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「妻と子が家にいるんです! 俺は帰ります!」と周りの制止も聞かずにスーパーを飛び出して行った男、自衛隊を連れて俺たちを救助しにきた。

1日目

 物事は時として、突如として巻き起こるものである。

 どんな出来事も始めはなんの前触れもなく、生じるものであると理解している。

 しかし、まさか漫画やゲームで見るようなホラーさながらの化け物が出現するとは思わないだろう!

 真夏の渓流釣りが有名な山の中の小さな村。俺は阿鼻叫喚の地獄絵図の中をなんとか潜り抜けながら、とある商店にやってきていた。

 家が倒壊し、行くあてもないまま、ただ食料があり、立てこもることができるだろうという安易な考えでやってきていた。

 ここはその商店の前にあるアパートの駐車場。俺は車の陰から化け物がいないことを確認すると、商店のドアに向かって走り始めた。

 それを見ていた中の老人が、外に化け物がいないと判断してくれたのか、ドアを少し開け、俺を手招きしてくれた。

 俺はそれに頷くと一直線にその場所に向かって走り、なんとかその隙間に体を潜らせ、安全地帯と思われる場所に身を置くことに成功したのだった。


「おい、じじい。何してくれてるんだよ。ああ?」


 息を切らし、仰向けに倒れている俺と、そんな俺を介抱してくれ、水まで差し出してくれた老人に向かって歩いてくるのは10代後半で高校名と名前の刺繍が入ったジャージを着ているヤンキーと思われる男子生徒。

 俺はただ目で、そのヤンキーを見ると、その男はきっと俺を睨みつけてきた。

 俺はなぜ睨み付けられているのか分からず、ただきょとんとすることしかできなかった。


「だーかーらー! 俺の食糧が減るじゃねえか!」


 なるほど、と思い周りを見ると同調する人がちらほらと見られた。このスーパーには10人くらいが避難してきているようだった。

 なるほど、と俺は納得した。いつ助けがくるかも分からない上に食料も限られているような状況で、誰彼構わず助けることに良しとしないのだろう。俺も始めからスーパーにいたらそう考えていてもおかしくないため、なにもいうことはできなかった。


「まあまあ、私の分を減らしてくれればいいから」


 俺を手招きしてくれた老人がヤンキーとそれに同調する人を宥めるため、そんなことを言ったので、俺は慌てて制止をかけた。


「ま、待ってください! なら俺の分を減らせばいいんです。あなたが減らす必要はありません!」


「な、何をいう。君は若者でしっかり食べないといけないだろう!」


「そういう心優しいあなたも健康でいて欲しいんですよ! 僕は!」


 そんな言い争いをすること数分、痺れを切らしたヤンキーが『なら、お前ら2人一人分の食糧を折半な!』と勝手に決めてきた。

 それにどういうこともできずに黙っていると、ヤンキーはふんと鼻を鳴らし去っていった。


「すみません。俺を助けたばっかりに」


「いやいや、僕が勝手にしたことだから気にしないで」


 入り口付近は危ないということで、俺たちは移動し、2人で適当な場所に座った。

 そうして、「俺、勇太って言います」「僕は賢治。よろしくね」と自己紹介をしていると、1人の青年が「ちょっといいですか」と話しかけてきた。

 

「な、なんですか」


 ヤンキーのことがあったので、俺は身構える。


「先ほどの2人の会話を聞いていました。俺はタロっていいます。流石に二分の一じゃ少ないでしょう。僕のとおじいさんの分を3当分にしましょう」


「え! いいんですか」


「ええ、こういう時にはお互い様でしょう?」


「ありがとうございます!」


 そんな会話をしていると、その話を聞いていた人の中の何人かは、「じゃあ私のも」「それじゃあ俺のも」とシェアを提案してくれる人が3人くらいいた。そんな人たちに、俺は「ありがとうございます!」とお礼を言いながら、ただ人の暖かさに感動していた。

 賢治さんは笑いながら「よかったね」と喜んでくれていた。


「タロさん、先程はありがとうございました」


「いえいえ、困った時はお互い様でしょう」


 首を横に振った後、にっこりと笑った彼が俺には神のように見えた。


「それにしても、困ったことになりましたね。早くなんとかなればいいのですが」


 そう言って、張り詰めた顔をするタロさんに俺は首肯した。


2日目

 1日目になんとかバリケードを張り巡らせた俺たちだが、換気もできない室内で皆が皆ぐったりとしていた。

 真夏ということや電気が通っていないことで、魚や肉といった食糧がそうそうにダメになってしまっている。

 限りのある水を使うこともできないため、トイレも流せず、この商店ないは食べ物が腐った臭いと、トイレの匂いで充満していた。

 それに、思っていたよりも食料の消費が激しい。

 換気をするわけにもいかずに、商店内は、別の意味の地獄絵図が広がっていた。

 このままでは高齢者や子供が危ない。

 誰でもいいから早く助けにきてくれ、と俺は願うことしかできなかった。

 外で振動が響く中、俺の隣で、タロさんは隣で険しい顔をしていた。


3日目

「やっぱり、家に帰ります」


「え!?」


 パッと立ち上がったタロさんの言った言葉に俺は唖然とした。

 タロさんは決心のついたような表情で、自分の分の食糧をカバンに詰め込んでいる。


「ちょ、ちょっと。今はやめておきましょう」


 俺が宥めても彼が止まることはなかった。


「妻と子が家にいるんです! 俺は帰ります! 俺の家は、この村と隣の街のちょうど中間あたりに存在します。俺が絶対に助けを呼んできますから!」


 そう言って、俺たちに向かって親指を立てると、タロさんはバリケードを潜り抜け、商店を飛び出して行った。

 俺を含めた何人かの人々は「行くな!」「焦る気持ちはわかるが、もう少し待とう!」「きっと妻子は大丈夫だ!」という言葉をかけたが、彼は後ろ髪引かれることなく、去って言った。


×日経過した。

 もう食料も底をついた。あのヤンキーや賢治さんも含め、ここにいる全員が指一本も動かすことができなくなっていた。

 もうダメかと諦めようとしたその時ドンドンドンという音がドアから聞こえた。

 ついにバケモノが来てしまったのか。そう俺は思い、自分の人生の終幕を想像しつつ目を瞑った。

 しかし、次の瞬間、聞こえてきたのはーー。


「俺です! タロです!」


 という2日という時を共にした正真正銘のタロさんの声だった。

 生きていたのか! と喜びを感じつつ、俺は慌ててドアに向かいバリケードを潜り抜け、ドアを開くとそこにはタロさんがいた。


「すみません。遅くなりました」


 そういうと、男はニッと笑った。

 そうして次の瞬間、上空から一点照らされる光と、その光源からの爆音と強風が巻き起こった。ーーヘリコプターだ。

 そういう男の後ろには、強靭な体をした自衛隊たちがずらりと並んでいたのだった。

 俺はヘリコプターに照らされる彼に後光が見えた。

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