第十八話 遺された村人
「どうして軍隊さんの所の子達はいれちゃいけないの?」
「……。あの連中がいなければ、俺達がこうして寒さに凍える事も、家がなくなる事も、コーストの子達がいなくなる事もなかったんだ。だから、連中とは関わっちゃ駄目なんだよ、アステリアちゃん。」
「でも……。」
「でもじゃない、君も追い出されたいか?」
軍隊さんの所からテントを持ってきて、それを立てて、それを家替わりに使う様になってから、何日か過ぎた。
アリィは今はお父さん達と一緒に居る、私は村の中でもお年寄りの、ゴランのおじいさんと一緒のテントに入って、寒さに耐えながら、軍隊さんの所から持ってきたレーションって言う食料だとか、村の食料のお店に残ってる材料を使ってご飯を食べたり、そう言う毎日を過ごしてた、その中で、軍隊さんの子達と関わっちゃいけません、って言われ続けてる事、が不思議だった。
どうして、私達と同じ子供なはずなのに、三人だけ残った軍隊さんの所の子達には、食料を渡さなかったり、テントに入れてあげなかったり、「いじわる」をしてる様に見えちゃう、それがどうしてなのか、がわからなかった。
生きている人が残っていない、そんな中で、生きている人の中でいじわるをしたって、良い事はないと思うんだけど……。でも、あの連中がいなければ、ってゴランのおじいちゃんも、村の大人の人達も皆言ってる、軍隊さんが何をする人達なのかを知らない私とアリィは、その言葉の意味が分からなかったけど、大人の人達は、みんな口を揃えて、軍人がいなければ、そう言ってた。
お父さんが言ってた、この村には、軍隊さん達が来たから、来てくれたから、村が育ったんだって、軍隊さんが来なかったら、田舎の辺境村で、って。
田舎の辺境村、って言うのがどういう事なのか、って言うのは、聞く事はなかった、そのうちわかる日が来るよ、ってお母さんが言ってたけど、軍隊さんが来なかったら、村は育たなかった、って言う事は聞いてた、それなのに、爆弾を落とされてからの大人の人達は、ずっと軍隊さん達の悪口を言ってる、だから、軍隊さんの所の子供とは、関わっちゃいけないし、助けてもいけないんだ、って。
でも、今暮らしてるテントだって、軍隊さんの所から持ってきたのに、どうしてなんだろう、それを聞き続けたら、ゴランのおじいちゃんに追い出されちゃうかもしれない、家がなくなっちゃった以上、ここ以外に居場所も、行く場所もない、それは私だってわかってた。
「ゴランのおじいちゃん、ゴランは……。」
「ん、わかっているよ、ツァギールのクソガキがいなければ、私の可愛い孫が死ぬ事は無かった、軍隊の連中も気に食わんが、あのクソガキにはいつか報いを受けさせなければな。」
「……、そう、だね……。」
レーションとお水、もう雪解け水を待ってる暇はない、って言って、大人の人達が山に入って、下流の水を汲んできて、それはお父さん達が神様にお願いをしてからじゃないと駄目だよ、女の子は決して入っちゃいけませんよ、って言われてたはずなのに、大人の女の人達も一緒になって、山に入ってく、それが駄目な事なのか、それとも生きる為には必要な事なのか、それすら私にはわからない。
ただ、何かを言っちゃいけない、言ったら、私も見捨てられる、それだけはわかってた、アリィと話をしてた、残った子供って言うのが私とアリィだけで、残りは皆大人の人達、その大人の人達が決めた事に従わないと、私達も生きていけないから、って。
追い出されちゃったら、私達は生きていけない、他の村に助けてって言いに行こうとしても、他の村に行くのには車が必要だ、ってお父さんが言ってた、森を抜けた先は川で、山のふもとにあるこの村だけど、他の村に行くのなら、車でどれ位か、って言ってた位だから、それこそ歩いて行こうとしたりしたら、途中で凍えて死んじゃうと思う、ご飯も持っていける量には限界がある、どっちに行けばいいのか、って言う看板も今は雪に埋もれてると思うし、そう言う事を考えると、今は村を出るのは出来ない、だから、どんな事を言われても、それを聞くしかない、いう事を聞いて、生きていくしかない。
「……。」
「どうしたんだい?アステリアちゃん。」
「ううん、何でもない……。ゴランのおじいちゃん、寒くない?私の毛布、使う?」
「いやいや、子供にそんな気遣いをされる程、爺じゃないともさ。さ、君は寝なさい、私は集会に顔を出してくるからね。」
「わかった……。」
ゴランのおじいちゃんは優しい、と思うんだけど、それでも軍隊さんの子達と関わるな、は大人の人達と変わらない、むしろ、それを言ってる中心の人、って言うイメージがある、お父さんが村の中では偉い人だった、って言うのは聞いた事があった、神官って言うのは、村の祭事に関わる人で、それをずっとやってきたお父さんの家系は、村の中でも偉い人なんだって、ゴランが言ってた。
ゴランのおじいちゃんは、私のおじいちゃんと仲が良かった、って言ってて、私のおじいちゃんは私が生まれる前に死んじゃったんだけど、それ以来村の事を取り仕切ってた?のがゴランのおじいちゃんだ、ってお父さんは言ってた、お父さんは、祭事をするのは得意だけど、村の事に関しては難しいから、ゴランのおじいちゃんに任せてるんだ、って話だったかな?
