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5 試練の始まり


朝の買い物を終えた俺とエリスは、試練の地と呼ばれる場所へ向かっていた。


「試練って、どんな内容なんだ?」


「実力を測るための試験ですね。戦闘技術、判断力、それに適応力を試されるそうです」


試練の地は町の外れにある石造りの遺跡だった。巨大な石門が入り口となっており、その上には古びた紋章が刻まれている。門の左右には炎の灯る燭台があり、かすかに燻る煙が漂っていた。


すでに数人の受験者らしき冒険者たちが中へと入っていく。皆、武器を手にし、真剣な表情で準備を整えている。


「ここが試練の地か……思ったより、しっかりした遺跡だな」


「数百年前の遺跡をそのまま利用しているみたいですよ」


エリスがそう言いながら、門の前で立ち止まる。


入口の脇には、厳つい鎧を身に着けた中年の男が立っていた。銀色の髪を短く刈り込み、鋭い目つきで受験者たちを見下ろしている。腕にはギルドの紋章が刻まれた腕章が巻かれていた。


「お前たちも試練を受けるのか?」


低く、よく通る声だった。


「ああ」


「名前を教えろ」


「レオンエルバートだ」


「エリス・フェルナートです」


男は無言で帳簿に名前を記し、ゆっくりと顔を上げる。


「……いいか。試練は個人戦だ。迷宮の奥にある『試練の石』に触れた者が合格となる。ただし、そこに辿り着くまでには幾つかの関門がある。魔物の討伐、仕掛けの解除、そして最終試練だ」


「最終試練?」


俺が尋ねると、男は腕を組みながら説明を続ける。


「最深部には、その受験者に応じた試練が用意されている。試練の石に触れるだけと聞いて簡単に思うかもしれんが、そこまでたどり着くのが難しいんだ」


なるほど、ただのダンジョン攻略ではないってわけか。


「迷宮内での協力は自由だが、最終的に試練の石に触れられるのは一人だけだ。誰かに助けられたまま進んでも、最後は自分の力が試されると思え」


「……了解」


「それから、迷宮内では死亡リスクがある。命が危険に晒された場合、途中でリタイアすることも可能だ。そのために、これを渡しておく」


男は小さな金属製のペンダントを二つ取り出し、俺とエリスに手渡した。


「それは『帰還の紋章』。強く握りしめることで迷宮の外へ転送される。だが、一度使えば試験は失格となる。いいな?」


俺はペンダントを見つめながら頷いた。


「無事に生きて帰ることが最優先だ。決して無茶はするな」


男の鋭い目が俺たちを見据える。そこには試験官としての厳しさだけでなく、受験者の命を案じる眼差しもあった。


「……分かった」


俺とエリスは頷き、門の前に立つ。


試験官が片手を挙げると、巨大な石門が軋むような音を立てながらゆっくりと開いていった。


「では、試練を開始する。生きて帰ってこい」


そう言われ、俺たちは迷宮の中へと足を踏み入れた。


迷宮の入り口

足を踏み入れた瞬間、空気が一変した。


外とは違い、内部は湿り気を帯びた冷たい空気が漂っている。壁には古びた石の模様が彫り込まれ、所々にヒビが入っていた。天井には魔力で灯された青白い光がともり、ぼんやりと迷宮の道を照らしている。


