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聖獣達の鎮魂歌外伝~復讐者の物語~  作者: 悠介


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第二十一話 長い冬を超えて

「アステリアちゃん、これから軍隊の偉い人が来るから、絶対にテントから出ちゃいけないよ?お爺ちゃんとの約束だからね?」

「えっと、うん。」

「それじゃあ、爺は行ってくるかな。」

 少しだけ村の復興が進んで、雪がとけ始めた頃、軍隊さんの偉い人が来る、って言う話で村の大人の人達は盛り上がってた、盛り上がってたって言うよりは、悪口を言ってる事が殆どだったけど、やっぱり軍隊さんは偉いから、怒らせちゃいけないんだろうとは思う、なら、なんで軍隊さんの所の子達を殺したのか、って言うのは考えるけど、それとこれとは違う、って言う話なのかもしれない。

 今は村長さんの代わりをしてるゴランのおじいちゃんは、村の代表として意見を出してる、って言ってた、だから、発言権?があるんだって。

「……。」

 あの爆弾が落ちてから、半年位経ったのかな。

 ゴランが死んじゃってから、お父さん達が死んじゃってから、半年位経つのかな。

 数えてないだけで、あれが冬の中での出来事だったから、今雪解けがあるって事は、それ位経ったんだと思う。

 私、どうかしちゃったんだと思う、あれ以来、どれだけ辛くても、涙が出なくなっちゃった、お父さんとお母さん、ゴランと村の人達をお墓に入れてからずっと、それを手伝って、黒い塊になってたお父さん達の墓標を立ててからずっと、泣けなくなった、アリィが良く泣いてるけど、私は泣けなくなった、涙が出なくなった、涙を流せなくなった、どうしてなのかはわからない、どうして私は辛いのに、涙を流せないんだろう、どうして私は、怖いのに怖いって言えないんだろう。

 わからない、わからないけど、きっと私は、あの時おかしくなったんだと思う。

 ゴランをツァギールに殺された時、丸焦げになって真っ黒い塊になったお父さん達を弔った時、私の中の何かが、壊れちゃったんだと思う。

 じゃなかったら、アリィの事を鬱陶しいなんて思わない、じゃなかったら、一緒に泣いてたはずなんだから、だから私は、壊れちゃったんだと思う。

 悲しいはずなのに、苦しいはずなのに、私の心はちっとも動かない、私の心は、怖さの中でうずもれて、どうしたって出てきてくれないんだと思う。

「……。」

 ゴランのおじいちゃんが、軍隊さんの所の子達を殺したのは知ってる、ただそれを軍隊さんに言ったから、何かが変わる訳でもない、私が村を追い出されてお終いかもしれない、だから、言えない。

 黙ってる事も大事だよ、ってお父さんが何時だったか言ってた、何もかもを話せば良いってわけじゃない、時々だけど、秘密にしておいた方が良い事もあるんだ、って。

 だから、そうなんだと思う、お父さんが言ってた、秘密にしていた方が良い事、それは、軍隊さんの所の子達を殺した事、それを黙っておくことなんだと思う。

 お父さんが生きていたら、どう言ってくれただろう、軍隊さんの所の子達を殺すのを、止めたのかもしれない、止めなかったのかもしれない、どうだったのか、については私にはわからない。

 ただ、お仕事の祭事をしないで水を使う事、は駄目だっていってた、ずっと、川に入る事は穢れを川に流す事になるからいけません、川の水は、山の神様から頂いてるものだから、祭事をしないと頂いちゃいけません、ずっとお父さんはそう言ってた。

 だから、きっとお父さんは軍隊さんの所の子達を殺す事に反対したんだと思う、でも、そのお父さんは生きてない、たられば、って言う、例えば、とかもしも、とかの話をしても、意味が無いと思う。

 私の心、それは壊れちゃったんだと思うな、心は壊れる事がある、その話をお母さんがしてた事があった、ツァギールは、心が壊れそうになってるから、だから動物を殺して回ってるんだ、って。

 だから、私の心は壊れちゃったんだ、お父さんとお母さんが死んじゃって、ゴランが死んじゃって、村の人の殆どが死んじゃって、それで、私の心は壊れちゃったんだ。

 壊れたおもちゃは捨てられるだけ、壊れた道具は捨てられるだけ、私はもう、捨てれられるしかないんだ、私はもう、前までの私としては生きていけないんだ。

 わかってる、わかってるから、涙が流れてこない、悲しくても、辛くても、苦しくても、涙が出てこない。

 私は壊れちゃった、壊れたお人形さんは、お母さんが縫い合わせてくれてたけど、そのお母さんはもういない、アリィが捨てたお人形さんみたいに、ゴランが捨てたおもちゃみたいに、私は捨てられるだけなんだ。

 怖い?って聞かれると、怖いと思う、でも、それが当たり前で、そうでしかなくて、そうなるしかなくて。

 心が閉じていく感覚、それを私は理解した気がした。


「さて、と……。」

 アジトに戻ってきて、干し肉を作るために牛肉に味付けをする、私が干し肉を作る時の漬けダレは、師匠から教わったレシピだ。

 毒消しの意味合いを兼ねているハーブと、豆から作った発酵調味料、香草の類、それらと砂糖、塩を混ぜてタレを作って、それに牛肉を漬け込んで、一日熟成させてから、一週間干して完成させる、それを自分自身で作ってるのは、誰かに任せたら毒を混ぜられる可能性がある、と言うのもあるけれど、第一に私が食べたいと思う味付け、と言うのが、師匠から教わったこのレシピだけで、ほかの味付けをした事もあったけれど、食事として受け付けなかったから、だ。

