第二十一章 奪還!G材倉庫
この腹の底から湧き上がってくる想いは何なんだろう? 怒りや悔しさなんて心を締め付ける感情なんかじゃない。
僕はぐっと顎を引いて顔を上げた。
「女神様、僕にも仕事をさせてください」
「ぴゃあ! 分かりました、じゃあさっそく始めましょう!」
女神様は白い翼をぱたぱたさせて、すとんとオフィスチェアにおさまった。
僕はこのまま、第一倉庫へ帰らずにG材倉庫で女神様を手伝うことにした。そして、いまだ夢か現かなんてぼんやりしている上司に。
「僕はこのG材倉庫で仕事をしてもいいですか? 僕がリーダーでも良いですか?」って聞いたんだ。
「お、おう。それでいい、それでやれ」
上司は眼鏡の奥の糸目を白黒させながら許可してくれた、火事場騒動に乗じたみたいだったけどね。
駄目だって言われたらどうしようって、そりゃ一瞬考えたよ。でも気持ちがどうしようもないほど高揚していたんだ。
それから、さっと事務所内を見渡す。
あまり空間認識力はよくないんだけど、二階の追い出し部屋で使っている粗末なパソコンデスクが事務所に入るんじゃないかって考えた。
その時は、もうなんでもかかってこいってな気持ちだから、そこでまた僕は電話を手に取った。
第一倉庫へ電話をかけて事情を説明した。
年明けには二階の追い出し部屋から、粗末なパソコンデスクを降ろすのを手伝ってもらえることになった。
頭に閃いたのは、これは千載一遇のチャンスだってこと。ヒロユキもハツオも、正月休みがいちにち長いんだ。
「老害魔物が居ぬ間に命の洗濯じゃなくて、居場所の選択をさせてもらうんだ」
「きゅ? 洗濯じゃなくて選択? ふふふ」
小首をかしげて、くすくす笑う女神様は”お仕事女神”の本領を発揮して、すい~すい~と、すごい早さで請求書の山を片付けていく。
それはもう気持ちいいくらいに。
僕も負けてはいられない、及ばずながら女神様のお役に立たねば。
蕁麻疹が出るほど嫌なんだけど、ヒロユキの席に座った僕は意気揚々と基幹システムを起ち上げた。
その時魔女は……。いや、さすがに覚えていない。
何をしていたっけな。
僕はそんなに出来た人間じゃない、自分のことを考えるだけで精いっぱいだったんだ。
☆★☆
今日は仕事納めの日だ。
なぜか、この会社はそんな節目をあまり感じない。
仕事納めの日に老害魔物の顔を見ずに済んだのは、唯一の救いだった。
会社を出た僕は、ふと立ち止まった。
自然と顎に手を当てて思索にふける。脳裏によぎったのは徹さん課長の言葉だった。
『逃げるなよ、絶対にだ』
「……もしかして、でもそんな」
徹さん課長は、老害魔物が女神様に仕事を押し付けることを予想していたんじゃないだろうか。
そんなことがあり得るのか、あまりにも話が出来すぎている。
僕は、閃きを否定する。
でも、ひょっとして。
ぐるぐると考えを巡らせていると、鼻がむずむずして……。
「へくちっ!」
寒い。大きなくしゃみをした僕は、ぶるるっと体を震わせた。
どこまで考えても答えなんかでない、徹さん課長に聞くのも怖い。
でも、もし本当にそうなら……やっぱり、あの人は。
まだ終わったわけじゃない、これからが大変だ。
でも、ほんの少しだけ体と心を休ませよう。
そして、また……。
僕は背負ったリュックをひとゆすりして、古ぼけたG材倉庫の建物を振り返った。
この章は、僕(作者)にとっても小さな転機のような回でした。
怒りや悲しみは、時に言葉にならず、ただただ心の中で渦を巻いてしまいます。
でも、それでも前に進まなければならない瞬間がある。
この「奪還!」は、まさにそんな瞬間に生まれた物語です。
主人公が踏み出したのは、ほんの小さな一歩かもしれません。
だけどその一歩には、迷いや痛み、そしてほんの少しの希望が詰まっています。
そしてその傍らには、ゆるふわなのにどこまでも頼れる女神様――ゆるちゃんがいてくれました。
自分ひとりでは難しくても、
誰かが「ぴゃあ!」と笑ってくれるだけで、
何かが動き出す、そんな不思議な力を、信じたくなります。
物語の中のG材倉庫も、現実の誰かの心の倉庫も、
少しずつでも風通しが良くなりますように。
そんな願いを込めて、この章をお届けしました。
読んでくださったあなたに、心からの感謝を。
そして、また次のページでお会いできたらうれしいです。
――G材倉庫の片隅より、ぴゃあ!




