第十七章 ターゲット ~逆転への布石~
親倉庫の事務所で、かつて自分が与えられていたデスクに座る。
(あ〜帰ってきたな、帰ってきちゃったな)
いいことも、嫌なことも一気に記憶が蘇ってきた。そんな記憶の奔流に溺れないように、準備した新しいノートに日付を書き入れた。
真新しいページを見ても、わくわくを感じない。
紙面に触れたボールペンの先がわずかに震えてる。インクがかすれて、きれいな文字にはならなかった。
親倉庫のメンバーは、なんというか。うん。個性が強い。
業者として納品のために出入りをしていたとき、いじられてどう対応していいか困ったことがあるんだ。
もっともっと前は厳粛な雰囲気があって、課長さんがとても厳しくて、緊張して背筋がすっと伸びたな。
そうそう、後輩の子がいってた。
「リアルハート様がいますよね!」(北◯の拳)の悪役。
おいおい。さすがにそれは……。と、思いながらも一生懸命に笑いをこらえたのを思い出した。
いけない。ぼんやりしてる場合じゃない。――菩薩様が呼んでくれたんだから。
深く息を吸い込んで、下腹にぐっと力を込めて立ち上がる。
依頼書をバインダーに挟んで階段を降りる、この古くて錆びついた階段の感触を忘れていなかった。
5年の間、G材倉庫を切り盛りしていた僕は、この倉庫での作業手順を朧にしか覚えていない。
また最初からやり直しだ……。
仕事をはじめてみると業務の手順が変わっていた。以前よりは楽になったといわれるけれど、出戻りの僕には初めてに等しい感覚だ。
現場からの依頼書に沿って部品を集めていく。G材倉庫でも同じ作業はしていたけれど、正直、あまり得意じゃない。
やっぱり、結構な神経を使わなばならなかった。
☆★☆
昼休憩になると、ハツオはよぼよぼのしのしと本社へ向かう。
本社で弁当をかっ食らうためだ。
そのあとは──お楽しみの「おしゃべりタイム」と……本人だけはそう思っているが、周りの誰も楽しみになどしていない。
昼休憩はそれぞれ自由な時間である、誰も好き好んで鬱陶しい老害の相手などしたくない。
そんな空気を読む気もさらさらないハツオは舌好調だ。唾を飛ばしながら自分の年末の予定をべらべらとしゃべりまくっている。
「……うるさい老害だな」
その様子を徹さん課長がじっと見ていた。右手を上げると、やおら耳に装着しているBluetoothのヘッドホンに指を触れる。
ややあって、電話がつながったのか声が聞こえてきた。
『てっちゃん、どうしたの? もうお昼だよ』
「ああ、お疲れ。ノリちゃん班長、実は頼みがあってさ」
『いいよ、なにー?』
「現場に置いているアレ、台車に載せておいてくれよ」
『ええ? いいけど。あんなの引っ張り出すの? もう壊れてるじゃん』
「ああ、分かってるよ。でもあれはさ、大事な引き金なんだよ」
『引き金?』
「そうそう、とにかくよろしくな」
『ん。いいよ、りょーかい』
徹さん課長の鋭い視線は、今もべらべらとしゃべるハツオの姿を捉えている。
「……三か月、待つ必要はないなぁ」
電話を切った徹さん課長は、まるで獲物を狙う猛禽類のように、ハツオの姿から視線を外さなかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
『G材倉庫ジャック事件!』第十七話、いかがでしたでしょうか。
転属、再出発、そして静かに動き出す反撃の気配――
傷ついた主人公が、少しずつ「自分の尊厳」を取り戻していく姿を、あたたかく見守っていただけたなら嬉しいです。
今回の物語の鍵は、“静かなる決意”。
誰かの理解や、ささやかな支えが、心にひとすじの光を射してくれる。
そんな小さな奇跡が、明日を変えていくのかもしれません。
次回はいよいよ、G材倉庫に波乱の火種が――!?
どうぞお楽しみに。
ぺし!




