第五章 傀儡の魔女
魔女は怯えていた、怯えきっていた。
何に怯えていた? それは自らに向けられる他人の評価だ。まったく自意識過剰じゃないのかと思うが、この魔女は自らを振り返ることはない。
ある日は「今日は話しかけられた」「今日は態度が冷たかった」またある日は「なんか違ういつもと違う」「挨拶された無視された」ぐるぐるまわるエンドレス。もうおなかいっぱい……うぷ。
「あなたに出来るはずがないよ~」「あそこの仕事は大変だよ~」「あなたには絶対に無理だよ~」そんな周囲からの嘲笑が魔女の胸中で渦巻いている。
うん。
みんなの評価は残念ながらおおむね正しいかも。
魔女はG材倉庫のすべての業務を行うための優れた、とても優れた、ああとっても優れた頭脳であるシステムが鎮座するデスクに手を触れる。そのひんやりとした感触にびくりとして手を引いた。
「怖い怖いコワイ怖い。こんなの、こんなの無理……」
えっと、まだお仕事してないよね?
今日は朝からG材倉庫のリーダーは聖戦の場であるG材倉庫事務所にいない。
G材倉庫の業務に誇りを感じていた彼は、G材倉庫の仕事を愛する彼は……。
ヒロユキとハツオに仕掛けられた薄汚い謀略の餌食となってしまったのだ。不本意ながら……南無南無。
「さぁ魔女さん、今日はどの業務から始めればいいですか?」
G材倉庫のリーダーを粛清し、勝利の余韻に酔いしれるヒロユキは、にんまりと嗜虐的な笑顔を浮かべて言った。
「えっと、あの……。分かりません」
魔女は涙目でうつむく、そんな魔女をハツオがちょっと気の毒そうに見つめていた。うん、お前も大概だからな。
「いやいやいや。魔女さんはこのG材倉庫のリーダーでしょ?だったらちゃんとボクたちに指示を出してもらわないとぉ~こまるなぁ~」
だからキモイんだよヒロユキ、お前は配属二日や三日で業務全体が把握できるのか? ヒロユキにいたぶられ、恐怖に支配されて傀儡と化した魔女はぽつりとつぶやいた。
「私はここに来たくて来たんじゃないのに」
おいコラ、お前もそれ本気で言ってるのか?
(怖い怖い怖い怖いヒロユキが。怖い怖い怖い怖い怖いヒロユキが。怖い怖い怖い怖い怖いヒロユキが。怖い怖い怖い怖い怖いひろゆきぃ……)呪文は終わらない魔法も発動しない。
魔女はヒロユキと同じ部署にいて、一年間無視をされ続けたトラウマを持っていた。
それにしても、この三匹が現場を支える三本の柱となりえるのだろうか。いや、ありえないよね。
その時、G材倉庫の守護女神は何を想っていたのだろうか。
セリフ等、ほぼ実話です。






