第十一章 病に倒れた女神様
スーパーゆるふわ神業お仕事系女神様。果たして天界におわす神様にそんな肩書があるのか分からないけど。
そして果たして天界から使わされた女神様がお風邪を召されるのかわからないけれど。
……G材倉庫の守護女神様は床に臥せってしまわれたのです。
インフルエンサーではない。ほら、A型とかB型とか、ガタ型とかのインフルエンザだよ。毎年流行るんだ、嫌だよね。
「ああ、頭がくらくらする~」
熱さまシートを額にぺったりと張った女神様は、天井に向かって右手をふるふると伸ばした。
はいはい。すい~っ! いつものように右手をくるりくるり。でも今日はそのくるりくるりにキレがない。
だから何もない空間にぽっかり現れた穴もぼんやりしている。
その穴を覗き込むと、なんとなんとG材倉庫の事務所が見えるではありませんか。おどろきだね。
女神様がじーっと目を凝らしたその瞬間。
超どアップでヒロユキの双子ブラックホール鼻の穴が見えた。
「ぴゃ!」
短い悲鳴をあげた女神様の眉間に、ぎゅぎゅっと緊張が走る。
お熱を測っている最中だったら、体温計が燃えているところだった。ふぅ、あぶないあぶない。
いやなモノみちゃった。当分記憶は消えそうにない、女神様は記憶力が良いのだ。
ぺろりと剥がれた熱さまシートを張り直し&ふるふると首を振った女神様はふたたびおそるおそる穴を覗き込む。
とうに始業時間は過ぎているが、どう見ても仕事中の事務所には見えない。
ゴキゲンなハツオは相変わらず広大なネットの海でサーフィン中。
あぶないサイトを踏み抜いて、変なところに巻き込まれ、パソコンぴーぴーわめき出し、にっちもさっちもいかなくなって、G材倉庫リーダーに助けてもらったことなど忘却の彼方だ。
でっぷりと肥えた『ザ☆相撲取りスタイル』でデスクチェアをギシギシいわせるヒロユキはふがふがと魔女を監視中。
『ナイス・ガイ』ではなく『ロウ・ガイ』ヒロユキの監視対象である魔女は、背中をカタツムリのごとく丸めて机にしがみついて振り返りもしない。
まぁ振り返ったら、気持ち悪い魔物が二匹いるだけだけどね。
「トリ頭」というあまり記憶力がよくない様を揶揄する言葉がある。三歩あるくと忘れてしまうというアレだ。ところが魔女はその上をいく、なんと三歩あるかなくても忘れてしまうのだ。
そして魔女の必殺技?は『リアクション芸人』だ。知ってることでも『はじめてみましたぁ~』的なリアクションで知らぬ存ぜぬを決め込むのだ。
しかもこの魔女、自分のデスクから動かない、石のように動かない、なんならテコでも動かない。
なんかの呪いでもかかっているのか疑うレベルだ。
女神様など風林火山の風のごとく、さっ!ぱっ!ひゅっ!と事務所と倉庫を舞い踊る。
癇に障る老害どもの哄笑、混乱、魔女の阿鼻叫喚。
G材倉庫はいつにもましてビッグバン状態だ(めでたい誕生ではない、決して)
「あ~だめだこりゃ。でも、あの事務所にいなくていいからほっとした」
差し伸べた右手は遠く、G材倉庫に届くわけもなく。いや届いてもどうにもならないけど。
ぱたり……。
掲げた右手が疲れたのか、薬が効いてきたのか。
女神様の意識はすいーっと遠のいていった。
女神様は神様です。
スーパーで、ゆるふわで、仕事ができて、優しくて――でも、風邪もひくんです。
あの「くるりくるり」にキレがなかったとき、
そしてブラックホール鼻の穴が視界を支配したとき、
「もう、何も見ないで寝ててください……女神様……」
僕はそっと、祈るような気持ちになりました。
G材倉庫の混沌は、変わらずビッグバン状態。
さぼり魔ネットサーファー、カタツムリ魔女、ふがふがロウガイと、倉庫は今日も地獄絵図。
それでも女神様は風のように、さっ!ぱっ!と舞い、動き、支えてくれていた。
だから今回くらいはどうか何も考えず、ゆっくり休んでほしいと思うのです。
そして――復活の暁には、また颯爽とお仕事をされるのでしょう。
今度は覗いた先にゆるふわな世界と、ありがとうが映っていますように。




