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聖獣達の鎮魂歌外伝~復讐者の物語~  作者: 悠介


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第三話 ゴランとアルビア

「リリィ、学校はどうだい?お勉強は楽しいかな?」

「うん!もう友達もたくさんできたよ!」

「そうかそうか、それは嬉しいね。」

 小学校、学校って言う場所のお休みが終わった頃、雪は溶けてきてた。

 私の住んでる村は、国境沿いの小さな田舎、ってお父さんが言ってた、半年くらいは雪が降り続ける場所で、他の場所だと雪が降らない所もあるんだ、って学校で習った。

 雪が降らない場所、って言われても想像がつかない、それ位、私達にとって雪って言うのは当たり前にあるもので、降っているか積もっているかのどっちか、溶けだしたとしても、全部が溶けるんじゃない、そういう、身近にあるものなんだ。

 だから、雪が降らない場所、に住んでる人達がどんな洋服を着ていて、どんな家に住んでて、っていう想像が楽しい、それを考えて、学校で答え合わせをするんだ。

「リリィ、そろそろ学校に行く時間よ?お父さんに行ってきますをした?」

「はーい!お父さん!行ってきまーす!」

「はい、行ってらっしゃい。お父さんもまた暫くは仕事で出るから、次に会えるのはいつになるかな。」

 学校に行く途中、村の友達のゴランとアルビアと一緒になる。

 ゴランは私達の中でも大きな体格の男の子、糸目って言う、目が殆どあいてないけど、それでも見えるだよーって言う坊主頭の子で、アルビアは緑色の瞳が特徴的な、ぱっちりとした瞳に痩せてて、それでいて私とは全然違う黒髪のロングヘアの子。

 私達三人は仲が良くて、本当に小さい頃からずっと一緒に遊んでた、覚えてる内だと、二歳の頃にはもう遊んでた、同級生。

 って言っても、小さい村だから、同級生も何人かしかいなくて、学校も同い年の子が私達だけ、それに年上の子達が何人かいるだけで、後は軍隊さんの子達がたまに来るくらいだ。

 軍隊さんの所の子、って言うのは、軍隊さんに連れられてやってきた子達で、村の事は仲良くする事をあんまり許されてない、って言ってた、だから、時々勉強を死に来るけれど、基本的には関りが無い。

「まったくよー、リリィは遅いぜー?」

「ごめんねー!お父さんがまたお仕事で出ちゃうって言ってたからさ!」

「ゴラン、リリィのお父さんは行商人だからね、いなくなっちゃうのは、リリィにとっても寂しいんだよ?」

「わかってるよー!」

 普段から元気いっぱいなゴランと、静かに話をしてくれるアルビア、性格は全然違うけれど、でも、大切なお友達。

「そうだ、ツァギールは最近学校に来てないって先生が言ってたけど、会った?」

「会ってねーよー!あいつが何考えてるか、なんてわかんねーしー!」

「ツァギール、森の方によく行ってるんだって、秘密基地でも作ってるのかな?」

 学校に向かいながら、ツァギールって言う年上の子の話をする、ツァギールは来年から中学校って言う、一つ上の学校に通う予定の子で、お父さんが言ってたのは、家庭崩壊をしてる家の子、って言ってたっけな。

 家庭崩壊って言われても、それがどんな状況なのかはわからない、ツァギールの家で何が起こってるのかは私達は知らない、ただ、学校にナイフを持って来てた、って言う話を先生がしてて、それを注意したら学校に来なくなった、って言ってたっけ。

 学校にナイフを持って来る様な子、って事は、危ない子なのかな?とは思ってたけど、それがお休み前の話だったから、それ以来ツァギールを村の中でも見かけてない、と思って、二人に話をしたんだけど、二人も知らないみたいだ。

「うーん……。」

「どうしたの?リリィ。」

「え?ううん、何でもないよ!早く学校行こ!じゃないと、遅刻ですって先生に怒られちゃうよ!」

 嫌な感じ、って言っても、私達の考えられることじゃない気がする、それこそ、お父さんが言ってた、「家庭崩壊の家の子」っていう言葉の意味がわからないと、ツァギールが何をしたいのか、はわからないと思う。

「早くいくぞ-!遅刻って言ったら、先生おっかないからなー!」

「わかったー!」

 急いで学校に向かう、先生は厳しい人だから、遅刻をしたらバケツを持って廊下に立たされる、それが一時間はあるって言ってた、年上の子なんだけど、一時間の遅刻をしたら一時間バケツを持って廊下に立つ、って言ってたから、急がないと。


