裏取り
『これは僕が小学生のとき、同級生が体験した話です』…………と会社の先輩が語った怪談話が本当かどうか、私が裏取りに行ったときの話です……。
先輩の地元へ向かった私は、まず、通っていた小学校を訪れました。
同窓会を開きたいので、当時の同級生の住所を教えてほしいとお願いすると、対応してくれた先生は快く協力してくれました。
私は見せていただいた名簿や資料をもとに当時の同級生の家を一軒一軒訪ね、『同窓会で使うアンケートを集めている』と称して話を聞いて回りました。多くの同級生はすでに実家を離れていたため、ご家族を通じて電話で話を伺いました。
そして……調査を進めるうちに、ある衝撃的な事実が明らかになったのです……。
心霊体験をしたという先輩の同級生は……存在していなかったのです。
先輩の話には学年やクラス、その同級生を襲った症状など、具体的な情報が含まれていました。 しかし、当時の同級生も教師も、誰一人としてそんな人物を覚えていない。名簿にも載っていなかったのです。
私は急いで調査報告書をまとめ、就業間際に先輩のデスクの上へそっと置きました。
そして、陰からその様子をこっそりうかがいました。
調査報告書に気づいた先輩は手に取り、何気なくページをめくり始めました。しかし、読み進めるにつれ、その顔色はどんどん青ざめ、目の焦点が定まらなくなっていったのです……。
そして次の瞬間――先輩は調査報告書をぐしゃりと丸めてゴミ箱に放り込み、勢いよくオフィスから出ていきました。私はすぐに後を追い、エレベーターの前で彼に声をかけました。
しかし、先輩は私を無視し、焦った様子でカチカチカチと何度も呼び出しボタンを押しました。でも、なかなかエレベーターが来ないと見るや、踵を鳴らし、階段へ向かいました。
――カンカンカンカン!
――カンカンカンカン……!
二つの靴音が響きました。
「なんなんだよ……なんなんだよ、お前!」
先輩は途中で立ち止まり、振り返って私を睨みつけ、そう叫びました。
その声の余韻が壁に吸い込まれる中、私は静かに一つ、階段を下りました。
「お前、誰だよ、ストーカーかよ……」
……違うよ。私はストーカーじゃないよ。
この会社に入ったのは偶然。小学生の頃不登校になって、その影響がずっと尾を引いて、中学も高校もまともに通えなくて留年して……たまたま、この会社に入社して、あなたの後輩になっただけ。
「来るなよ……」
私は一つ、階段を下りました。
あなたは気づいていないんだね。あの調査報告書には、同級生が一人、足りなかったことに。
「おい……!」
私は一つ、階段を下りました。
小学生のとき、あなたが作り話をして、みんなの前で笑い者にした『私』の名前が、載っていなかったことに。
私は一つ、階段を下りました。
「なんなんだよ……!」
あなたは今でも作り話をするのね。
私は一つ、階段を下りました。
すると、先輩は背を向け、階段を駆け下りようとしました。
だから私は――。
これで、この話はおしまいです。
でも、きっと裏取りはできないでしょう。
だって先輩はもう、この世に存在していませんから……。