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聖獣達の鎮魂歌外伝~復讐者の物語~  作者: 悠介
暗殺者の弟子として

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第四十三話 シードルとの出会い

「……、誰かしら?」

「……、驚いた、僕の気配に気づいたんだね。僕、気配を殺すのだけが取り柄だ、って言われてる位なんだけどな。」

 あれから二年、私は十四歳になった、十四歳の夏、実弾を避けるという鍛錬を経て、今は師匠と組み手をする事も少なくなってきて、ひたすらに自己研鑽を重ねる日々だ、そろそろ一人前として暗殺に携わる事になるかもしれない、とは師匠には言われていた、それ以降、私は外見に関して、手入れを怠らなくなった。

 師匠が言っていた、みすぼらしい恰好をして、暗殺者然としているのは、自分から疑えと言っている、吹聴している様なものだから、外見には気を使え、と。

 だから、師匠が私に肌のケアの品を渡してくる事も多くなってきた、一時期はぼさぼさで、手入れの手の字もしていなかった髪の毛も、今ではつややかな髪の毛を言われていたあの頃、子供の頃と同じ程度には手入れをしていた。

 そんな現在の私が、今こうして誰かの気配に敏感に反応して、暗がりに声を掛けた理由、それは敵意がない視線だったから、だった。

 敵意や殺意がある視線だったら気づく、その場合は、私は戦闘態勢に入っていただろう、太もものホルスターに入れてあるナイフを取り出して、いつするのかわからない初めての殺しに向けての準備をしていただろう、それをしなかった理由、は、視線の持ち主が、敵意や殺意を向けていない、と判断したからだ。

「貴方は?」

「僕はシードル。君は?」

「……、Kよ。」

「K?それはコードネームの事だろう?」

 シードル、と名乗った少年の声、その声の持ち主が、鍛錬場の暗がりから姿を見せる、薄汚れた洋服に身を包んだ少年、黒髪の坊主頭にぱっちりとした瞳、何処かゴランと似ている様で、体型から何から違う、そんな少年は、私の名乗りがコードネームである事を当てた、という事は、こちら側である可能性が高い、そう感じた。

 K、と言うのがあだ名だと言う可能性もある、ただ、それを「コードネームだ」と言ったという事は、こちら側の人間、つまり暗殺者や情報屋に類する人間だ、という事は理解した。

「まあいっか、K、君は凄いんだね、ちょっと見ていたけれど、僕とは大違いだ。」

「見ていたの?だとしたら、貴方の気配を殺す術というのは、相当なのね。」

「あはは、買いかぶりだよ。」

 シードルは、私を怖がる様子もなく、私に怯える様子もなく、修錬場の椅子に座って、私を眺めている。

 私は、その視線が不思議と嫌とは思わなかった、師匠や今まであってきた人間達と違って、邪気というものが一切無かったその瞳に見つめられるのが、不思議と心地良かった。

 不思議と、私はシードルという少年を嫌な存在として認識しなかった、私にとって、邪魔な存在だとも思わなかった。

「貴方、歳は幾つ?」

「十二歳、君は?」

「確か、十四になるかしらね。」

「じゃあ、君の方が年上のお姉さんだね。なんとなくわかってたけど、十四歳って言う割に落ち付いてるんだね。僕の周りのお姉さん達って、もうちょっときゃぴきゃぴ?って言うのかな、落ち着きがないって言う人の方がが多かったな。」

「……。貴方、私が何をしているのかを理解しているのよね?コードネームを使っているという人間が、どういう事をしているかはわかっているのよね?」

「うん、だって、僕だってそうだから。確殺のAの弟子である君とは別の暗殺者、絶殺のモンド、の弟子だよ、僕は。」

「絶殺のモンド、確か、師匠とはライバルか何かだったかしら。ターゲットが被る事が無いから共存をしている、と言っていた覚えがあるけれど。それで、そのモンドの弟子である貴方が、ここに来てAの弟子である私と話をしている理由、はなんなのかしら?まさか、喧嘩を売って殺されに来た、なんていう馬鹿げた話じゃないわよね?」

 シードルが私に話しかけた理由が分からなかった、絶殺のモンド、という名前はきいた事がある、師匠がライバルだと言っていた、競争相手の名前だ。

 確か、師匠とは長年の付き合いで、それこそ大規模な作戦の場合、協力体制になる事もある、そんな関係値の人間だ、という話は聞いていた、だから、その弟子を自称するシードルが私に接触してきた理由、がいまいち掴めない、向こう側の都合だとしたら、将来的に協力関係になる為に、なのかもしれないけれど、それも不確定な事柄だ。

 もしかしたら、これも師匠が何かを考えた結果なのかもしれない、ただ、その答えは自分で出さないといけないのだろう、師匠は質問される事を嫌う、自分で考えて、自分で答えを出せ、と常日頃言われていた、だから、師匠が答えを出すことはない、それはわかっていた。

「……。」

「どうかしたのかい?」

「……、いいえ、何でもないわ。それで、シードル、貴方は鍛錬を積まなくても良いの?貴方の師匠は、貴方がここで油を売っている事を咎めないのかしら?」

「そうだね、見つかったら怒られてしまうかもしれない、ただ、将来を考えるに、それはないんじゃないかな。僕が師匠にこのあたりで修行をしろ、って言ったのは、きっと君と顔を合わせろって言う事だったんだと思うから。……。K、君と出会った事は、きっと何かの偶然じゃない、師匠が指定した範囲、に君がいたという事は、そう言う事なんだろうね。」

