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聖獣達の鎮魂歌外伝~復讐者の物語~  作者: 悠介


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第二十五話 ツァギールの伯母

「お風呂気持ち良かったんね、リリィ。」

「うん、そうだね。」

 何か月かぶりにお風呂に入った私達は、頭から黒い水が少し出てくるくらい、汚かったみたいだ。

 体も石鹸で洗ったけど、ひりひりするって言うか、ピリピリするって言うか、そんな感じがする、ずっとお風呂に入ってなかったから、きっと肌が駄目になっちゃってたんだと思う。

「はい、これを着なさいね。貴女達が着ていた服は、どうしようもなく匂いがついていたから。……。ここにいた子達の古着だけれど、入れば良いでしょう。」

 女の人の隊員さん、まだ怖くないって言うか、笑ったり怒ったりしそうな、そんな感じの軍隊さんに、洋服を渡される、私達が着ていた服は、それは体が臭いんだし、何か月か変えてなかったんだから、臭いんだと思う。

 それを着ようとは思わない、だって、ここで暮らしていくのに、それは必要がないから。

「ありがとうございます。」

「……。貴女達、あそこの村の出なんですってね、私の親戚も確か住んでいた、って言ってたわね。」

「親戚?」

「血の繋がった、おじさんだったり従弟だったり、そう言う人達の事よ。確か、あの村では精肉の加工をやっていたと思うのだけれど……。貴女達より少し年上の甥がいたはずだったわね、ツァギール、って言う子なんだけれど、生き残らなかったのかしら……。」

 ツァギール、その名前を聞くと、体がびくっと反応する、アリィはそんな事はない、アリィはゴランが殺された事を知ってても、ゴランが殺されたところを見たわけじゃない、だから、そういう反応はしないけど、私からしたら、ツァギールは明確に人殺し、その現実は変えられない。

「ツァギール……、ゴランを殺して……。どうしたんだろう?」

「あの子は変わり者だったから、どうしているか、叔母として少し気になっているのよ。精肉所の子供って言う事は、小さい頃から命のやり取りを見ている訳でしょう?それに、これは気配でしかなかったし、私が学生の頃の話だから、あまり信憑性はないけれど、あの子……。そうね、あの子は、心に大きな闇を持っている、と思ったわね。あまり近づくと、こっちまで怪我をしそうな、そんな感じだったわ。」

「心に、大きな闇?」

「そうね、言ってもわからないかもしれないわね。……。どう例えればいいのかしら、いつかきっと、あの子は大きな過ちを犯す、過ち、つまり間違った事をする、って言う気配ね。叔母として出来る事はなかったけれど、生きているか死んでいるかもわからないんじゃ、追悼も支援も出来ないわね。貴女達の村の生き残りに、私の親戚は残っていたの?」

「えっと、いなかったです。」

 ツァギールの家族、は爆弾で死んじゃってる、ただ、ツァギール自身がどうしてるのか、については私も知らない、ツァギールが生きているのか死んじゃったのか、生きているとしたら何処にいて、何をしているか、って言うのは、わからない事だ。

 そもそも戦争って言う争い合いをしてること自体知らなかった私達が、煙突が誰かを殺す為にあるともわかってなかった私達が、ツァギールをどうこう言える立場じゃない、って言うのはわかってる、大尉の言葉でそれは理解した、でも、私はツァギールを許せない、ツァギールはゴランを殺した、もしかしたら、そうじゃなかったとしても、ゴランも爆弾で死んじゃってたかもしれない、でも、それは違う、私にとって、それは違う事だ。

 ゴランを殺した、ツァギールが殺した、だから、私はツァギールを許せない、それが私の出した答えだった。

「……。隊員さんは、村に来た事があるんですか?」

「えぇ、それこそ、あの子が小さい頃、貴女達を見かけなかったという時期だから、八年くらいは前になるかしら。戦争が始まるって言う時期に、バベルの建設のサポートに駆り出されてね。そこで、私の姉、貴女達からしたら、ツァギールのお母さん、って言えば良いのかしらね?私の姉が、街を飛び出して放蕩してて、何処に行ったかと思ったら結婚をして子供を育てていた、それに驚いた覚えがあるわね。あの人とは壊滅的に意見が合わなかったけれど、そうね……。生きていたのであればそれで良かったと思っていたけれど、死んでしまったのであれば仕方がないのかもしれないわね。」

 隊員さんは、洋服を着て部屋に戻るついでだ、って言って、話をしてくる。

 ツァギールのお母さんは、私のお母さんと仲が良くて、良くお話をしてるって言ってた、アリィのお母さんと私のお母さんとツァギールのお母さん、三人で良く井戸端会議?って言うのをしてるって言ってた、話し相手として丁度良いんだって。

 でも、ツァギールのお母さんが街の出身だって言う事は知らなかった、もしかしたら、お母さんと一緒の街に住んでたのかもしれない、でも、それは聞いてないからわからない。

 隊員さんは、ちょっとだけ悲しそうな顔をしてる、ここにいる人達、表情一つ動かさないで、機械みたいに立ってる人達と違って、この隊員さんは表情がちゃんと変わる、ある意味、心がちゃんとある、って言う風にも思う。

