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聖獣達の鎮魂歌外伝~復讐者の物語~  作者: 悠介
暗殺者の弟子として

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第四十四話 星の標

「K、君は修行熱心なんだね、今日も反復修行かい?」

「あら、シードル、来ていたのね。……。貴方の気配は読みづらいわ、貴方、私より気配を殺すのが得意なのかしらね。」

「どうだろう?僕からしたら、これが当たり前だからね。」

 シードルと初めて出会ってから一週間、毎日シードルは私の元に顔を出してきていた、それがどういう意味で、何の目的があって、どういう事柄なのか、については、師匠は何も言ってこない、師匠と顔を合わせる事もあったけれど、別段シードルの事について何かを言ってくるわけでもない、絶殺のモンド、について何か言ってくるわけでもない、黙認されていると言うと少し違うのかもしれないけれど、今の所シードルとの関係値は黙認されている、と私は考えた。

 不思議と心地良い関係、私はシードルとの会話に意味があるのかどうか、シードルとの関係値に何か意味があるのかどうか、はひとまず置いておいて、今の関係値が気に入っていた、と言うのが正しい所だろう。

 シードルの声を聴いていると、不思議と心が安らぐ、確か、人間の声帯の中には、そう言った自然現象に近い、川の揺らめきや風の流れに近しい声帯を持っている人間がいる、どういった名称だったかは思い出せないけれど、それに近しい何かを感じる、シードルと話していると、不思議と私は私でいられる気がした、私が、Kとしてではなくて、リリエルとして存在できる気がしていた、そんな関係値。

「今日は天気が良いね、星を眺めるのにはもってこいの日柄だ。」

「そうね、一緒に見る?」

「是非。」

 星を一緒に眺める、それは私がかつて、ゴランやアルビアと一緒にしていた事、タロントン達とはしなかった、私の中では特別な事柄、私の中で、友達だと認識した人間としかしない事、それが私にとって、共に星を眺めるという行為だ。

 もう日は暮れている、そろそろ月が出てくる時間だ、月明かりに照らされて、星を眺めるというのは、少々私にとってはロマンチックすぎるだろうか、とも考える。

「……。」

「綺麗だね。」

「えぇ、そうね。」

 星を眺めながら、隣で星を眺めているシードルの顔を少し眺める。

 ぱっちりした翡翠色の瞳に、坊主頭に借り上げた頭、私と同じくらいの身長、年齢としてはシードルが嘘をついていないのであれば年下だけれど、落ち着いた声音、言葉遣い、私がこの歳の頃は、もう少し幼かった覚えがある。

「……。」

「連れ立ちの星、誰かと誰かが巡り合って、そして連れ立っていく、そんな星。もしかしたら、僕達は連れ立ちの星と標星に導かれて出会ったのかもしれないね。」

「……。詩的な表現をするのね。私は、運命だとか定めだとか、そう言うのは好きじゃないわ。ただ……。貴方に言われると、不思議と嫌悪感はないわ。」

「そうなのかい?僕は、出会いには必ず意味がある、何があるのかはわからないけれど、でも、きっと必ず意味がある、と思っているよ。」

「……。そう、貴方はそう感じているのね。私との出会いにも、何かの意味があるのかしらね?私達は暗殺者の弟子、人殺しとして生きていく人間達、そんな私達が、そんな詩的な運命論を語っても良いのかしらね。」

 意地悪な言葉だ、と自分でも理解している、私は今、シードルに嫌味な質問をぶつけている。

 ただ、それにも意味があるような気がした、出会いには意味があるというのなら、シードルはこの言葉にどう返してくるか、それに興味があった、という話だ。

「そうだね、僕達はこれからきっと、人を殺めて生きていく存在、人でなしの類だ。でもね、K。だからと言って、僕達が生きてはいけない理由はないと思うんだよ。誰にも、生きてはいけない理由なんてない、僕にも、君にも、師匠達にも、軍隊の人達も、民間人も、誰もかれも、生きていけない理由はない、僕はそう信じてる、殺さなきゃならない命がある、それは僕達の役割だ。でも、それでもね。生きてはいけない命、って言うのはないんじゃないかな。」

「……。ごめんなさい、意地悪な質問だったわね。世間は戦争中、私達がそれに触れていないだけで、今でも争いは続いているものね。……。貴方は、きっと心根が優しいのね、それこそ、暗殺者だなんて役割は向いていない程に。」

「そうかな?僕は、君こそ清らかな心の持ち主だ、と思っているけれどね。なんだろう、こうして星を一緒に眺めていると、その人の感情が伝わってくる様な気がするんだ。君の心が、まるで僕に伝わってくる様な、星がそれを教えてくれている様な、そんな感じだね。……。君は、心が優しい、どんな理由でAの所に来たのか、それは僕は知り得ない事だけれど、でも、何か理由があったんじゃないかな?」

