにいる敵兵の相手は任せたぞ」

「わかりました!!」

 ハンスの指示に帝国兵達はスタールを避けるようにして彼の周囲にいた公国兵と戦いはじめる。そして、不自然なようにハンスとスタールの決闘の為の空間できていく。

「ほう、お前が噂の三弟のうちの一人、第三師団長のハンスか。光栄だぜ、普段の俺じゃあ相手にはならないだろうが……」

 スタールが不敵に笑う、そして……。

「今の俺はまさに無敵!! 悪いがその首もらうぜ!!」

 スタールは地面を蹴り上げ、そのままハンスへ斬りかかる。

――シュッ。

 だが、彼の両手剣は空を切る。

「まだまだ!!」

―シュッ、シュッ。

 二度、三度と斬りつけるがすべてかわされてしまう。

「チッ、ちょこまかと」

 そう言ってスタールが体勢を立て直しもう一度斬りかかろうとした瞬間、公国兵の誰かが射った矢がハンスに襲いかかった。

――キン。

 ハンスはその不意打ちの矢を剣で難なくと弾き飛ばす。

 それを見た、スタールが絶叫する。

「誰だあ!! こいつは俺の獲物だ!! 手出しするじゃねぇ、てめぇら雑魚共はお呼びじゃねぇんだよ!!」

 スタールの叫びに萎縮したのか、それから二発目の矢が飛んでくる様子は無い。

「傭兵にも騎士道を理解するものがいるとはね」

 ハンスの言葉にスタールは笑って否定する。

「ガッハッハ。騎士道だって? 勘違いするなよ小僧、俺は傭兵だ。ただ貴様ほどの獲物を他人に横取りされるのが許せねぇだけだ!!」

「それは……、残念だ!!」

 今度はハンスがスタールに襲い掛かる。

「何!!」

 その速度はスタールの予想よりもはるかに速かった、慌てて剣で自身の顔を守ろうと構えるが……。

――シュッ。

 ハンスの攻撃も空を切るだけであった。

「クックック、お前わざと外したな」

 ハンスは肯定も否定もしないで、もう一度剣を構えなおす。

「そりゃあそうだよな。あんたの剣がどれほどの名剣か知らないが、こいつにはかなわない」

 スタールは自身の持ってる剣を少し振って強調する。

「当ててしまえば、下手すりゃそのままボキンだ」

「それはどうかな」

「戯言を……、それじゃあいっちょ試してみるかぁ!?」

 再び飛びかかるスタール。

――シュ、シュ、ブオン。

「避けてばかりでは俺には勝てんぞ小僧!!」

――ブオン、シュ、ブオン。

 攻撃をかわし続けるハンスにムキになってしまうのか、スタールの太刀筋が大振りで荒いものへと変化していく。

 通常の防具なら隙だらけの攻撃であった。だが、今のスタールが気にかけるべきは顔のわずかな部分だけ、姿勢をある程度制御するだけでも致命傷となる攻撃を防げるのである。

 ハンスも容易には反撃できない。

――ブオン、ブオン、ブオン。

 両手剣を振り回し続けながらスタールが言う。

「おいおい、まさか逃げ回って俺のスタミナが切れるのを待ってるつもりかい? だとしたら、やめときな小僧。俺たちドワーフはてめぇら柔な人間共とは違うんだぜ!!」

 彼の宣言通り、ハンスが何度となく避け続けても剣速が鈍る様子はなかった。

「なるほど、さすがはドワーフ族だ」

 ハンスは足を止め、しっかりと剣を構えなおす。

 その様子を見てスタールが言った。

「覚悟を決めたか小僧。俺の攻撃をかわそうが、受けようが結局はダメなのさ、お前は俺に討ち取られる運命なんだよ!!」

 今まで以上の渾身の一撃を放つドワーフの傭兵、その攻撃はついにハンスを捕らえる。

――ガキーン!!

 一際大きな金属音がした。

 音を発した金属の武器が弾き飛ばされ闇夜の空に舞い上がる。

 そして、その武器の使用者も自らに襲いかかったとてつもない力を受けて二、三メートルほど吹き飛ばされてしまう。

「何故……」

 男は目の前の光景、自身の身に起こった事を信じられないという表情をしていた。

「何故、俺が、俺が……」

 スタールは尻餅をつきながらハンスを見上げていた。

「何をした、何をした小僧!!」

 ドワーフが怒鳴り声をあげる。彼の手には既に武器はない。

「慢心したな、ドワーフの戦士よ」

 ゆっくりとハンスはスタールとの距離詰めていく。

「慢心だと!? いったい何を……、確かに俺の攻撃は貴様を捕らえた。何をした!! 何故俺の攻撃を受けたお前の剣が無事なのだ!?」

 距離を詰め終えたハンスが剣先をスタールの方へと突きつける。

「攻撃をかわし続け、動きが鈍るのを待っていたのではない。私はずっとお前の太刀筋、その癖を見ていたのだ」

「だからどうした。そんな事をしたってお前の剣ではまともに受け止める事などできるはずが!!」

 混乱するスタールの目の前に突きつけられたハンスの剣が淡い青色の光を放ちはじめる。

「その光、まさか……」

「ようやく貴公にも見えたか、この剣に宿る力のオーラが」

「くっ、マジックソードか」

 付与魔術(魔法)、物品に魔力を与えてその物の性能を変化、向上させる魔術。今ではこの術の使い手は少なくなっており、さらに術の効果は一時的なものでしかない。

 しかし、かつてこの大陸に住む人間達が一つの大帝国パンゲアのもとに統治されていた時代には、付与魔術は最盛を極めていたという。魔術師達は魔力を宿した物品を次々と生み出し、その性能は実に様々で優れた物が多く、宿した魔力の効果は永続するものが多かった。

 これら大帝国パンゲア時代の付与魔術から生み出された数々の品を『マジックアイテム』と呼び、人々は珍重していた。マジックアイテムはそれぞれ、剣ならばマジックソード、盾ならばマジックシールド、指輪ならばマジックリングなどと呼ぶ事もある。

 ハンスが持つ剣もそんなマジックアイテムのうちの一つだったのだ。

「最後に言っておこう。貴公が敗れたのはこの剣の力のせいではない。自身の装備に自惚れた、その慢心が敗北を招いたのだ」

「クックック、慢心か。なるほど……、確かにお前は腕の立つ騎士様だぜ。三弟の名は伊達じゃなかったってわけだ。……小僧、あの世で再び立ち合う機会があれば、その忠告を活かさせてもらうぜ」

 スタールが敗北を悟ったという顔をしながら言った。

「さらばだ」

「地獄でまってるぜ」

 それがこの男の遺言となる。

 死を覚悟して抵抗する様子のないスタールの顔をハンスが貫く。

――カン。

 ドワーフの頭を貫き、オリハルコンの兜に剣先がぶつかる音がした……。

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