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聖獣達の鎮魂歌外伝~復讐者の物語~  作者: 悠介


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第十九話 血の匂い

「ゴランのおじいちゃん、それ……。」

「ん?アステリアちゃんには関係のない事だよ、君が気にする事ではない、それを知るのであれば、それはここから出て行って貰うという事になるからね。」

「えっと……、うん……。」

 何日か経って、私達はずっとテントで暮らしてた、軍隊さんの基地から持ってきたレーションだとか、村に残された食料だとか、そう言うのをちょっとずつ食べながら、私達はなんとか生き延びてる、んだと思う。

 今日はもう寝る時間、と思ってランタンを消そうとしたら、ゴランのおじいちゃんがテントに戻ってきたんだけど、匂いがした。

 真冬の冷たい空気、って言う中で感じる匂い、私は鼻が良い方だ、って言われるくらい、お父さん達が何をしてて、なんていう事が匂いでわかるのはわかってた、だから、ゴランのおじいちゃんが、「誰かの血の匂いをさせてる」事はすぐにわかった、ゴランの時に感じた、血の匂い、私には縁がないと思ってた、血液の匂い、それをさせてる、それにすぐ気づいた。

 ランタンの明かりだけじゃ、血がどこについてて、って言う事は分からなかったけど、きっと恐らく、ゴランのおじいちゃんは誰かを殺してきた、それだけは理解した。

 鼻に感じる匂い、血の匂い、忘れたい、嗅ぎたくない、そんな匂い、それをゴランのおじいちゃんはさせてる、じゃあ、誰の?誰の血?

 村の人だったら、明日顔を合わせた時にわかるだろうし、でも、そんな事を、優しかったゴランのおじいちゃんがするとも思えない、今この状況で、村の人達同士で傷つけあう、って言う理由がわからない、なら、誰なんだろう。

 わからない、でも、普段はにこにこと笑ってたゴランのおじいちゃんが、誰かを傷つける事、って言うのが信じられない、でも、事実として、血の匂いがする。

「さ、アステリアちゃん、寝なさい。爺もそろそろ寝るからね、ランタンを消すよ?」

「う、うん……。」

 オイルランタンだから、燃料が無くなったらそこまで、なんだけど、それを節約?しながら、私達は何とか寒さに耐えている、軍隊さんの所から持ってきたって言う防寒具は凄い暖かかくて、私達が普段着てる上着よりも、ずっと暖かい、だから、寝る時に凍えちゃうこともない。

 でも、どうしたって血の匂いが頭から離れてくれない、血の匂い、誰かを殺した証拠、それが頭の中にこべりついて、離れてくれない。

 ただ、それを追求したとしても、私が村を追い出されるだけだと思う、ゴランのおじいちゃんの言葉、言い換えるのなら脅迫って言うのかな、脅迫的な言葉、って言う裏には、そういう意味があるんだと思う。

 私が生きていく為には、目をつむらないと行けない事がある、知っちゃいけない事がある、それを私は理解した。

 怖い、にこにこと笑ってるゴランのおじいちゃんが、爆弾を落とされてからずっと、別人みたいに見えちゃう、村の人達もそうだ、まるで、別の人と入れ替わっちゃったみたいに、怖い。

 でも、それでも私が生きていく為には、ここにいるしかない、アリィがどうしてるのか、はわからない、今頃別のテントで寝てるのかもしれないし、お父さん達とお話でもしているのかもしれない、でも、アリィはどう思ってるんだろう。

 私と同じ気持ちでいてくれたら、村の人達が怖いって言う気持ちを一緒になってたら、もしかしたら、少しは楽になるのかもしれない。

「……。」

 ランタンを消して、血の匂いが鼻に残ってる中で、眠ろうとする、眠れなかったとしても、寝たふりをしないと怒られちゃう。

 お父さんも、お母さんも、ゴランも、どうして、どうして、どうして、どうして。

 皆、私の大切な人達はいなくなっちゃう、村の人達も大切だけど、それでも、お父さんとお母さんと、それにゴランは特別な人だった、それなのに、苦しくて仕方がない時に、一緒に居てくれない、寂しい、苦しい、涙が出てきちゃう、それを、止める事が出来ない。

 どうして、一緒に居てくれないんだろう、どうして、離れ離れになっちゃったんだろう、どうして、皆が死ななきゃならなかったんだろう。

 どうして、どうして、どうして。

 納得なんて出来ない、うんだなんて言えない、わかったよって頭を下げられない、わからない、納得できない。

 理不尽、って言う言葉なんだと思う、私達の今は、理不尽なんだろう、って。

 そうじゃなきゃ、お父さん達が死んじゃった理由も、ゴランがツァギールに殺された理由も、わからない。

 それで納得出来るの?って言われたら、それだって納得は出来ない、でも理不尽だ、と思う事しか出来ない、私には、出来る事が無かった。

 今日は眠ろう、明日は、また生きていこう。

 それだけしか出来ない、私達に出来る事は、生き延びる事、生きていく事、それ以外に出来る事はないんだから。


「H、久しぶりね。」

「Kか、ご無沙汰ってやつだな。」

 Hの拠点にやってきて、仕切り越しに声をかける、Hのアジトは、一軒家を改造した建物で、お互いの顔が見えない様に、カウンターに仕切りがしてあって、それ越しに話をする、それがHのやり方だった。

