"死の時は終わりて"
「子供だけでこんな所、来て良かったのかな……」
臆病風に吹かれだした兄の尻を、後ろから蹴り上げる
夕暮れの陽射しは僕たち吸血鬼には少しキツいけど、これから訪れるであろう優しい夜を感じられて、僕は好きだ
「お兄ちゃん、ここは恐ろしくて気持ち悪い場所だから禁止されてるだけで、別に危険では無いんだよ?」
呻く兄の背に情報を補足する
優しい兄ではあるし本当は大好きなのだが、頼りない所はいつも腹が立つ
「あっ、ほら……」
「着いた!!」
初めて辿り着いた興奮に、僕は走り出す
眼の前いっぱいに草木の生い茂る道は終わり、視界の先に目的の場所───『人類最後の地』が広がって居た
正確には人類は終わって居ない
自分達の存在から『死』を切除した人類は、それでも戦争を捨てる事が出来なかったのだ
ここに在るのは、その結果としての大地だ
「うわっ………」
兄が、泣きそうになりながら眼前の光景を視る
地平線の先まで続く真っ白な平野には、ピン止めされた虫のように、巨大な鋲を躰に幾つか打ち込まれ、地に繋ぎ止められた人間達が、死ぬ事もなく蠢きながら整然と並んで居た
「すごい!」
人間が畝の様に埋め込まれた中を駆け巡りながら、僕は兄に言った
「お兄ちゃん!これ、全部人間なんだよ!」
「どれか連れて帰ろうよ!!」
兄は人間が言葉も発さずに蠢く様、人間そのもの……とにかく、色んなものが怖いみたいだった
「あっ……」
「この子!この子にしようよ!」
僕は仰向けの姿勢で胴を何箇所か突き刺された、白く華奢な人間の少年の腕を掴むと、ぐいぐい引っ張りながら兄に叫んだ
事前に、色んな本で学んだから解る
かつて僕たちは、こうした人間から血を吸って生活して居たらしい
今では僕たちに適した空気が世界を満たして居るから、そんなものは必要無い
でも、話として聞けばやってみたくなる
なんとしても人間の血を吸ってみたかった
「こんなの、ウチでは飼えないよ………」
「それに、なんか悪さとかするかも知れないし……増えたら困るし……」
僕は大股で兄に近寄ると、両手で兄の胸板を太鼓のように叩き、抗議の意志を示した
「死なないから簡単に飼える!拘束すれば悪さは出来ない!一匹では増えない!」
兄は解った、解ったと言いながら、おろおろと僕の意見に同意した
そして僕は、少年を飼う事にした
力が弱いので人間達は鋲を外せなかったみたいだが、僕と兄が小一時間苦闘したところ、鋲はなんとか外す事が出来た
…………厳密には「最終的に二つほど鋲を外せず、少年の側を引き千切って対処した」のではあるけど
少年を抱き上げる
「可愛い!!」
「………こいつ」
「僕くらい大きくない?」
兄が、お前が小さいんだよと言うので、仕方無く僕はもう一度だけ兄を蹴飛ばした




