第二十八話 あれからどれ位
「アルビア君はまた探検中かな?」
「あ、大尉さん。はい、アリィは今どこかに出かけてます。」
「そうか。」
村を出てからどれ位経ったか、アリィは夏の生まれで、そろそろ八歳になる、でも、私が本を読んで過ごしてるのに対して、アリィは基本的にフラフラと基地の中を徘徊してる、それを一回許したんだから、駄目だっていう人はいないけど、アリィは基地の中では煙たがられてる、って言う感じはする。
でも、アリィはそれに気づかない、もう何か月かこの基地で過ごして、ずっとフラフラして、時々怒られて、それでも徘徊をやめようとしない、それが趣味だって言いたいのかって言う位、落ち着きがない。
爆撃に合う前は、もう少し落ち着きがあった様な気もするけど、多分アリィの本来の性格っていうのは、そう言う落ち着きのない性格なんだと思う。
思い出すと、授業中も足をぶらぶらさせてて、落ち着きなさいって先生に言われてた、そんな思い出もある。
「リリエル君は勉強熱心だね、感心だ。」
「えっと、本を読むのが好きで……、だから、勉強をしてるつもりでもないですよ?」
「ははは、私からすれば、それも勉学の一つだよ。」
本を読んで過ごす事、それが私の日常になってた、ご飯の時間とちょっとした運動の時間以外、ずっと本を読んで過ごしてる、今は夏だし、雪も降ってない、降ってたとしても、去年まで見たいに楽しめないと思う。
だから、沢山おいてある本を一冊一冊丁寧に読んでる、その中に、煙突、バベルの運用方法を書いてある本もあった、確かにあれは、戦争に使われてるって言うのが正しいと思う、人を殺す為の武器、それを私とゴランはかっこいいって言って、カタログを眺めてた。
今では、使い方を知ってるって言うか、本で読んだだけだから、実際に使えるかどうかはわからないけど、大体の武器の使い方は覚えてる、私が子供だから、反動で撃てなかったり、ちゃんと的に当たらなかったりするかもしれないけど、「理論上」は覚えた、って言う事かな。
でも、理論上使えたとしても、それを使うだけの実戦経験がない、だから、私にはまだまだ使えないんだと思う。
それに……。
あの頃感じてた、ときめきって言うのかな、わくわくした感情、を今は感じない、ゴランと一緒にカタログを見てた時は、どれ位のベンが必要で、どれ位働けば買えて、それをどんな風に使うのか、なんて事を一緒に想像してたけど、今じゃそんな事も感じない、きっといつか必要になる知識だ、って思ってるから覚えてる、そんな気がしただけ、私が軍隊に入って、訓練をして、って言う間に、戦争が終わるのかもしれない、戦争は続いてるのか、それとも終わってるのか、そもそも私は軍隊に入隊するのか、それもわからない。
ただ、必要な気がした、私には、武器の知識が必要な気がした、それが何でかはわからない、ただ、必要だ、って感じてた。
「リリエル君は将来は将官になれるかもしれないね、ここの本を読んで理解した子達は、基本的に軍の中でも立場を持つ存在になっている、だから、君もきっとそう言った立場になるんだろうね。」
「えっと……。そうなんですか?」
「そうだよ、私の教え子達も、今では戦場になくてはならない存在になっている、ここはね、その子達の学び舎でもあったんだよ。宿舎であり学び舎であり、だからこそ、こんなにも軍事関係の本が多い、と言えるね。」
軍事関係の本が多い、って言うよりは、それ関係しかない、子供が読むような本、児童書?って言われる本は一冊もないと思ってる、私が読んだのはまだ半分もいかない位、だからその中に入ってたら違うのかもだけど、確かに軍に関係する本ばっかりだった。
ここが学び舎、学校みたいな場所だった、って言われても、確かに学校の図書室にも本は沢山あったし、軍事関係の本があったのかはしらないけど、学校って言われたら納得出来る。
「君の年頃の子はいなかったがね、ただ、皆育っていった、巣立って行って、軍にまつわる役職を持つ身になっている、君もいつかそうなるのかもしれないね。」
「そう、ですか。」
「では、私はこれで。」
大尉さんは、そう言うと部屋を出ていく、私は、大尉さんが来るまでに読んでた本の続きを読む、丁度、バベルの運用方法の詳しいやり方、について書かれてる本だった、これが外に出ちゃったら、多分問題になるんだろうな、って言う位に詳しくバベルの使い方が書いてあって、それに関するわからない言葉、については、辞書で調べたり大尉さんに聞いたりして、勉強してる。
って言っても、私が軍に入るのかどうか、についてはわからない、どうするべきなのか、どうすれば良いのか、それを教えてくれる大人の人は今はいない、私達は、疎開って言う避難をしてる人、って言う区分になるって言う話は何処かの本で書いてあった、疎開中の子達、戦地から離れて、安全地帯に逃げる人達、の事を疎開民って言うんだって。