 だから、私はHの顔を知らない、男性の声をしている、中年程度の感じだろうか、という想像こそ出来るけれど、それこそ正体を知らない、Rの様に、ある程度の護衛を付けられる情報屋であれば、この仕切りは必要がないのかもしれないが、Hの様に中堅の情報屋、に関しては、自衛の手段としても、そう言った手法が一般的だろう、私が何人か関わっている情報屋、の定型の形として、この手法は用いられていた、だから、向こうも私の顔は知らない、お互い、顔も本名も知らない間柄、金銭関係と利害関係だけで構築されている関係性、それが私達と情報屋、の関係値だった。

 情報屋達が、どうしてそれを生業にしているのか、という話も、考察の域を出ない、情報屋達は、それを話す事によって、自分達のバックボーンがばれる事を懸念している、それは私も同じだ、名もない辺境の村の出である事、バベルが設置されていた村の一つの出自だ、というだけで、生き残りの少なさから、私の出生がばれてしまう可能性は十分にあり得る、だから、それを話さない、は大前提の話だった。

「師匠から聞いてるぞ?成功報酬から一割頂こうか。」

「えぇ、それで構わないわ。それで、次の依頼は何かしら?」

「気が早いな、K。まだ依頼の精査が済んでない、と言っても、情報の一つ位なら与えられるか。お前が殺したがってる施政者、アルマノの大統領は、未だに官邸から出てない、一歩たりとも出る事がない、お前ら暗殺者に、軍の関係者が暗殺されている事には気づいてる、自分の国家の安寧の為にも、自分が殺されるわけにはいかないと考えている、それが俺達の共通認識だ。」

「それで、まさかそれだけが情報だ、とは言わないわよね?」

「そうだな、それだけで報酬の一割を頂くのは、流石に気が引けるな。」

 情報と引き替えに金銭を渡している以上、ある程度の情報の精度と密度が無いと、ベンの払い損になる、暗殺とダミーカンパニーで潤っているといっても、暗殺の報酬の一割、を渡す以上は、それなりの対価を払わられないと意味がない。

「軍の上層部、お前が殺してきた幹部の末端じゃない、幹部の中でも中枢にいる連中、がな、俺達とのコンタクトを取ろうとしてる、って言う話だ。勿論、俺達は鐘のやり取りで動く人間だ、どっちかの味方でもなければ、どっちかの敵でもない。k、お前が金を払ってる間は、俺達は奴らに情報を渡す事はない、それはある意味、金をもらってる上での信頼関係ってやつだ。そうさな、お前との仕事も何年かになるか、情報屋家業をやり始めて云々、なんて話をし始めたら、それこそ師匠に叱られる、はてさて、俺にも情だったり、友情だったり、そんな感情が残ってるのか、それとも全ては金の為なのか。どっちだって構わないのかもしれないけどな、俺に取ってそれは、重要な要素だ、って言う話になってくる訳だ。」

「……。友、だなんて貴方らしくもないわね。貴方、自分の事を金の亡者だ、って言って憚らないと思っていたのだけれど。それこそ、情報の料金として暗殺の報酬の一割、だなんて法外な量を取る人間が、情や友情を語るだなんて、衰えたのかしらね?」

「さて、それはどうだかな。ただ、お前との関係値、この仕切り越しの顔も本名も知らない関係性って言うのが、存外に心地良い、って言うのはあるかもしれないな。……。K、軍は確実に、お前達の情報を掴みに来る、俺達情報屋が何処まで隠れられて、何処まで黙っていられるか、に関しては俺の推察の域を出られない、或いは、拷問を受けて吐かされる可能性だってある。注意しろ、今まで以上に、お前の痕跡を残さない様にしろ。俺達が何処まで堪えられるか、黙っていられるか、それとも金欲しさにお前の情報を出してしまうのか、それはそれぞれ違うんだろうがな。俺にとっては、俺達の関係ってのは、確かに金勘定の関係だ、でもな、K。俺にとって、お前はそれ以上の人間だ、って言う事も本当だ。だからなんだ、ビジネスで顔も見せずに関わっていただけの人間に何を言われても心に留める必要もないんだろうさ。ただ、俺に取っては、って言う話だ。現在、軍の幹部が情報屋の在り所を探して奔走してる、それに付随して、そっちにつこうとしてる情報屋、つまり俺達の情報を売って、軍につこうとしてる人間もいる、それが大前提としての情報だ。」

「……。分かったわ、気を付けるとしましょう。それで、次のターゲットは?」

 そんな事を言われても、私にとってはそれは必然だろうとしか言い様がない、軍が情報屋を探す事、私達を探して処刑しようとするであろう事、施政者たる大統領が私達の存在を不都合に思っている事、それらは当たり前の話だ。

 それを改めて話された所で、私の生活が変わるわけでもなければ、Hとの関係値が変わる訳でもない、私達は、金銭関係としての関係値、それ以上でも、それ以下でもない、私にとってはそう言った関係でしかない、だから、軍関係者に情報を売られたとしても、それは情報屋としては正しい形だ、そこに情や憐憫が会っていいはずがない、とすら考えている、だから、Hのいう「お友達感覚」という感情は、私の中にはない。

 情報屋としてあるべき形、それはベンをより多く積んだ方に情報を流す、それをされない為に、より多くのベンを渡す、それが当たり前だ、と師匠に言われてきた。

 だから、ではないけれど、何と言えば良いのか、Hは情報屋としては中堅、と言っても、まだ完成形ではない、という感想しか出てこない、それ以上の感情、と言うのが、私の中には介在しない。

「次のターゲットなんだが……。」

 Hの声音からして、感情として持っていることを躊躇っている、が正しいと感じる、私が何も思っていない事、それに関しては理解した上で、その発言をしたのだろう、という推測は出来る。

 次のターゲットの情報を聞きながら、それを不思議に思う、私とHの中での齟齬、について、少しだけ考える余地がありそうだ。

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