村で一番偉い村長さん、は爆弾に巻き込まれて死んじゃって、残った大人の中では、ゴランのおじいちゃんが一番偉い人だ、って誰かがご飯の時に言ってた。
「……。」
ゴランのおじいちゃんがテントを出て行って、私は独り。
独りは嫌だ、と思っても、他のテントに行っても誰がいるかはわからないし、大人の人達はこの時間は集会だ、って言って何処かに集まってるし、アリィはお父さん達と一緒に居るから、会えないし……。
「ゴラン……。」
ゴランがいてくれたら、どんなに良かったか。
ゴランがいてくれたら、私は独りじゃなかったんだと思う、私の傍に、ゴランはいてくれたんだと思う、でも、ゴランはツァギールに殺された、それが変えられない現実だ。
涙が流れる、誰かと一緒に居る時は泣けない、皆だって、家族が死んじゃったり、友達が死んじゃったり、そんな中で生きてるんだから、と思うと、私だけが泣いてちゃ行けないんだ、って泣けない。
だから、独りの時に泣く、独りの時だけは、泣いていいんだ、って。
「……。」
Hの所に向かいながら、吹雪の中を進んでいく、私の気配は誰にも悟られていないはずだ、私の気配を、誰かに探知されるほど私は耄碌はしてないはずだ、暗殺者の弟子としてしごかれていた頃に比べれば、気配を悟られた瞬間に殺される、なんていう修行をしていたり、師匠に三日三晩見張られて、その中で気を張り続けて襲撃に備える、なんて事をしてないのだから、鈍っていてもおかしくはないのかもしれないけれど、それでも、私はまだ、生きる術を失っていない、私はまだ、生きていく術を持っている。
気配を殺す術、居場所を悟られずに、相手に気取られない術、と言うのは、暗殺者の弟子として、一番最初に習った、初歩も初歩の技法だ。
それが私にとっては適性が高かった、何人かいた弟子の中で、最後まで生き残ったのは私だけ、同時期にあの師匠に弟子として買い取られた人間、年齢に関しては私が一番下で、一番上が何歳上だったか、という人間がいたが、五人いた弟子の中で、今でも生きているのは私だけだ。
それ以外の四人、に関しては、「修行について行けない」だとか、「適性が無かった」だとか、そう言った理由で、脱走を試みて、そしてその場で見せしめとして殺されていった者が二名、そして残りの二名は、厳しすぎる修行に耐えられずに、二人で心中をしていたのが、確か私が十二歳の頃だっただろうか。
「……。」
生き残った私は、過酷な修行を超えて、現在では暗殺者、復讐の為に牙を砥ぐ、復讐者だ。
その対象はこの国、アルマノの施政者であり、そして何より、私の運命を狂わせた、あの時私達の運命を狂わせた、神だ。
神への復讐、に関しては、誰かに話した事はない、そんな事を言っても、気がふれたと言われてお終いだろう、気が狂った、気がふれたと言われて、師匠に危険因子として殺されてお終いだっただろう、それがわかっていたから、私は言わなかった。
村の生き残り達にも、そのことは言わなかった、言ったとて何が変わっただろうか、という話でもあったし、いう余裕もなかった、そして、言った所で誰かが信じてくれただろうか、それを考えるに、言わなかったのが正解だったのだろう。
「ふー……。」
白い吐息が、吹雪の中に消えていく。
あの時の生き残りは、今どうしているのだろうか、そう考えない事はない、三十人程度残った村の生き残り、ゴランの祖父を筆頭とした、バベルがきっかけで崩壊した村の生き残り、彼らが何をしているのか、については何も知らない、故郷を捨てろ、情報を捨てろ、生きた痕跡を捨てろ、と言われて修行に取り組んでいた私からすれば、故郷の情報を聞く、と言うのは私という存在が「リリエル・アステリア・コースト」であるという事を知られるきっかけにしかならない、ダミーカンパニーでは「リーエル」と名乗っている私の痕跡、それが知られるのは、私にとっては弱点を知られるのと変わらない、あの頃の同郷を今どうされたところで心が動くとは思えないけれど、でも情報は少ない方が良い、それだけは理解してる。
それこそ、R程の情報屋になれば、私の痕跡から私の素性を知る事も不可能ではないだろう、困難でもないだろう、その程度には、私の情報と言うのは軽い、私のアジトがある街、に関しては、情報屋の中では共有されているだろう、そして、私と敵対する組織がいたとして、情報屋達は、金さえ積めばそれを敵対組織に教えるだろう、ギブアンドテイク、ではなく、金銭のやり取りで成り立っている関係なのだから、それはもう、すぐにばれてしまうだろう。
RやHに関しては、それを漏らさないだけの信頼がある、と言えばあるのだが、人間いざという時は何をするかはわからない、最悪、ダミーカンパニーの人間をどうこうして、という組織がいないとも限らない、だから、私は他人との接点を最小限にしていた。
「そろそろね。」
そろそろHの拠点につく、細心の注意を払って、誰かにそれを目撃されない様に、誰かが私の痕跡に気づかない様に、気配を殺す事に集中して、Hの拠点の玄関のドアを叩いた。




