表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Caring Beauty  作者: りん
4/36

『第一章:あなたのこころ。』④

「俺もさ、関係ないやつに『テレビとかならわかるけど、舞台なんてその時限りで何も残んないのに』って言われたら反論もしたくなるもんな。いや黙ってるけどさ。そういうやつには何言っても無駄だし」

「……残んないからいい、って考えもありますよね? その場だけの『ライブ感』ってのか」

「なんだよ、お前結構わかってんだな。『一期一会』ってやつな」

 崇彦の感心したような声。

 そこまで深い考えで口にしたわけではないのだが、祥真はそれこそ黙っておいた。

「実際さぁ、見た目だけなら俺よりお前のが上じゃね? 原田って結構いい顔してんじゃん。よく見るとわりと整ってるし、愛嬌あっていいよな。そういうのって持って生まれたもんだから」

「え!? あ、あの俺、顔褒められたのなんて初めてです! いや、褒め言葉じゃないかもしれませんけど。いっつもせいぜい『可愛い』で」

「ああ、まあお前可愛いよな。造形的な可愛さよりも、なんてーか仔犬っぽい可愛さ」

 バカにしてんじゃねえよ? とわざわざ断って具体的に評してくれる先輩。懐いてくるさまが可愛い、という意味だろうか。

「あと、結構声渋くていいよ。声こそ天性の部分大きいからさ」

「あ、はい。意外と低いってよく言われます。でも俺の声籠ってるっていうか、ちょっと何言ってるかわかりにくいんですよね」

「そこは訓練。発声頑張れ。……舞台立つならな」

 不意に耳に蘇る、祥真ほど低くはないが響いて聴きやすい郁海の声。

「祠堂さんの書くもんは基本難解でさぁ。役とかストーリーの流れとか、解釈もなかなか大変なんだよ。必死で考えて役作りして行ったのを、一言でバッサリ『そうじゃない。ちゃんと読んだのか?』って切られたりもするしな」

 祥真はまだ「役」を与えられたことはなかった。

 もちろん『舞台を作る』一員として必ず脚本には目を通す。時には、「その場にいるから」程度の理由で脚本(ホン)読みの相手に指名されることもあった。

 希望もしていないし自分でさえ役者に向いているとは感じないため、このまま舞台上には立たずに終わるのではとさえ考えている。

 だから崇彦の言う「役作り」については、真の意味では理解できないのだ。

「でもあの人の演出どおりに演じたらやっぱすごいいいものができるんだよ。普段はあんなグダグダな人なのに。『才能』ってのはこーいうのなんだな、って祠堂さん見るたび実感する」

 このサークルの誰もが、リュウを語るときどこか遠い目の同じような表情を浮かべる。素質だけでは語れない有り余るものを、常日頃から見せつけられているせいか。

「……けどさ、俺は副島さんのコメディも好きなんだ。別にわかりやすくはないんだけどな、あの人のも。あの二人に共通すんのは『心理描写の細かい人間ドラマ』かな」

 彼が郁海を認めているのだ、というのは祥真にも伝わった。

 郁海の存在を、実力を。

「今年の新人公演の脚本、副島さんでしたよね。演出も一人でやったの二回目だって言われてました」

 新人公演は毎年夏休み中の八月に行われ、演者も基本的には一年生を中心に構成される。祥真も裏方で参加していた。

 新人公演にリュウの脚本を使わないのは、いくら経験者が多いとはいえ一年生には荷が重すぎるからだろうか。脇は主に二年生が固めるとしても、公演の趣旨から主演は必ず一年生から選出されるからだ。

 同時に、彼以外にも脚本を書き演出させる機会を与える意味もあるのだろう。

「去年もだけど、二年前俺が入った年の新人公演もそうだったよ。そんときの演出は、もう卒業した尾崎(おざき)さんと共同だったけど。俺が初めて主演に抜擢された演目だから、きっと一生忘れない。──なんせあれだけはDVD買ったからな!」

 小さい頃から数え切れないくらい舞台には立って来た。だから板の上(舞台)で緊張した覚えなど一度もない、と平然と嘯く崇彦。

 その彼でさえ、初めての主演は特別らしい。

 サークルの公演は、商業演劇とは違ってせいぜい数回ずつの上演ということもあり、毎回映像記録を残しているのだ。

 内部の希望者にはほぼ実費で分けてくれている。

 もちろん外向きにはそれなりの値で販売していたが、意外にもファンも付いていてそこそこ売れているらしいと聞かされたことがあった。

「だから俺は、『あの程度の顔で』ってのはもう褒め言葉だと受け止められる領域まで来たわけよ。『そう、顔じゃねーんだよ! 俺には顔だけじゃない力があるんだ!』ってな」

「あの俺、佐治さんがどんな役でもこなせるのも当然なんだな、って気がしてきました。あ、なんかえらそうですみません!」

 謝る祥真に、先輩は笑みを浮かべて首を左右に振った。

「実際テレビドラマとか観ててもさ、まあ所謂イケメン集めたアイドルドラマはまた別枠として、美形ばっかのドラマなんて嘘くさくねぇか? 『見た目はごく普通、あるいはそれ以下』のベテランバイプレーヤーがいるから成り立つ作品なんて山程あるだろ。悪役に限らず」

「……俺は演劇のことなんてまだよくわかってないんですけど。だから何も考えずにドラマとか観て、佐治さんが言われたみたいなことなんとなく感じてます。いちいち意識しながら観ませんけどね」

 本来エンタメなんて小難しいもんじゃないからお前が正しい、と崇彦がさらりと口にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