 それだけの期間、師匠に鍛えられてきて、鍛錬を積む傍ら、この干し肉を作り続けてきた、食べ続けてきた、という理由で、私はこのレシピを守っていた。

 ハーブは乾燥させたものが残ってる、香草の類はカンパニーの社員が私が出かけている間に届けてくれている、発酵調味料は買い込んだものがある、準備は出来てる。

「……。」

 牛肉を薄くスライスして、バットに一枚一枚広げて、それにタレを作って掛けて、これを冷蔵庫で一日熟成する、簡単な作業だけれど、私にとっては命にもかかわる事だ。

 それは、食料的な意味と、毒を混入させられるという意味合いで、だ、食料的には、暗殺に赴いている間は食料が基本的に干し肉だけになる、それに、毒を混入させられていたら、この時点で気づかないと意味がない。

 丁寧に、調味料や肉に毒が仕込まれてないか、匂いを嗅いで確認する、香草は香りが強いから、毒を入れるのには向いている、だから、念入りに匂いを嗅いで、毒が入っているかどうかを確認して、それが無いと判断してから漬け込む。

 冷蔵庫に入れて、今日の作業はお終い、普段から神経を使っていると言うのもあって、それに関しては慣れているけれど、時々は気を抜かないと気が狂う、それは師匠にしごかれていた六年間の間でよく理解していた。

 思えば、師匠にされた鍛錬は、良く塩梅を考えられている、脱落者が四人いた、私以外の四人は全員死んだけれど、でも、私が生き残れる程度、には鍛錬に休息はあった、私が特別強いのかと言われると、それは違うだろうと私は答えるだろう、という程度には、年上だった同期、同じ鍛錬を受けていた青年の方が体力もあって、精神性としても安定してた、それでも死んだことに変わりはないけれど、でも私が一等強いのか、と問われると、違うと答えても差し支えはないだろう。

 心が壊れていたから耐えられた鍛錬だったのかもしれないけれど、それは誰も彼も条件自体は一緒だったと認識してる、暗殺者に拾われて鍛錬を積んでる時点で、心は皆壊れているだろう、と。

 私はそれが早かった、七歳の頃には心が壊れていた、という差はあれど、何がしか心や感情、思考回路に問題があったからこそ、私達は師匠に拾われたのだろうし、それを考えるに、条件自体はさほど変わりはない。

 と考えると、途中で離脱して死んでいった四人と、私を決定的に違えるもの、と言うのを私は知らない、星の力に目覚めたのは十五歳の頃、だと認識してる、それは、師匠の元を離れる直前の話だ。

 独りで生きていけ、と放逐される直前、私は星の力を自覚して、アコニートを入手した、本当に、どうしてそれを使っているのか、どうしてそれを「使えている」のか、については熟考の余地があるだろうけれど、私はそれを嫌だとは思わなかった、ナイフで殺すのか、刀で殺すのか、その違いでしかない、ナイフで培った暗殺の技術を、刀に応用して使っているだけ、ただそれだけの事だ。

「……。」

 今日は星が見られるだろうか、星を見ている間だけは、私は人間として成立していると感じる、心の安らぎを普段から求めているのか、と問われると否だけれど、心が癒される時間と言うのは、存外に悪くない。

 雪豆のコーヒーを淹れて、星を眺めよう、かつてゴランとアルビアとそうしていた様に、シードルとそうしていた様に、私の趣味と言うのは、あの頃から変わらない。

 それこそ、戦争孤児として生きていた頃、村が壊滅して、テントの中で生きていた頃も、星を眺める事はやめなかった、それだけが、私が私として生きている証左、私が人間性をまだ残している証左、それをやめた時、私は人間としての精神性をすべて捨てる、という事になるのだろう。

 不思議とやめる気にならない、と言うのは、逆説的には「本能的にやめてはいけないと感じている」事だとも言えるだろう、私が私として成立する為に必要な事、それが星を眺めるという事なんだろう、たったそれだけが、たったそれだけで、人間としての精神性を測るのか、と言われたらそこまでだけれど、私にとって、それが一つで、唯一の秤なのだ。

 人間として精神性を捨てるつもりは今のところない、人間をやめて、怪物になり果てるつもりはない、人間として生き汚く生きるつもりもないけれど、私はまだ、人間としての精神性を捨てる腹積もりが無かった、それをする覚悟がない、と言い換えても良いかもしれない、ゴランからしたら化け物になり果てていたとしても、両親からしたら怪物になっていたとしても、私が私を人間として認識している、それが重要だと思っていた。

「……。綺麗ね。」

 雲間から見える星、冬の暦星、私が生まれた時にも、ずっと輝いていた星。

 それを見て、私はこれからも生きていく、私は、殺し殺されの世界で生きていく、そんな気がしていた。

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