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G材倉庫ジャック事件!  作者: 冴木 悠宇
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第十五章 異変

挿絵(By みてみん)

「助けてください」


 そのひとことが言えて、本当に良かったといわれたんだ。

 それが言えなければ、僕は……。


☆★☆


 今日も今日とて追い出し部屋に出勤する。


「はぁ……」


 僕は深い溜息を漏らした。相変わらずプリンターは沈黙したまま、IT企画部が様子を見に来てくれる気配もない。

 ああ、わかってる。この古いプリンターを、使えるようにしてくれるなんて気はさらさらないのだ。

 【追い出し部屋】は相変わらず静寂に支配されていて、ひんやりとした空気の中に溶け込んでいる醜悪な悪意は、虜囚の心を粉々に砕こうと鋭い牙を研いでいる。

 おかしなことに、この環境が羨ましいという者がいる。

 自分が何を言ってるか分かっているのだろうか?

 仕事をするために会社へ来ているんだ。こんなところで無為な時間を過ごすためじゃない。

 そんなにお望みなら……。 いや、やめよう、虚しくなるだけだ。


 神殿の神官長ウメーダは、確かに『ハラスメント認定』をしてくれた。

 しかし、さぁ、反撃の狼煙を上げろというわけにもいかないらしい。

 実際に告発に踏み切れば、何がどう動くのか分からないという。

 だから今一度、どうしたいのかよく考えてくれ……と。

 ここで、僕の自爆志向が頭をもたげる。

 『社長に直訴』することも厭わない、そんな過激な思考に支配されてもいたんだ。そしてそれを実行しようとしていた。


「それにしても」


 ひとりごちて、ちいさなデスクまわりを見渡した。

 事務用品を【追い出し部屋】へ引っ張り上げたので、ひととおりの道具は揃っている。問題は使う仕事がないということだ。


 そういえば、今日はクリスマスだったっけ。

 白いお髭のサンタクロース。プレゼントをくれないかな、僕の今までの「日常」を。

 あはは、靴下には入らないか。


 天井を見上げて、またため息をつく。

 今日は誰も、魔女さえもこの【追い出し部屋】へ来ることはない。

 階下の倉庫事務所の仕事の具合はどうなのだろう?

 ここにいては全く把握ができない。ついこの間までは、あれをしなければ、これを頼まれていた。そんなことに心を砕いていたというのに。

 僕はもう、G材倉庫リーダーではない。

 心を侵食するのは強烈な疎外感だ。でもそれを感じるのはおかしい。こんな目にあわされても尚、仲間意識の欠片でも残っているというのだろうか。

 ヒロユキやハツオのような類の人間は、自分の中にある『過去の権威』を当然のように振りかざす。

 まるで、それが今でも正しい常識であるかのように。


 あれ、どうしたんだろう。

 鼻の奥がツーンとする。

 あれ、どうしたんだろう。

 悲しくも嬉しくもないのに、涙が滲んでくるよ、困ったな。


 でもそれは、異変の始まりだったんだ……。


 突然、ざわりと『何か』が体にしがみついた。

 幽霊なんかじゃない、幽霊の方がどれだけマシだろう。

 僕はこの感覚をよく知っている。長年、この『何か』を振り払えなくて苦しんできたから。

 僕はこの『何か』から逃れたくて前に勤めていた会社を去った。でもまさか、この会社でそれがぶり返すなんて仕打ちを受けると思わなかったんだ。


 じっとしていられない、膝ががたがたと震える。

 でも、でもまだ大丈夫だ。もう少ししたら、この恐ろしい波は引いてゆく。

 そうすれば疲労感だけが体に残り、彼方へとさらわれてしまうことはない……はずだった。


「だめだ」


 粗末なパソコンデスクに両手をついて、うつむいたままでなんとか体を支えた。

 視界が揺れている、そんな気がする。気持ちが悪い、足元の床は柔らかくて踏ん張っているつもりなのに体がぐらぐらする。

 様々な感情が体の中に入り込んで渦を巻く。怒りと悲しみ、悔しさに引きずり込まれそうになる。一番怖かったのは『疎外感』だった。

 こうなった時、救われるのなら、楽になれるのなら、どんなことでも受け入れようと思うんだよ。

 怖いよね。

 もうじっとしていられない、泣き出しそうな僕の手に自分のスマホが触れたんだ。

 ぐすぐすと鼻をすすりながら、震える指で恐る恐る画面をタップした。

 相手を呼ぶ音が、遠くに遠くに聞こえる。


「どうしたの! なにを言われたの!?」


 そして。僕の耳にそんな声が聞こえてきたんだ。

書きながら、何度も「これでいいのかな」って立ち止まりました。

いつもなら少し笑ってごまかすのが得意なのに。

この章だけはそれができませんでした。


正直に言えば、「こんなの読んで楽しいかな?」って不安もありました。

でも、ふざけられないくらい本気で心がしんどかった時間を、ちゃんと物語に残しておきたかったんです。


泣くことは弱さじゃなくて、壊れる前の最後のSOSだと思っています。

だからこの章は、僕にとっても大切な『証拠』になりました。

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