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G材倉庫ジャック事件!  作者: 冴木 悠宇
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第七章 現場の混乱極まれり 

挿絵(By みてみん)

「駄目だ、もう駄目だっ! 材料が間に合わないっ!」


 作業机に強く拳を叩きつけた現場の班長はそう言って頭を抱えた。


「どうしたんですか、班長!? もう工期が迫っているんです、材料が入手できなければ大変な事になりますよ。一刻も早くG材倉庫へ要求表を提出してくださいっ!」


「そんなことは分かっているっ! だが今のG材倉庫は魔女と二匹の老害に支配されているんだ!」


 苦渋の表情を浮かべた現場班長は、現場社員達ひとりひとりの顔を見渡した。


「そうだ。魔女には、あの魔女にはな……」


『ゴクリ』


 班長のまわりに集まった現場社員が皆、息をのんだ。そう、みんな分かっているが恐ろしさのあまり口に出せずにいるのだ。


「魔女には話が通じない。材料のことをまるで知らないから、そもそも会話が成立しないんだ!」


 現場社員たちは絶望の表情で工場の天井を振り仰いだ。


「それにな」


「ま、まだ何かあるんですかっ!」


「声が小さすぎて何を言っているか分からない。なぜか後ろからハツオのささやき声がするんだ。『断ってしまえぇ~』って、船場吉兆のコントか畜生!」

 

 悔しそうに吐き捨てた班長を現場社員全員が生暖かい目で見ている。


「仕事中だぞ。何を騒いでいるんだ?」


 その時、現場詰め所にゆらりと現れた人影。

 ざわざわざわっ! 一瞬で現場に緊張が走った!

 中年の哀愁滲むぽっちゃり目の体にフィットする、サイズ不明の作業服。金色メッシュの天パ髪を気取った仕草でかき上げた。


『て、徹さん課長っ!!』


 カリスマ上司の登場に現場社員が沸き立った。

 工期は既にヤバい段階に差し掛かっている。これで救われる! 現場社員たちは期待のこもった顔で徹さん課長の周りに集まった。

 『徹さん課長』と呼ばれる彼は出来る男である、ややクセが強くて気が合う人間を選ぶが、人を牽引するパワーを持っている。でもあちこちで…ちょっとね。うん(しみじみ)


「徹さん課長、実は材料手配がっ出来ていないんです!!」


「G材倉庫のリーダーなら、すぐに材料を手配してくれます! お願いです、徹さん課長から話をしてください」


「そうです。彼に、今すぐ彼に連絡をとってください」


「電話の向こうで、ハツオが断ってしまえ~って言ってるんです! なんですかあれは!」


 徹さん課長は、鬼気迫る表情で詰め寄る現場社員たちを手で制した。


「そんなことは分かっている、みなまで言うな……。原因はあの魔女だろう?」


 徹さん課長はそう言って、いつも耳に装着しているBluetoothのイヤホンを外してにやりと笑った。

 今ここで現場にのしかかっている難題が解決するだろう。頼りになる上司の采配を現場社員たちが固唾をのんで見守っている。

 そして、徹さん課長は……白い歯を見せて、へらっと笑った。

 

「俺は魔女が電話に出た瞬間にすぐ切ってるぞ」


『あ、ああ~』


 徹さん課長は得意げだ。現場社員の吐息が詰め所の中へと広がった。

 そうじゃない、断じてそういうコトではないのだ。


☆★☆


「それにしても腹立たしい」


 再び愛用のBluetoothのイヤホンを装着した徹さん課長は混乱がやまない現場を見渡した。

 G材倉庫のリーダーは何をやっている? 俺に頑張ります!とか言わなかったか?それとも俺のイヤホンが故障していたのか?

 だが徹さん課長は知らない。

 G材倉庫のリーダーはヒロユキとハツオに粛清された。

 彼の「頑張ります」の声が、もう誰にも届かない場所に押し込められていたことを――。

 そして老害から次の一撃が入れば、彼のメンタルは崩壊確実であることを……。

実際、現場まわりをしていると、いろいろな現場でこう言われました。

「異動しないでください」と。

現場の方々も暇なわけではありません。

それぞれに明確な役割があり、私たちG材倉庫は“現場を支える”のが仕事です。


だからこそ、物を知らない、現場と話ができない――そんな状態では到底仕事にならないのです。

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