4 試練に向けて
朝日が昇りきる前の町は、まだ静かな空気に包まれていた。
通りを行き交う人々の数はまばらで、店の看板を掲げる音だけが響く。夜の名残を感じさせる冷たい風が、石畳の隙間を抜けていった。
「さて、準備をしないとね」
隣を歩くエリスが、朝日に照らされながら微笑む。彼女の金色の髪が光を受けてきらめき、まるで神聖な後光をまとっているようだった。
「まずは武器を選びに行きましょうか?」
「いや、その前に腹ごしらえだろ」
「……食べながら考えるつもり?」
「脳を働かせるには栄養が必要なんだよ」
エリスは呆れたようにため息をついたが、どこか楽しそうだった。
そんな他愛ないやり取りを交わしながら、俺たちは町の中心へ向かう。
広場の喧騒
町の広場に近づくにつれて、どこからともなく賑やかな声が聞こえてきた。
「何かやってるのか?」
「ええ、『鍛冶屋たちの競売市』みたいですね。ここでは職人たちが自慢の品を売りに出すんです」
なるほど。普段なら手に入らない掘り出し物があるかもしれないってわけか。
広場に足を踏み入れると、すでに大勢の人々が集まっていた。
中央には即席の競り台が置かれ、その周りには美しく磨かれた剣、頑丈そうな盾、魔法の刻印が施された防具などが並んでいる。職人たちは自らの作品を誇らしげに語り、客たちは熱心に値段交渉をしていた。
「お兄さん、お姉さん!」
突然、快活な声が響き、俺たちは振り向いた。
そこには、一人の商人風の男が立っていた。薄茶色のチュニックを身にまとい、目を輝かせながら、なにやら怪しげな包みを手にしている。
「こちら!とっておきの一本、いかがです? 見た目はただの短剣ですが、使い手を選ぶ逸品です!」
「ほう……」
俺は短剣を手に取った。一見普通の鉄製の刃だが、よく見ると妙な文様が刻まれている。
「どんな特徴があるんだ?」
「それはですねぇ……実は使ってみるまでわからないのです!」
「……は?」
「でもね、お兄さんのような目利きの方なら、この短剣の価値、わかりますよね?」
「いや、わかんねえよ」
「お買い得ですよ! 今なら三割引き!」
「今いくらなんだよ」
「えーっと、もともと十万ルクですが、三割引きで七万ルク!」
エリスがくすっと笑いながら、俺の袖を引っ張る。
「ちゃんとしたお店で選んだ方がいいと思いますよ」
「それもそうだな」
適当に流してその場を離れ、信用できる武器屋へと向かう。
武器とポーション
武器屋でしっかりとした短剣を選び、試し斬りまでさせてもらった。切れ味は申し分ない。
次に向かったのは回復アイテムの店だった。
「いらっしゃいませ! ……って、あんたらポーションを買いに来たのかい?」
店番をしていたのは、妙にハイテンションな青年だった。
「いや、ポーション屋で何を買うって、そりゃポーションだろ」
「おお、そんな時代遅れの物を買おうっていうのかい?」
「ポーションが時代遅れ?」
エリスが不思議そうに首を傾げる。
「時代は進化してるんだぜ! こいつを見てくれ!」
そう言って店主が差し出したのは、奇妙な青紫色の液体が入った小瓶だった。
「これはな、万能回復薬! どんな傷も、一瞬で治る!」
「へえ……すごいじゃん」
「ただし!」
「ただし?」
「副作用でしばらくハイテンションになり続ける!」
エリスが小さくため息をつきながら、俺に耳打ちする。
「普通のポーションにしておきましょう」
「そうするか……」
結局、無難な回復薬を購入し、外に出る。
買い物の終わりと次なる試練
買い物を終えた頃には、すっかり昼近くになっていた。
「いやあ……なんか妙に疲れたな」
「買い物って、こんなに体力を使うものだったかしら……?」
エリスが首を傾げる。
確かに、ただの買い物のはずなのに、やたらと濃密な時間だった気がする。
「ま、準備は整ったし、あとは試練に挑むだけだな」
「そうですね。気を引き締めていきましょう」
エリスが真剣な眼差しで頷く。
試練の地――そこは、ただのダンジョンではない。
数々の戦士が試され、その命運が決まる場所。
ここで実力を証明できなければ、俺たちの旅は始まる前に終わることになる。
「さて、行くか」
「ええ!」
こうして、俺たちは試練の地へと向かうことになった。
読んでいただきありがとうございました!!!
続きが読みたいと思った方は下の☆の評価とブクマお願いします!!(切実な願い)