第16.5章 天界の審議会 ~YURUFUWA-001の報告~
へぼい会社でも割と福利厚生はしっかりとしているようである。外面はいい会社の典型だ。
女神様はお休みの日である。
コードナンバー「YURUFUWA-001」こと、我らがスーパーゆるふわ神業”お仕事系”女神様、はお里である天界を訪れていた。
女神様の召喚先でとんでもない事象が確認されたのだ。それこそ、天界を震撼させてしまうほどの事態だ。
「君の召喚先で、すさまじい魔物の気配がしている。しかも醜悪なのが三匹だぞ三匹! これは忌々しき事態だ」
重々しい声が天界へとこだましている。心のひだを震わせる上品で優しいその声音。
「YURUFUWA-001に問う、君の報告に偽りはないな」
「きゅ…」
スーパーゆるふわ神業系”お仕事”女神はこくりと頷いた。
「それにしても……。君の報告に嘘偽りや誇張、その他思想の誘導などはまったく見られないが」
ふわふわ金髪、彫りが深い顔の造形、筋骨隆々の筋肉ダルマ。天界を統べる全能神は、なんとも渋い顔をした。
「こんなハラスメント行為が横行する会社はヤバくないか? しかも君の報告にあったヒロユキとハツオは総務部長ベンベンとも、ずぶずぶの関係だということだが」
「はい。ベンベンは、ずぶずぶのぶーです」
間髪を入れず女神様はすっと首をかしげて答えた、ため息をついた全能神は頭を抱える。
「女神よ……。君まで魔物ヒロユキの必殺技『ぶちょうにいっとく』の影響を受けて幼児化しているぞ?」
「ぴゃ!」
うろんな目を向ける全能神の呆れた表情に、はっとした女神様は背筋をぴん!と伸ばした。
「いやだ。もう私ったら」
両手をぎゅっと握った女神様は、ぶんぶんと首を振った。
「こらこら、やめなさい女神よ。ヘッドバンキングなんかしてると記憶が飛んでしまうぞ」
「はぁい」
全能神からやんわりと注意されて、居住まいをただした女神様は「しゅん」と、肩をすぼめた。
「それにしても列席の神たちよ。貴殿らはこのG材倉庫の異常事態を如何に思う?」
相変わらず渋い表情をした全能神が水を向けると、女神様の報告を聞いていた数多の神たちも、そろって渋い顔をした。
「それにしてもひどいな、魔物とはいえどもまったく存在価値が無い」
「過去の権威を振りかざし、他人の権力を笠に着る勘違い老害だな、汚らしい」
「いやまったくである。自分たちの醜悪な思想に気付かんようだな、息をするだけで瘴気をまき散らしている」
「もうめんどくさいしぃ。いっそさっぱりと浄化しちゃう? あは、そんなんじゃ生ぬるいわねー。一度地獄に堕として、ミジンコ以下の単細胞に生まれ変わらせるとかどう?」
「馬鹿者が、ミジンコ以下の単細胞に失礼ではないかっ!」
「あら失礼、うふふ」
「ぷっ、ミジンコさん……ごめんなさい、くすくす」
女神様が思わず吹き出した。
ぺし。
「あう」
「笑っている場合ではありませんよ」
「あ、菩薩様」
頭をなでていた女神様は、ぱっと顔をほころばせた。
天界へ姿を見せた菩薩様。教義や思想、はたまた祈りの言葉が違ってもありがたさはかわらないよね。
「それにしても、G材倉庫リーダー(仮)は、よく堪えてるではないか」
全能神は「ご助力かたじけない」と菩薩様に礼を述べたあと、女神様に向き直った。
「……うん、そう。そうですね」
「試練というには、あまり清らかではないがな。乗り越えたとしても醜い傷跡になるかもしれん」
全能神の表情は相変わらず渋い。
「女神よ。君はG材倉庫の仕事に遣り甲斐を感じているのだな?」
「はい。リーダー(仮)も、ポンのコツっぽいですけど。まぁまぁ一生懸命やってますから」
「ふむ、よかろう。ならばこの歪みは見過ごせぬ。奇跡のひとつでも授けなければさすがに胸が悪いからな。きっかけは作ってやろう」
表情を改めた全能神は、逞しい腕を力強く振り上げた。
「今一度問う。女神よ、後悔はないな?」
「……はい」
「分かった。システム起動!奇跡発現シークエンス五秒前、カウント始めっ!」
全能神の合図で、一斉に唱和を始めた神々の厳かな声が重なり合い、荘厳なハーモニーとなる。
天界が大きく大きく揺れている、天空へと舞い上がった神々の御心は眩い光となって弾けた。
美しくも儚い光の残滓が、花びらのようにひらひらと舞い降りる。
『5、4、3、2、1……。いいぞ女神よ、今こそ奇跡の発現だ!』
「はい!」
全能神の掛け声と同時に、菩薩様が女神様の肩を叩いた。それを合図に、女神様がまっすぐ右手を伸ばす。
空中にすい~っと人差し指で円を描くと。空間の揺らぎと共に円の中に映像が浮かび上がった。
乱舞するまばゆい光が交錯し映像を結ぶ。映ったのはBluetoothのヘッドホンと、メッシュの入った天パ気味の後ろ頭。徹さん課長の後ろ姿だ。
「いい方向へ向かいますように」
女神様は目を伏せて小さく祈るように微笑んだ。
聖剣の剣環が風に触れ、鈴の音のように澄んだ音を響かせる。
その旋律は、まるで空の向こうへ祈りを運ぶように、やわらかく溶けていった。




