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ジェイドのやり方

「そんな事できるわけなかろう!!」

 公国軍との戦闘前の師団長達による作戦会議においてハンスは珍しく激怒していた。

 密偵から公国軍にオリハルコン装備の傭兵が三名いる事を戦闘前に知らされ、ジェイドから味方ごと魔法攻撃するという作戦が提案されたのだが、ハンスが拒否していたのだ。

「では、どうするおつもりで? この戦いがどれほど重要なものとなるかハンス殿は十分とご理解なさってるはずでは?」

 嘲笑うような調子でジェイドはハンスに尋ねる。

「くっ、ならば私が直接討ち取ろう」

「それは、それは」

「そうすれば問題ないはずだ」

「そりゃあ、おもしろそうだ」

 トンボが笑いながら言った。

「ですが、ハンス殿ほど腕の立つ騎士でも、もしもという事があります。貴方の身に何かあった場合、その時は私の作戦を実行させてもらいますよ」

「わかった。だが、約束してもらおう。私の身に何か起こるまでは勝手に手をださないと」

「もちろんですよ。まさか、生きている貴方事吹き飛ばすわけにもいかないでしょう。後が怖いですしね」

 そう言って笑みを浮かべるジェイドだが、その目は笑ってなどいない。

「騎士の名誉にかけて約束を違えるような事はしないでもらおう」

「騎士の名誉でも神様でも、お好きなものにかけて約束しますよ」

「その言葉信じておこう。では、これで失礼させてもらう」

「ええ、これにて解散という事で」

 席を立ちその場を離れるハンスの姿を見ながらトンボが言った。

「騎士の名誉だってよ。ヘッヘ、本当に立派な騎士様なこった。けどジェイドいいのか、約束なんてしちまってたけど鬱陶しい奴だしそのまま殺っちまうか?」

「別に構わないさ。奴が有能な軍人である事は違いない、実際に討ちとれたならそれも良しだ」

「くっくっく、利用できそうなら、骨まで利用する男だもんなぁ、お前は。……それよりもだ。俺もオリハルコン装備の敵には興味があるぜ。いっちょ暴れてきてもいいか?」

 ニヤつきながらトンボが言った。

「好きにしろ。俺はお前がくたばりかけたら、そのまま攻撃させるだけだ」

「心配するなって、いくらオリハルコン装備だからと言って、俺様がドワーフのチビ共に殺られるわけねぇだろ。ガッハッハッハ」

 大声で笑う大男の姿をジェイドは冷めた目で見ていた。



「報告!! 敵の反攻の原因ですが、どうやら全身オリハルコン装備のドワーフがでてきたもよう。前線の兵達ではまったく歯が立たないようです。確認されているのは三名で、第三十三旅団、第二百二十旅団、第四百三十旅団がそれぞれ交戦中との事です」

 前線の兵からの報告にジェイドは特に表情を変化させるわけでもなかった。

「やはりでてきたか」

 ぽつりとジェイドが呟く。

「やはり?」

「フフ、いやこちらの話だ」

 そう言われた兵士は傍にいる副官の男と互いの顔を見合わせながら沈黙した。

「いかが致しましょう。一度兵を退いてしまって立て直すという事もできますが……」

 副官の男がジェイドに助言する。

「その必要はない。魔力の残った魔術師達を用意しろ」

「魔術師ですか? たしかに幾人かの魔術師は魔力を残してるでしょうが、前線の兵がいるかぎり魔法攻撃にも制限が」

「彼らには皇帝陛下の為に、尊い犠牲となってもらおう」

 平然と言い放つジェイドに副官は一瞬の間、絶句してしまう。

「いや、しかしそれはあまりに……、兵達を退かしてからの方が後の為にも」

「後の為にも犠牲になってもらうのだ。考えてみろ、後退する前線の兵を敵が安易に見逃してくれはしないだろう。意地でも張り付いてくる。当然そんな敵から兵を後退させるには囮となる者を多く必要としてしまう。ならば最初から後退などさせず、味方ごと敵を殺ればいい」

 ジェイドは冷めた口調のまま話を続ける。

「それに、そのドワーフは奴等にとって最重要な駒だ。前線の兵を後退させはじめ距離ができれば敵側も魔法攻撃を警戒する。それでは兵を退かせた意味が無くなる。味方ごと攻撃はしてこない、その油断を利用するわけだ」

「しかし……」

 食い下がろうとする副官にジェイドは先ほどよりも若干強い口調になる。

「いいか、これは命令だ。もたもたすればそれだけ帝国側の骸の数が増えるだけだぞ」

「わ、わかりました。準備させます」

 副官の男は従うしかなかった。ジェイドがどのような人物であり、下手に逆らおうとすれば自身の命が無いという事を理解していたからだ。

 それにジェイドの師団は旧四百二十旅団の兵をはじめとして金と恐怖によって集められた集団であり、仲間を見捨てる事に躊躇いが少なかった。まともな人間が多くいた旧四百二十旅団を除く他の旧二十師団の兵達の多くは他の師団に移ったり、一年前の戦いで戦死してしまっていたのだ。

 力量はあれど寄せ集めの仲間意識の欠けた集団である現第二十師団、それが今回のような状況ではいい方向に働くのである。

「それと、第三十三旅団と第四百三十旅団の方にも同じように手助けする準備を」

「はっ、しかし彼らはハンス殿とトンボ殿の師団の所属。勝手に彼らの兵ごと攻撃したとなると問題に……」

「許可はとってある。準備だけさせておけ。合図をだしたら構わず攻撃させろ」

「許可ですか……」

 副官には信じられなかった。ジェイドと古くからの付き合いであるトンボの師団は実質ジェイドの師団のようなものであったが、ハンスがこのようなやり方を許すとはとても思えなかったのだ。

「何度も同じ事を言わせるな」

「わかりました。師団内で魔力の残った魔術師達をかき集め、攻撃準備をさせます」

「それと、そろそろ頃合だ。例の伝令もだしておけ」

「了解しました」

 副官の男は唖然とした表情のまま話を聞いていた兵士達に指示し、自身も魔術達のもとへと奔走し始める。

 そして前線を見つめるジェイドは独り、笑みを浮かべるのであった。

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