表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

よくある唯一の恋

作者: 外河ハンタ
掲載日:2026/01/11

 ――あたし、好きな人ができたんだ。


 おお、よかったじゃないか。

 放課後の、やや夕陽の差す教室で俺がそう言うと、なぜか舞佳はふくれ面。

「ちょっとハヤト! あたし好きな人ができたんだよ!」

「うん、よかったじゃないか……?」

 何を言おうとしているのか図りきれない。

 しばし考えて、思い当たる。

「ああそうか、その恋が実るかどうかわからないもんな」

「うぐぐ! 絶対実るもん!」

 舞佳がもどかしげにいきり立つ。いやこれ一般論じゃね?

「で、誰だ? できる限り協力したい」

「うぐぐ!」

「なんでここで憤激?」

 今日の舞佳はカルシウム不足なのか。

「部活? いやでも今のお前は帰宅部だしな。中学までは空手部だったけども」

 こいつはかつて空手部のエースだったが、卒業と同時に引退したようだ。今じゃ勉強に邁進している。

 勉強の才能は、ムカつくことにまあまあだったようで、現在は俺と学年一位を争っている。

 ……それでいいのかもしれない。万能の天才は、リソースの割り振りに失敗すると万事中途半端になる。某二刀流スーパーメジャーリーガーは天才中の天才なのだろう。

 そういう話じゃねえな!

「誰のために帰宅部に……!」

「お、するとお相手は勉強ができるタイプか。不良はさすがにおすすめできないしなあ」

 現代型の不良は帰宅部である。うちの場合、野球部やらテニス部にも悪いのはいるけどな。

「お前だよお前……」

「俺は不良じゃないけども?」

 非行に全く縁がないのは、俺のささやかな自慢の一つだ。

 そうじゃねえな!

「つまり、俺と似たようなタイプなのか」

「……そう! まるでお前そのものみたいな!」

「おお! だったら有益なアドバイスを送れるな!」

「アァアァアァ!」

「なんで!」

「……わかったら好きな人とのデートの予行演習をする! ハヤトは練習台だ!」

 舞佳は俺の腕を強引に引っ張る。さすが元空手部だな、ろくに抵抗できない。

 そして、その予行演習とやらは、いつもの放課後のぶらつきと何が違うんだ?

 疑問を置き去りにして、俺たちは教室を出た。


 本当にいつものぶらつきとそんなに変わらなかった。

「ここだよここ。好きな人と一緒にアイスなんだよ」

 某有名アイスクリーム店、ではなく、そのリスペクトっぽい町のアイス屋。

 ストロベリーチョコが口の中を癒す。

「あの」

「なによ」

「男でこういうアイスが好きなのは少数派では?」

「ハヤトは好きでしょ、あたし知ってるんだから」

「いやそうだけど、さすがにお相手がそうかどうかは」

「いいの!」

「エェ……」

 とりあえずバナナメロンをおかわりした。財布の空き容量が増えた。


 近所の小さな映画館では、短めの映画を上映することがある。これなら学校帰りでも夜遅くならない。館長は頭が良い。

「映画は定番だよね!」

「まあ……」

「B級SF映画がいいよね」

 俺はな。お相手は……。

 いや、もうやめよう。言うだけ無駄だ。もう分かった。

「暗い館内で手をつないだりチューしたり、グヘヘヘ」

 もうこいつの好きにさせよう。

 なお、舞佳は上映中に手をつないでモミモミしたあげく、上映中に俺にもたれかかって居眠りしやがった。

 おかげで肩を少し痛めた。


 頭のはるか上は、少し暗さが目立ってきた。夕陽の色と紫の空がせめぎ合っている。

 かつて公園だった高台。一般的なカップルにさえうち捨てられたその場所で、舞佳は向き直り。

「くやしいけど、昔からハヤトのことが好きだった」

 ぽつり。

「今も続いているんだよ。予行演習は全部、お前のためだったんだよ」

 夜風に吹き消されそうな声で。しかし俺にはしっかり届いている。

「ハヤトは鈍すぎるんだよ。ここに来るまでなんも気づかなくてさ」

「いや、気づいていた」

 俺が返す。舞佳は目を見張る。

「いくらなんでもここまでされたら気が付く。遅くとも映画館のあたりで確信に変わった」

「ハヤト……」

「もっと前から、そうなのかもしれないという予感はしていた。そして」

 一瞬のためらいののち。

「そうであってほしいと願うようになった」

 俺が少し近づくと、舞佳はあっさり俺に抱き着いてきた。

 素直すぎるな。

 ……ではなかった。俺はきっと現実を見ようとしなかった。「そうでない」おそれにおびえ続けてきた。

 舞佳は現実を見続けてきたんだ。

「舞佳、好きだ、俺と付き合ってほしい」

「私のほうがハヤトのこと好き。末永く付き合ってください」


 ゆっくりと唇を重ねた。

 わずかにレモンクリームの香りがした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