「……。」

 ターゲットを暗殺して二日、警戒態勢はまだ解かれていないけれど、森の反対側から出ていく、程度なら問題ないだろう、と気配で判断をする。

 森の洞を出て、慎重に慎重に、警備の人間にばれない様にと森の中を歩いていく。

 今回のターゲットはまだ群の下っ端というべきか、幹部の中では末席にいる人間だったから、警備体制に関してはそこまで厳しくはない、ただ、これから先のターゲットに関してはそれが通じるかどうかもわからない。

 私が最終的なターゲットとして選ぶと思う軍の指導者、施政者に関しては、協力関係にいる人間がいなければ、施設に侵入することすら出来ないだろう。

 指令室、というべきか、情報屋が掴んだ話によると、確か施政者は今、軍の最高指導者として、軍の本部に身を置いている、と言う事らしい。

「リリィ、どうして人を殺してしまうの?」

 声が聞こえる、それは暗殺の度に聞こえてくる声とは違う、懐かしい声。

 アルビア、旧知の仲であり、同じ村の戦争孤児、同年齢、として、結局私が師匠に拾われる頃には死んでしまっていた、そんな旧知の友。

 その声を覚えている、と言えば覚えているのだが、その声で何かを頭の中で言われたとしても、感情が動くわけでもない、感嘆に浸る訳でも、感傷に入る訳でもない。

「私の仕事だからよ、アリィ。それが、私の選んだ道だから。」

 時折聞こえてくる声に返答をすると、それ以降言葉が返って来る事はない、というよりは、返答をしないとずっと同じ質問を繰り返される。

 ずっと繰り返されてきた疑問と答え、それが様式美になっていると言えばそうなのだが、けれど私は、答えるだけでうっとおしい声が聞こえなくなる、と思うと、返事をする程度の事をしても何も問題はない、と思っている。

「アリィ、貴女はそうね……。」

 格好の良い男の人と結婚をして、世界で一番幸せはお嫁さんになりたい、そんな将来の夢を語っていたアルビア、アリィは、どういう感情で死んでいったのか、どういう想いであの戦火を生き延びようとしたのか、どう思って生きていたのか、それについては、聞く余裕もなければ、聞くつもりもなかった。

 私達は生きる事で精一杯だった、残された村の保存食を食べて、それが消え失せてからは、施政者が気まぐれに送ってきた食べ物を食べて、雪の中を生きてきた、そのおかげなのかそのせいなのか、この格好、ミニスカートにタイツ、シャツにトレンチコート、という格好でも冬を越せる様になった、あの頃の経験が無かったら、もう少し厚着をしなければ駄目になっていただろう。

「リリィ、お前はー!」

 今度はゴランの声が聞こえて来る、それがどうしてなのかはわからない、私の中の良心の呵責なのか、それとも死者が語り掛けてきているのか、それすらもわからない。

 良心の呵責だとしたら、私はまだ暗殺者になりきれていないんだろう、その幻惑が良心の呵責なのだとしたら、私の中で、覚悟が決まっていない「何か」があるのだろう。

「ごめんなさいね、ゴラン。貴方のお嫁さんにはなれないの。」

 ツァギールに森で殺された友、ゴランの声。

 あの時、私が何とかできていれば、私がツァギールを止める事が出来ていれば、今頃はゴランと一緒だったのかもしれない、ゴランが生きていたら、アルビアも死んでいなかったかもしれない、私は、暗殺者という道を選んでいなかったのかもしれない。

 いつか俺の嫁さんになれ、なんていう乱暴な告白だった、友達として接していたゴランに、そう言う事を言われるとは思っていなくて、返事を保留にしていた言葉、断ろうと思っていたけれど、それでもゴランは友として接してくれただろう。

 嫁さんになれ、なんていう言葉を投げかけてくれたのは、後にも先にもゴランだけ、後は私の力、能力を利用したい存在、私の暗殺者としての能力に興味を持った人間、自分の護衛が欲しかった人間に、「妾になる気はないか?」と問われた事はあったが、けれど嫁に娶ろうとしてくれたのは、生涯をおいてもゴランだけだろう。