「さて、ここからは貴女達の自由に過ごしなさい、基地の中の機密に関わらない部分に関しては移動も許されているのだし、ある程度は動いても皆許してくれるわ。大尉殿に会いたい場合は、大尉殿に会いたいと言ってくれれば、時間があればあってくれるという話だったしね。」

「はい、ありがとうございます。」

「貴女はハキハキとしているのね、そう言えば名前は?二人とも、聞いても良いかしら?」

「えっと、リリエルです。」

「あたし、アルビアです……。」

「リリエルちゃんにアルビアちゃんね、それじゃ、おばさんは持ち場に戻るから。」

 部屋について、もう夜遅く、眠たいって言う感情と、疲れたっていう感情がどっと来る。

 アリィは車で寝てたからか、少し元気そうだけど、私は朝からずっと起きてたから、眠たくて仕方がない。

「寝よっか。」

「うん、リリィ、お休み。」

「お休み、アリィ。」

 ベッドに入る、お家のと違って、ふかふかとは言えないちょっと固いベッドだけど、暫くテントで寝袋にくるまって寝てたんだし、部屋には暖房もついてて、暖かいし安心する。

 ゴランが生きてたら、どうしてたんだろう、ツァギールに殺されてなかったら、爆弾に殺されてなかったら、そもそも戦争が起きてなかったら。

 そんな事を考えてても仕方がないのはわかってる、でも、考えちゃうのは、きっと仕方がない事なんだと思う。


「……。」

 身の回りの整理、と言うのは苦手な方だ、その自覚はある、片づけが出来るだとか出来ないではなくて、身の回りの整理が苦手だ、という話だ。

 暗殺に関する事、暗殺に関するメモだとか、情報源からの発信だったり、そう言った者に関しては厳重に管理をしているのだけれど、それ以外の事、身辺の整理に関しては、私はとても苦手は方だろう。

 昔は、父と母は怒らずに片付けてくれていたが、おもちゃを片付けたりだとか、本を片付けたりだとか、そう言った事が苦手だった、それが今でも残っている、という意味合いで、身辺整理が苦手だ。

 一度暗殺に出ると、二週間から一か月はアジトを空ける、雪庇に関しては社員達がやってくれている、と言っても、部屋の片づけまでさせるわけにもいかない、万が一暗殺に関する痕跡でも見つけられてしまったら、私にとっても彼らにとっても致命傷になりかねない、という意味もあるが、ある意味カンパニーの社員である彼らに、身辺整理まで任せる、と言うのは些か違うだろう、と心の中で考えているからだ。

 私欲のために社員を使う、と言うのがどうしても私の中で許せない、彼らはギブアンドテイクで関わっているのだから、私生活にまで踏み込む義理はないと思っている、それはお互いに、という話だ、私にとっても、彼らにとっても、私生活と言うのは踏み入るべき場所ではない、それが私達の共通項だろう。

 その中でも、雪庇をしてくれていると言うのは、ある意味私が仕入れや交渉の為にと理由を偽造して、アジトを空けているのを知っているから、それでアジトである家が雪の重みで潰れない様に、と向こうから申し出てくれた事だ、それ以外には、私生活に関してはお互いに干渉をしない、それが私達のやり方だった。

「……。」

 そろそろ雪豆の挽いている分がなくなってきている、人によっては、挽きたてのコーヒーでないと満足出来ない、挽きたての香りでないと意味がない、という人間もいるが、私はそのあたりに拘りはない、いっぺんに挽いておいて、それを保存して飲む時に使っている、が私だ。

「……。」

 コーヒーミルを取り出して、雪豆、ベイルのコーヒーの豆が煎って黒いのに対して、雪豆は煎っても白い豆で、という違いがある、そんな白い豆を煎って、保存がきく様にしたものをミルで挽いて、コーヒーのストックを増やす。

 軍関係者、というよりは、首都の方では、これも自動化しているらしい、自動焙煎機、と言う、豆を煎って挽いて、という事を機械でするのが今は流行っている、とルーサーか誰かが言っていた、ルーサーは実家が首都にあって、そこに帰省すると、最新機器があって、それに何時も驚くと言っていた。

 私も最新機器に興味が無い訳ではないけれど、この街では手に入る程まだ都会ではない、街と言っても、首都からは遠く離れた場所にある辺境の街だ、私達の住んでいた名もない村に比べれば発展しているし、利便性も高い地域ではあるけれど、まだまだ田舎の方である事は間違いない、田舎の中では都会、都会の中では田舎、そんな微妙なバランスにある街、がこの街だった。

 街の名、ミルギールというこの街は、首都からは離れた辺境の街、として周りからは認識されているけれど、ミルギールなりの発展はしていて、私がこの街に居を構える頃には、機関車が走っていた、それなりに交通の便としてはありな方だ、と言われていて、豪雪ではあるが、私が住んでいた村よりは雪は降らない、そんな塩梅の街だ。

「これで良いかしらね。」

 ミルで豆を挽き終わって、ケースにそれを移して、今日はやる事がない。

 明日はカンパニーの方に顔を出して、という事をする予定だけれど、今日に関してはそれはない、だから、ゆっくりと過ごそうか。

 コーヒーを淹れて、ラジオをつけて、ベイルからの情報とアルマノからの情報を得て、それを暗殺の一助にする、その為にも、ラジオは欠かせないアイテムだった。

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