 理由、師匠の元に来た理由、なんだったか、かれこれ五年前の感情、五年前に捨てた感情、それを思い出そうとする。

「……。友達が、村に戻れる様に、あの子が、幸せなお嫁さんになりたいと言ってたあの子が、そうなれたら。私かあの子か、どちらかが師匠に引き取られないといけないのなら、せめてあの子が幸せになれたら。そんな、夢幻を追っていたのかもしれないわね。結果がどうなったか、今あの子がどうしているのか、それすら私は知らない、そのことに関して、私は心を砕く気にならないし、なれない。ただ、覚えている事と言ったら、それかしらね。あの子が幸せであってくれたら、そんな思い出はあるわ。」

「……。うん、やっぱり君は優しい、星が教えてくれた事は、間違ってなかったね。」

「星が教えてくれた事……。そうね、貴方からしたら、そういう事になるのかしらね。でも、私は優しくなんてないわ。優しかったら、あの子達が殺される時に、止めていたと思わない?私と一緒に弟子をしていた四人の子供が、師匠に殺されない様に、止めようとしていたんじゃないかしらね。」

「……。全ては星のめぐりが示した事、その子達を知っているわけじゃない僕が何かを言うのは間違っているとはわかっているけれど、でも……。きっと、全ては星が標した定め何だと思うよ。僕達の出会いも、そしていつか来る、僕達の別れも。」

 それは、きっと素敵な話で、私には縁遠い話だ。

 星の標した定め、とシードルが言うのであれば、それは私にとっては間違いで、シードルにとっては正解な事、私には、あの神の事がある、私しか見た事が無いだろう、誰かが認知した事もないんだろう、「運命を弄る神」という存在が、私にとって明確な復讐相手なその存在の事を、シードルは知らないだろう。

 だから、きっとシードルにとってはそれが正しい、私はそれを否定するつもりはなかった、不思議と、否定も肯定もするつもりにはならなかった、ただ、受け入れられるかと言われたら、受け入れられそうな気がしていた、その言葉を、その意味を、その真意を、私は心地良いと感じていた。


「……。」

 アンドルで検問が敷かれる前に、私は機関車の指定席に座って、アンドルを出た、今は朝の十時、アンドルを出て、北から東へと向かう道中だ。

 たまにはと思って、駅弁と言われる弁当を買って、機関車の中で食べるという行為に興じる、サンドイッチ、ひき肉と卵と葉野菜を使ったサンドイッチを食べながら、機関車の車窓から雪景色を眺める。

 卵、と言うのは安価で栄養を得られるという事で重宝されていた、とっても、その方法論が確立されるまでは、卵は高価な品で、何かの祝い事に用いられていた、という話だった気がする、そんな事を聞いた事がある、私が生まれた頃には、もう安価な栄養食としての側面が強かった、それだけ入手が楽になっていた、という話なのだけれど、そうじゃなかった時代がある、と言うのは、中々趣があると言えなくもないだろう。

「……。」

 シードルは、彼は、星の標だと言っていた覚えがある、そんな事を思い出す。

 シードルが言っていた、人と人との出会いには、星の標がある、星の標によって、出会う人間は出会うべくして出会う、と言っていただろうか、私はそう言った宗教の持ち合わせが無いから、あの場では何かを言う事はなかった、けれど。

 ならば、どうして私はシードルを殺すに至ったのか、ならばどうして、私は殺める為に人と出会う道を選んだのか。

 その答え、を聴く前にシードルとの別れは来た、彼とは、深い中ではなかったし、男女の中になった事もなかったけれど、しかし、友ではあった、短い間だったけれど、確かに友と言える存在だった、お互い暗殺者に育てられている途中で、何の因果か出会った私達、その私達の事を、シードルはまるで標星と連れ立ちの星の様だ、と評していた。

 その言葉を信じるわけではない、その言葉に従う訳でもない、しかし、今事実として、私は星の力を行使している、シードルが使っていたのかどうか、ならば星の力がシードルを選ばなかった理由は、そんな些末な事を考える事もある、ただ、事実として、私は星の力を行使している、そして彼は、それを知ってかしらずか逝った。

「……。」

 サンドイッチを口に入れて、紅茶を飲んで、一息つく。

 普段はこういう場では食事をしない、いつなん時毒を入れられるかわからないのだから、それを嗅ぎ分けられない場では食べない、が私の基本だったけれど、今回に関しては、さほどそこを気にしていなかった、というよりは、広範囲の毒殺でも企てない限り、一つだけの駅弁に毒を含ませて、という天文学的な確率を引く事もないだろう、という考えから、干し肉を齧っているよりは怪しまれないだろう、という理由も含めて、こうしてサンドイッチを食べている。

 次の暗殺は、次のターゲットは、そして、最終的なターゲットは。

 そんな事を考えている内に、アンドルを出て荒野を機関車は走っていた。

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