閑話休題 G材倉庫の女神様! ~ゆるふわ女神様の日常~
「この私、スーパーゆるふわ神業系"おしごと"女神様の名誉にかけて、このげんていくーぽんは有効に使ってみせるっ!」
ふんす!
☆★☆彡
ここは天界である。
数多の神とその眷属たちが住まう、この世界は楽園とも呼ばれている。
とても平和でゆるやかな時間が流れるこの理想郷を、ちょっと覗いてみたくはないですか?
「いやあああああああああああっ!」
先ほど平和で云々と紹介したのに、絹を引き裂くような悲鳴が天界に響き渡った。
……この声は。
なるほど、コードネーム『YURUFUWA-001』か。ああ、君なんですね(察し)
「し、信じられない、今日限りのげんていくーぽんだったのに」
お風呂上がりで、ほこほこしているのは我らがG材倉庫の守護女神様である。「スーパー」で「ゆるふわ」な「お仕事系」の、ありがたーい女神様なのだ。
ちなみに「お仕事系」のココロは「お仕事一生懸命系女神」の略である。
よくぞ、よくぞG材倉庫に御光臨下さったものだ。そのありがたさは事務所に祭壇作ってたくさんのお菓子をお供えしちゃうレベル。
その女神様が発する聖なる光は、ちょっと狭いG材倉庫をくまなく照らし出す。
サボってると浄化されちゃうゾ? 誰とは言わないけどね。え?もう浄化されてるって。
ところがそのスーパーでゆるふわなお仕事系の女神様も、おうちでくつろぐ女神様はちょっとばかり、いやけっこうな、いやかなりの天然っぷりを発揮する。
「……あう」
と、握りしめてよれよれのクーポンを、しおしおの女神様が悲しそうに見つめる。
休日も忙しく立ち働いた女神様。何の気なしにテーブルを見やったとき、女神様の背筋に電気がはしった。びびびー。
「はああああああああ」
背筋を駆け抜けた電気に撃たれて、肩を落とした女神様は盛大なため息を総動員。
「あ~どうして昼間、買い物に行ったときにクーポンを使うのを忘れちゃったんだろう……。わたしのばか、もうばか」
昼間の自分がうらめしい。
いかに、スーパーゆるふわ系お仕事女神でも、過ぎ去った時間を巻き戻す術はないのだ。
それは世界の『理』に反してしまうからね。
ありがたいクーポンは、なんと輝く銀貨4枚の価値を持っている。しかしその使用期限は、なんと今日の閉店までなのだ!
悔しくて、握りしめられてよれよれになっても、クーポンの偉大な力は失われてはいない。
「ううん。でもまだ、まだよ! 諦めたらそこで試合終了だって言うじゃない! そう、まだあの店舗は遅くまで営業しているハズっ!!」
よれよれのクーポンをさらに握りしめた女神様は、背中の白い翼を大きく広げた……が。
「お風呂済ませちゃったしクルマでいこ、汗かくの嫌だし、飛ぶのしんどいし」
あれ、飛ばないんだ。
あっさりと翼を畳んだ女神様は愛車のキーを指に引っかけた。
☆★☆彡
女神様は天界に存在するスーパーをすべて把握……しているわけではない。
最寄りの便利で品揃えも多く、尚且つお財布に優しい愛すべきスーパーを、その優秀な頭脳にインプットしているのだ。すごいよね。
「着いた。くふふふ、まだ営業しておるではないか。おーいえー」
もしもし女神様? なんか属性が変わってない?