 偶然ではない、そうシードルは言った、ならば、私の師匠とシードルの師匠には、共通して何かの目的がある、それだけはわかった、それが何かはわからなかったけれど、何かを師匠達が考えている事、は理解した。

「貴方は……。いえ、何でもないわ。シードル、貴方は星を見るのは好きかしら?」

「星かい?そうだね、見ていると不思議と心が穏やかになる、そんな感覚だね。」

「そう。」

 私た鍛錬場から星を眺めるのが癖だった、普段は雪が降っていたり、曇っている事が多いこの地域だったけれど、今日は珍しく星が見えやすい日だ。

 何故シードルをその癖に誘ったのか、それに関してはわからない、ただ、そうしたいと思った、それが良いと思った、所謂直感という事柄だ。

 そうした方がいい、私にとって、それは益になる、という判断をした、そう言う事だ。


「ええ、それじゃあ、牛肉を仕入れさせていただくという事で良いかしら。」

「へぇ、あんたさんみたいな若い子が貿易商だなんて、正味疑ってたけどなぁ、あの会社は噂には聞いた事があるっぺ、仕入れに関しては任してくんな!」

「ありがとう、仕入れ値や振り込みに関しては、事務方から送らせてもらうわね。」

 少佐を暗殺してから二日、ホテルにいた私は、表向きである貿易商としての仕事をしていた、今回は牛肉を仕入れる為に動いていた、私の街の商店の店主とは、折り合いをつけて肉を仕入れるという交渉をしていた、その結果、私の会社でも肉を扱う事になった、これから先、業務用の冷蔵庫を仕入れたり、そう言った機材の搬入に関しても話を同時並行で進めていかなければならない、社員に頼るという手もあるけれど、私が矢面に立ってやらないと、社員達に示しがつかない、という考えがあって、私は陣頭指揮をとっていた。

 少佐が暗殺された事、に関しては、驚く程に沈黙が保たれていた、私がホテルから出なかった、と言うのもあるが、地域や時期によっては、翌日には号外新聞が出されていて、軍関係者の死を大々的に話しているゴシップがいたのだが、現在それがない、静かすぎると言うべきか、沈黙を保ちすぎている程度には、街は静かだった。

 検問があるわけでもない、検閲があるわけでもない、これで、もう少し様子を見て、アンドルから脱出すればそれで今回の仕事はお終い、その程度には、沈黙が場を支配していた。

「……。」

 ホテルに戻って、シャワーを浴びて、冷えた体を温める為に浴槽に湯を張って。

 そんな事をして、ゆっくりとしている私は、どうしようもなく滑稽だ、とも思えなくはない。

 あの日、シードルと出会ったあの日、私は鍛錬場で独り鍛錬をしていた、師匠とは組み手をしていたけれど、それ以外に関しては独りで鍛錬をしていた、その場に突然現れた、シードルという少年。

 彼は、絶殺のモンド、の弟子だと言っていた、絶殺のモンドは、確殺のAと並ぶ、アルマノの暗殺者界隈においては、絶対的信頼を置かれている存在だった。

 だった、と言うのは、師匠が結果としてモンドを手に掛けたから、もういない、という意味合いだ。

 シードルを私が殺した後、モンドと師匠は争いになった、と言っていた、ただ、そもそもが私とシードルを出会わせた目的に関しては不明だった、師匠は、最後に会った時まで、その理由を語らなかった、だから、推測するほかない。

 シードルと私を競わせるだけ、なのであれば、私にシードルを殺せとは言わなかっただろう、ならば、最初から殺し合いをさせる目的だった、と考えるのが妥当な所だが、ならば師匠とモンドが袂を別った理由がわからない。

「ふー……。」

 ならば、そこには不測の事態があったはずだ、私とシードルの関係値なのか、それとも別の何かなのか、それはわからないけれど、しかし、何某かの不測の事態が生じた、と言うのが妥当な推理だろう。

「……。」

 共に星を眺めた、あの日々の事。

 師匠の弟子だったタロントン達とはする気にならなかった、星を共に眺めるという、私の中では特別な事、友としかしてこなかった事、をシードルとした意味、そこに関しては、私自身わかっていなかった、どうしてシードルに心を許したのか、どうしてタロントン達ではなかったのか、数年間を共に師匠の下で過ごした弟子同士ではなく、あの日初めて出会ったシードルと、その「特別」をするに至ったのか、その思考に至った理由、を私自身わかっていない。

 ただ、シードルは特別だとは思っていた、何かが、何処かが、特別だった、私にとって、シードルはそういった存在だった。

 ならば、恋だったのだろうか、と問われると、違うと答えるだろう。

 ご覧に感じていた様な、所謂ときめきという感情を、私はシードルには感じなかった、ただ、シードルは私を友だと言った、私の事を、友だと言っていた、私もシードルの事を、友だと認識していた。

 ならば、そのシードルを何の迷いもなく殺めた意味、についてはどう説明するのか?と問われたら、それもわからない。

 私はシードルと友だった、そして、シードルを殺す定めだった、そうとしか言いようが無かった。

「……。」

 貿易商としては仕事をした、ならば長居は無用だ。

 明日のチケットでミルギールに戻って、アルミニアに書類関係を作成して貰わなければ。

 そう思考を纏めて、私は浴槽を出た。

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