「思ったより明るいな」


「ええ。でも、ここから先は油断できません」


エリスの言葉に頷き、俺は腰に下げた短剣を握る。


周囲にはすでに何人かの受験者が散らばっており、それぞれのペースで進んでいく。


「試練の石は奥か……まずは進んでみるか」


「はい。気をつけて行きましょう」


俺たちは慎重に足を踏み出した。


迷宮の奥へと進むにつれ、足元に砕けた骨や、かすれた血痕が見え始める。


「……誰かやられたか?」


「いえ、これは以前の試験の跡ですね。ここで死ぬ受験者がいたという証拠ですね」


エリスが小声でそう言ったときだった。


カサ……


何かが動く気配。


俺はすぐに短剣を抜き、エリスも杖を構えた。


「来るぞ……!」


すると、闇の中から現れたのは――


小柄なゴブリンの群れだった。


「ゴブリンか……!」


緊張が走る。


目の前に現れたゴブリンたちは、目を血走らせながら、まるで俺たちを待っていたかのようにじりじりと近づいてきた。


「おい、あのゴブリン、どうやら他の冒険者を襲った後みたいだ」


エリスの声に目をやると、彼女が指差す先には、倒れた冒険者の姿があった。傷だらけのその男は、かろうじて息をしているが、意識は完全にもうろうとしている。


「まずはそいつを救出しないと――」


「ダメ!」


エリスがすぐに俺の腕を引いた。


「今、動いたら危険すぎる。あのゴブリンたちがさらにこちらに襲いかかってくるかもしれない」


冷静に判断したエリスが、剣を構える。


「まずは、このゴブリンたちを倒してから、後で助ける方法を考えましょう」


「……分かった」


俺は短剣をしっかりと握りしめ、エリスと一緒に構える。


ゴブリンたちは一度立ち止まり、俺たちをじっと見つめると、今度は一斉に牙をむき出して突進してきた。


「来た!」


俺は反射的に身をかがめ、ゴブリンの一体が右手を伸ばしてくるのをかわす。短剣でその腕を一閃!


ズンッ!


ゴブリンの腕が切り落とされ、血が飛び散る。ゴブリンは悲鳴を上げながら後退したが、その隙にもう一体が襲いかかってきた。


「くっ!」


俺は素早く後ろに飛び退き、ゴブリンの攻撃をかわすと、エリスの方に目を向ける。彼女も一体のゴブリンと激しく戦っている。


「レオン!そのゴブリンを頼んだよ!」


エリスの言葉に頷き、もう一体のゴブリンに集中する。


「お前、俺に挑むつもりか!」


ゴブリンは俺に突進してきたが、今度はその動きが遅く感じた。練習の成果か、俺は素早くその進行方向に合わせて短剣を振り下ろした。


ギュッ!


俺の短剣がゴブリンの肩をかすめ、力を抜かせる。


「今だ!」


ゴブリンがよろけた瞬間、俺はさらに素早く間合いを詰めて短剣を突き刺す!


「ッ!」


ゴブリンは絶叫しながら、その場に倒れこむ。俺はその体を蹴って距離を取ると、倒れたゴブリンの死体から武器を引き抜いた。


そのころ、エリスも残りのゴブリンを倒していた。


「終わったか」


「うん。けど、気を抜かないで」


周囲を警戒しながら、エリスが倒れたゴブリンたちを見渡す。


「さて、先に進むか」


「待って、アレン」


エリスが足を止め、こちらを振り返る。


「今、倒したゴブリンたちは強さにバラつきがあったでしょ?」


「……ああ。なんとなく、強いのと弱いのがいる感じだったな」


「それが試練の特徴かもしれないわ。魔物が一定の強さで出現するわけじゃなく、受験者の実力に応じてどんどん強いものが出てくるみたい」


「つまり、ここからはもっと厳しくなるってことか」


エリスが小さく頷く。


「そう。だから、油断してるとすぐにやられるわよ」


ゴブリンの群れを無事に倒し、静寂が戻ると、周囲の空気が一変した。戦闘の余韻が残る中で、アレンは深く息をつき、周りを見渡す。倒したゴブリンたちの遺骸が散らばる中、何かが暗示するように、地面の一部が不自然に光り輝いていた。


「ゴブリン、倒したね。とりあえず一段落っぽそう?」


エリスが肩で息をしながら言ったが、アレンはその問いに答えず、静かに歩みを進める。彼の目が光り、何かに気づいたのだ。


「いや、まだだ。これからが本番だ」


彼は足元の光を無視することなく、その方向へ向かって進み始めた。


すると、地面がゆっくりと開き、目の前に新たな道が現れる。そこには、薄暗い迷宮のような通路が続いており、壁には不明な古代文字が刻まれていた。辺りに漂うのは、歪な空気だ。


アレンは、これまでの戦闘で発揮したような力任せの方法では通用しないことをすぐに感じ取った。この先で彼が頼りにするべきは、筋肉ではなく、頭脳と洞察力だった。


「準備はいいか、エリス?」


エリスは少し驚いたようにロイドを見たが、すぐに気を取り直して頷く。


「うん、分かってる。いこう」


アレンは振り返り、エリスににっこりと笑いかけた。


「さあ、行こうか。ここからが試験の開始のようだ」


二人は、迷宮の中へと足を踏み入れた。試練は今、始まったばかりだった。

読んでいただきありがとうございました!!!

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