クルマのドアを閉めた女神様は颯爽と……ではなく。上着を羽織って身震いをひとつ。
「ぐす、湯冷めしちゃうかも」
そう言った女神様は、ぼんやりと灯りを放つ店舗に吸い寄せられていった。
「来ちゃった」
入店するといちばんに、女神様の足は自然と向いていた。
そこは『聖剣コーナー』だ。真っ先にこのコーナーに足を運んでしまうあたり、さすがお仕事系の女神様である。
様々なメーカーの聖剣?が、ブリスターパッケージに収められて行儀よく並んでいる。これでは何がありがたいのか分からない。
『これであなたもアーサー王!』なんてカラフルで可愛らしい文字のポップが目を引く。……なんかもういろいろと台無しだ。
きゅ?と小首を傾げ、ぐるーりと聖剣売り場全体へ視線を流した女神様は、自分の腰のあたりをじっと見つめる。
毎日振り下ろしている気に入りの聖剣は、ちょっとくたびれてきているけど、まだまだ「ずんばらりん」とお仕事サボる悪い子をすかっと成敗出来る。
「こんなに派手なの要らないもん」
女神様は『聖剣コーナー』を後にした。
閉店時間が近づく店内の雰囲気を感じながら、女神様はゆっくりゆっくりと歩く。
特売品の呼び込みもない、走り回るちびっこの姿もない。喧騒を感じられない店内は、どこかの異次元に迷い込んだような錯覚を覚える。
女神様は非日常感にわくわくしながら、あっちの通路を「ひょい」こっちの通路を「ひょい」と見て回る。「ひょっこりはん」じゃないよ。
わりと広い店内には、『聖剣』?をはじめ『食料品』『日用品』『お酒』『少しの衣類』などが、綺麗に陳列されている。
普段は必要なもののみ見て回り、さっと買い物を済ませて店を出る。時間効率を考えながら行動するのが優秀な主婦であるのだ。
「わぁこれおいしそう」
……ええと。
女神様はレトルトカレーのコーナーで足を止めた。
「これはからい、これもからい。あ、これはいつもウチでたべてるのだ」
どの商品もカラフルなパッケージ、おいしそうな写真やイラストが「買ってよ~」「食べてよ~」と誘いかける。
「うふふ、またね」
女神様は、カレーのコーナーにばいばいと手を振って……。はたと、立ち止まった。
「わたし、なにしに来たんだっけ?」
うろうろと閉店前の店内をくまなく歩きまわる、怪しさ満点の守護女神。
目的はどこかの陳列棚に置いてきたのか、眉根をよせて腕を組んだ女神様だったが。
「なーんてね。う・そ」そう言うと、両手を口に当ててぷっとふきだした。
「くーぽん、くーぽん~くーぽんぽん」
すい~っと店内を進む女神様に、突如全能神の天啓が降りてきた。
「ああっ!」
フラッシュと共に脳裏に浮かぶ、白くてふるふるとしたビジュアル。ちょっとチープだけど、あまいミルク味は幼い頃の憧れだった。
「フルーチェしかない! もうこれよ、これだってば」
ええと、ちょっと唐突過ぎるんじゃありませんか女神様?
我らがスーパーゆるふわお仕事系女神、コードネーム『YURUFUWA-001』女神はフルーチェ(メロン味)その御手にお取りになったのだ。
女神の長い長い苦難の?旅路は、ついに終わりを迎えたのである。
しかし。
「……うそ」
セルフレジの前で、女神様はひきっと固まった。
セルフレジではクーポン券が利用できないのだ。いいやここで、ここまでして銀貨4枚分を諦める訳にはいかない。スーパーゆるふわ系主婦女神(時間限定)は、周囲を見渡して……。
「あのー」
女神様は申し訳なさそうに、セルフレジの見張り番のおじちゃんに店員さんを呼んでもらったのだ。
☆★☆彡
「……お母さん、なんでフルーチェなんて買ってきたのさ?」
「ぴゃ!」
真顔で息子に突っ込まれ、我らがスーパーゆるふわお仕事系女神様は、再びひきっと固まったのでした。
お・し・ま・い
ハラスメントやら暗いテーマを扱うので、
「ちょっと一息、ふわっと笑ってもらえたらいいなぁ~」という想いから生まれた閑話休題回です。
はい。
クーポンを忘れた女神様が、風呂上がりにフルーチェのために出撃する話でした。もうわけわからんww
でも、誰だってあるよね。
レシートの裏とかアプリの画面にある「今日だけ有効」の文字に泣いた夜──。
それを天界スケールでやってのける女神様、やっぱり只者じゃない。
しかも「聖剣コーナー」って何?って思った方、
それは“お仕事サボりマンを成敗するための神具”です(たぶん)。
そして、どこまでも天然で優しくて、
ちょっと抜けてるけど一生懸命な女神様に、
あなたもちょこっとでも癒されたなら、それが何よりのご褒美です。
「お母さん、なんでフルーチェ?」
「ぴゃ!」
――これぞ、家族愛とクーポンの勝利の物語。