私とアリィは今は疎開中、そこから村に戻るのか、それとも軍に入るのか、って言うのは、多分誰かが決めてくれる事じゃない、私達自身が決めなきゃならない事、それに、アリィは絶対に、軍には入らないと思う。
って言う事は、入るとしたら私は独り、村を捨てて軍に入るのか、それとも村が復興したら元居た場所に戻るのか、戻ったとしても、誰かが歓迎してくれるのか、喜んでくれるのか、それもわからない。
「……。」
バベル、120㎝対地対空用複合火薬半自動式固定砲、その使い方を、しっかりと勉強する、それが、今の私には必要だと思ったから。
装填するのに何人かの人員を必要とする、それでいて、破壊力としては、今ある兵器の中ではトップクラス、安価で設置しやすい、それに扱いとしても単純だから、誰でも使える様になりやすい、それがバベルの使い方だった。
「アルミニア、少し良いかしら?」
「あら社長!今日は良かったの?」
「えぇ、手が空いたから、経費の精算をね。」
経理担当の社員のアルミニアに、経費の精算をしてもらう為に会社に顔を出す、経費は払っておかないと、税務署から目を付けられかねない、そう言った所からも、私の裏がばれてしまう可能性はある、だから、そのあたりはきちんとしていた。
と言っても、暗殺で得たベンに関しては申告をしていない、首都ソリアルの裏銀行を経由して支払いをされている、ある意味そう言った「裏の金」の扱いに長けている場所に預けておく、それが定石だったからだ。
裏銀行、と言うのは、私や師匠の様に、悪事を働いて得た金に関する勘定を担っている銀行で、情報屋や暗殺者、犯罪者はそこに金を預ける、のが定石と言われていて、ある意味国からもマークはされているのだけれど、幾つもの銀行やルートを辿って資金洗浄を行った結果にたどり着く銀行であって、それが誰からの入金で誰への出金か、についてはばれていないという話だ。
というのはあれど、表向きのカンパニーに関する金勘定はきちんとしている、それをしないと、無駄に税金を取られる結果になったり、税務署からの調査が入ってしまう可能性があるからだ。
「経費は出張分で良いのかしら?」
「えぇ、お願い。」
私がこのダミーカンパニーを興した時には、師匠からの出資があった、師匠の表むきの仕事は投資家、出資家と言われる類の人間で、私が独り立ちをするにあたって、この会社に対する「出資」をして貰った。
それは無償のものではない、私にとっては、師匠にした借金のようなもので、今でも出資元に対する還元、という名目で、師匠の元に売り上げの一割を返還している、私がこのカンパニーを継続させている間は、それを支払う約束になっている。
そんな事も知らずに、何も知らされずに、アルミニアやルーサーは働いている、私が若き起業家で、若き貿易商で、という話を信じて、従ってくれている、彼らを守る為にも、秘密は必要なのだろう。
「社長、また少し痩せたんじゃない?ちゃんと食べてるの?」
「そうね、暫くは粗食だったかしらね。と言っても、私がこれ以上太るというのも、中々に想像もできないのだけれどね。」
「若さの特権ねぇ。あたしくらになると、もうダイエットなんて考えもしないわよ?」
アルミニアは中年の女性、ふくよかな体格に糸目が特徴的な人物だ。
私と同じくらいの娘がいるだとか、私より年上の息子がいるだとか、そう言った世間話を良くしてくるのだけれど、その娘が現在ダイエット中らしく、それに私を重ねて言っているのだろう。
「あたし程じゃないけどねぇ、少しは蓄えないと、冬を越せないわよぉ?」
「寒さには慣れているから、大丈夫よ。」
「まあ、それもそうよねぇ。社長ったら、冬でも夏でもその格好だものね。」
今はストールはしていない、ストールは顔を隠すためにしているのであって、今は顔を隠す必要がないのだから、する意味がない、それに、もし万が一私が暗殺している場を目撃されたとしても、ストール一つで別人だと判定される可能性もある、私が普段から、アコニートを入れているホルスターこそせずとも、同じ格好をしているのは、ある意味警戒心を失わせる為だ。
暗殺者然とした恰好、をしていたら、それは疑えと言っているようなもの、だから私は、武器を除いて普段からその格好をする事で、かく乱をしていた。
「はい、領収書受け取ったからね!」
「お願いするわね。」
アルミニアに挨拶をして、店に出て品物を少し確認して、それが流通に問題がない事を確認したら、私の役割はお終い。
アジトに戻って、また次の暗殺についての考察や仕込み、情報収集の時間になる。
変わらない日常、と言うのには些か物騒かもしれないけれど、それが私にとっての当たり前で、それを変えるつもりも予定も、今のところはない。
それでいい、それが良い、そう私は感じる。
いつかは変わってしまう日常だったとしても、今はそれで良い、と。