「リリィ、君はどうして……。」

 お父さんとお母さん、父と母は、こうなった私を見て何を想うのだろうか。

 悲しむだろうか、尊ぶだろうか、戦争に加担している事を理解して、そして軍人相手に商売をやっていた父と、それを止める事すらしなかった、逃げようとも考えていなかった、私達を連れて何処か平和な村にでも引っ越そう、とも言わなかった母だ、何を言われたとて、今更生き方を変えるつもりはない。

両親がそうだったから暗殺者になった、とも思っていないが、けれど、そんな両親の影響は受けているだろう、それが私にとっての当たり前、戦争があって、戦場があって、それが少し収まって冷戦になった、としても暗殺者という職業には変わりはなかった。

 情報屋が言っていた、戦争の変化の形、昔の戦争は領土争いだった、領土自体を巡っての争いだったのが、いつの日からか資源を争う形の戦争に変わった、潮目が変わった時期があった、と言っていた。

「私は後悔なんてしてないの、黙っていて頂戴。」

 私達が子供の頃、はまだ領土の奪い合いの側面の方が強かった、と情報屋は言っていた、私達が戦争に巻き込まれた頃、十年以上前の話、に関しては、まだ領土を争っているという側面が強く、その次に資源の奪い合いだった、という話だった。

 それが、資源の奪い合いがメインになったのは何時の頃だったか、私が暗殺の修行をしている頃の話だったか、それとも情報屋が知らないだけで、私達が幼かった頃から、資源の戦争だったのか。

 ただ、あの頃は村にも潤沢に資源は残っていた、何を以てして資源の奪い合いか、については、諸説あると言っていた、単純に食料の奪い合い、水資源の奪い合いに見える部分があれば、そうじゃない、もっと国家として重要な資源の奪い合いかもしれない、それに関しては、歴戦の情報屋ですらわからない程に、機密情報として扱われている可能性がある、と言っていただろうか。

 そうだった場合、私がその情報を得るのは無理だろう、歴戦の情報屋ですら仕入れられていない情報、それを十年そこいら暗殺者をしていただけの私が得られるとは思っていない、それに、その情報が必要か?と問われれば、別段いらないと答えるだろう。

 必要な情報は施政者の現在、現在の油断や隙、未来における隙を生み出す可能性、の情報は必要だろうが、過去の情報、に関しては、別段必要が無いと言えば必要が無い。

「アステリア、君は……。」

 森を出る直前、珍しい幻聴が聞こえる。

「シードル、貴方は……。」

 シードル、かつての友、別の組織の暗殺者に育てられていた、師匠と敵対をすることになった、そして私が殺めた友の声。

 アステリア、と私の事を呼ぶのは彼だけだった、彼の特権だった、リリィと呼ばれる歳でもない、リリエルという名は呼ばれるのが恥ずかしい、と思っていた私は、アステリアと呼んでほしい、と彼に頼んだ。

 そろそろ森を出る、移動手段は自動車になるだろう、街を一つ抜けた所で自動車を拾って、最寄りの機関車の駅まで行って、そこからは機関車での移動になる。

「……。」

 変装、という程凝った感覚でもないが、灰色のストールをボストンバッグから出して、髪の毛が隠れる様に顔に巻く、それだけでも、印象ががらりと変わるだろう、そうして私はアジトまで戻る、アジト付近の駅に着いたらストールを外して、という事をして、出来る限り「リリエル・アステリア・コースト」の痕跡を残さない様にしていた。

 星の力を得て以降は、そこまで気にする事が減ってきた、それだけの力、何かをされたとしても返り討ちに出来るだけの力、を持っていると自負している以上、自己防衛の手段としての変装、はする理由が薄れてきている。

 それでも最低限の変装をするのは、五年間も師匠に叩き込まれた習性とでも言えば良いのだろうか、暗殺者としての基本、としてやっている部分があった。

 アジトに戻って、次の暗殺の為の情報を仕入れて、その前に、無事にアジトまで戻らなければ。

 手配書、乗る程甘い仕事はしない、基本的にはターゲットに存在を認知させる事すらない、それが私にとっての自衛手段、手配書に名前が載る程度の甘い仕事をしていて、最終的に処刑された暗殺者、と言うのは幾ばくか見て来た、私は自分自身がその末路を辿らない様に、復讐を終えるまでは、それを欠かさずやっていた。

 森を出る、雪は豪雪となって視界をさえぎる、森から出る私を目撃した人間もいないだろう、それを確認して、私は自動車に乗るべく停留所の方へと向かう。

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