第十三章 裁きの神官コハラ
どこでどう思いついたのだろうか。
G材倉庫リーダーも、黙って老害達のサンドバッグに甘んじていたわけではない。
割と導火線が短くて、時に敵も自分も一緒くたに葬り去る自爆志向が顔を出すのだが……。まぁ我慢している方である。
そう!正当な手法でしかるべき窓口へ「お恐れながら」と訴え出る方法を思いついたのだ。
……神殿。静謐な空気に支配された厳かな場所である。醜悪な魔物であるヒロユキやハツオが近づけば、一瞬で塵芥になってしまうのではないのだろうか。あ、その手があったか……。
G材倉庫リーダーは、自分自身が受けた理不尽な扱いに対しての裁定を求めて神殿へ足を運んだ。
ゆっくりと長い長い回廊を進んでゆく、壁の両脇で淡いランプの光が揺れていた。
談話室へ通されて、しばし待たされたのち、大きな木製の扉が「ギギッ」ときしむ音を立てて開く。
神官コハラがその姿を現した。
バサリと音を立てて大きくローブの裾を翻した神官コハラは、正義の象徴たる神像の前に進み出て深々と一礼した後、G材倉庫リーダーに向き合った。
フードを目深に被っていて、背が高く大柄の体躯を持った神官である。
彼は神官戦士として、今までどれくらいの悪をさばいてきたのだろうか。きっと腹にずしりと響く声をしているのだろう。
おそらく彼は、かつて悪徳請負業者や暴走上司、逆ギレ魔導士たちをその巨体でねじ伏せてきたに違いない。
G材倉庫リーダーは神官コハラが『悪党は許しませんメイス』を振りかざし「悪ぃ子はいねぇが~」と戦場を闊歩する姿を想像して身震いした。
そう。現場の安全を司る役目を担う神官コハラは、息を大きく吸って重々しく口を開いた……が。
「まぁまぁまぁ、そう固くならないで。ほら座って座って、お話を聞かせてもらおうかな」
予想より1オクターブ以上高い、軽妙な口調で椅子を勧めた。
「え? あ? は、はい」
なんとなく肩透かしをくらったような気分でG材倉庫リーダーは椅子に腰かける。
個人の尊厳にかかわるために嘘偽りは許されない、事情聴取が始まった。
「……なるほど」
羽ペンに似たボールペンで、羊皮紙ならぬ手帳にさらさらと事細かに事情を書きつけていた神官コハラは腕を組んで、うーんと唸った。
これまで受けてきた理不尽なことを思い出すだけで、情けないやら腹が立つやらでG材倉庫リーダーは思わず目頭が熱くなった。
「それにしても酷いねぇ。Gさんよく我慢してたね」
Gさんって。神官、あなたも「G」呼びをされるんですね、シクシク。
「怒鳴るは脅すわ、やりたい放題ですねぇ。これもうテンパってるんじゃないかなぁ……リーチだよね?」
ね?と言われても、何それ麻雀? 神官って麻雀するの?
「どれもハラスメント行為に該当するね。まぁGさんの話だけじゃ裁定出来ないから。僕がいちど持ち帰ってウメーダ神官長に話しておくよ、いい?」
「ふぁい、お願いしまふ」
ずび……。と鼻をすすったG材倉庫リーダーは神妙な顔でこくりとうなづいた。
想像してた神官は、もっとこう「貴殿の罪を問う」とか言って、
ドスの効いた声でズズーンって登場するイメージだったんですよ。
でも現れたのは「まぁまぁまぁ」の軽い口調の方でした。
一瞬、肩透かし。
でも――その「まぁまぁ」が誰よりも、とてもとても優しくて、
僕の中でぐしゃぐしゃになってた気持ちを、ふわっとほどいてくれたんです。
剣を振るわず、魔法も使わず。
ただ「聞く」という技で闇を溶かす。
コハラ神官、あのときあなたがいてくれて本当に助かりました。
……で、やっぱり神官って、麻雀するんですか?




