表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
G材倉庫ジャック事件!  作者: 冴木 悠宇
30/37

第二十六章 負け惜しみの遁走曲(フーガ)

挿絵(By みてみん)

 ああ、『断捨離』。断つ、捨てる、離れる。なんともスッキリシャッキリしそうな言葉じゃないか。

 ああ、『断捨離』素敵なるかなその思想。

『僕も考えさせてもらいます』に対する、僕なりの答えだ。

 もうストレスを溜めることなんてない。僕は人間関係の断捨離、人間関係の整理を始めたんだ。

 いらない関係、負担になる関係は手から離して、すいすいーと彼方へと流してしまうんだ。

 でもね、僕も馬鹿じゃない。

 仕事の話はするよ、同じ事務所で仕事をするんだからね。

 そうでなきゃ、それこそハラスメント行為ってものでしょ?

 でもそれだけ。仕事の話しかしないよ、世間話も雑談もしない。なぜなら相手に興味がないから。

 恋愛話じゃないけど同じことだよ。『好き』の反対は『嫌い』じゃない、『無関心』だって聞いたことがある。まったくそのとおりだね――。


 さてとりあえず。今、僕の隣の席は女神様なんだ。

 すーぱーゆるふわ神業お仕事系女神様って長いお名前。絵衣子さんと融合していないときは、ゆるちゃん。

 ここしばらくは、絵衣子さんと融合した女神様がお仕事してるんだけど。

 背中に白い翼を持った女神様が「ぴゃ!」とか「きゅ?」とか言いながら、パソコンに向かっている姿はなんとも不思議な光景だね。

 でも僕以外の人間には、絵衣子さんが仕事をしているようにしか見えないらしい。

 僕は天界で女神様と話をした。……あれは夢じゃないと思ってるけど。よくわからない。

 そうだよ。

 自分に妙な能力があるなんて、信じちゃいない。

 そんなことができるなら、もうとっくに自分の都合の良い世界に書き換えているからさ。

 つらかったり、苦しかったり、涙を流すような想いをしたくないよね、誰だって。

 だけど、ヒロユキが化け物に見えたあの一瞬を、僕は今でも忘れられない。


 ……で件の老害。奥の席で魔物になり損ねたヒロユキが、クソ重たい体で椅子を軋ませながらふんぞり返っている。

 時折、何やら言ってるみたいだけど。

 僕の知らない言語なのかな? 翻訳機が欲しいなぁ。

 僕はもう超がつくほど生返事。キーボードを打ちながら時折「へー」「はー」「ほー」の、はひふへふー。

 それから、ハツオにも同じ態度で接してるけど、こっちは空気を読む能力が備わってないらしい。僕の態度に何も感じないようだ。


 そんな日々の中、やはり詰め込まれる業務に忙殺されていると。ヒロユキが何やら不穏な気を出し始めた。

 ……そして、ついに。


「第一倉庫にいく、自分はあの倉庫で仕事が出来るんで」


 そうい言い出した。

 ほう。

 何があっても止めやしないけど。ほんとに自由だね、それが許されるのん?

 そしてまた、僕に聞えよがしなんだろうけど、女神様に言っていたんだ。


「ハツオも、ここから抜くかもしれん」


 ほう。

 お前にその権限があるの?ほんとに勘違い野郎だね。それも許されるのん?

 たぶん、自分達が居なくなると、僕が困って慌てると踏んだんだろうけどね。

 僕だって、いつまでも新人じゃないよ。もとより知識の下地はあるつもりだし。これまでの人脈もあるし。

 僕が残業すれば何とかなるよ。僕の残業時間が(かさ)むのがまずいなら、会社が考えるさ。

 そう言えば、二階の『追い出し部屋』からパソコンデスクを持って降りた時に、ヒロユキの私物入りの段ボールを引きずり出したんだっけ、邪魔になったから。ひとまとめにして置いといた。

 有言実行は美徳だね。ごそごそとその私物を片付け始めた。

 傷んでぶよぶよの段ボール箱に、ぎちぎちに荷物を詰め込むものだから、箱の底が抜けそうになって、よたよたと歩いている。

 荷物がまとまると、オンボロ社用車に荷物を積んで運び始めた。刻々と時間も過ぎて、困惑気味の絵衣子さん(女神様)も退社時間となり……。

 まぁそれでも何か言わないといけないかなぁと、思ったんだ。


「今日までにされるんですか?」


 ……今考えれば余計なお世話だったよ、何も言わなくても良かったかもね。


「ああ、そうしまっせ!」


 やけに威勢がいいなぁ。なんて思っていたら。

 倉庫事務所の引き戸を占めながら。


()()()()()()()()()()()()()()」(絶対に許さないからな)って言ったんだよ。歳を考えなさいよ、イタチの最後っ屁か。

 久しぶりだけど。これはパワハラの具体例、人格否定、暴言にあたる。

 普通に考えて、職場でこんな言葉を使う場面なんか、まず存在しないよね。


 ぽかんとしていた僕は、我に返ると業務用スマホを手に取った。ぽちぽちと画面をタップする。その連絡先は……。


『お疲れ、どうかしたの?』


 やっぱり軽妙なコハラ神官の声にホッとする。状況をかいつまんで説明すると、電話の向こうからコハラ神官の乾いた笑いが聞こえてきた。

 

『あはは、もう子供みたいだね。ええとね、日付と時間と言われたことメモしておいてね。もし何かしてきたらすぐに連絡ちょうだい、僕がすぐ来るから。心配ないよ、罪状が増えるだけだからねー』


「分かりました、ありがとうございます」と、電話を終える。


 事務所に妙な感じの空気を残して、老害ヒロユキは遁走(とんそう)した。 

 コハラ神官、メイスを担いで駆け付けてくれるのかしら?

この章は、長く張りつめていた空気がようやくひとつ抜けるような、そんな解放の場面でもありました。

ヒロユキという存在が象徴していたのは、理不尽・抑圧・自己正当化――そんな負の感情の塊でした。

このデカブツを動かすのは容易ではなかったでしょうから、奇跡のような出来事です。


コハラ神官の軽妙さと頼もしさに助けられました。

本当に「心強い味方がいる」と感じられるって、大切なことです。


物語はクライマックスへと向かい始めました。

それでは、また次回の更新で。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