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隻眼のセリカ  作者: 高山
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プロローグ


━━多分、この世界に神なんていないんだろう。


これで何度目になるか分からない結論を出し、瓦礫(がれき)の山で身を隠しつつ静かに目を閉じ呼吸を整える。


もし神なんてものがいるのならば、きっと世界は平和で争いなんて起こらないだろうし、私がこんな具合に銃を握って戦場を駆け回ることもなかったのかもしれない。


少し遠くから足音が近付いてくる。数にして三人程度だろうか……。その足音からは焦りと怒りが感じられる。


手持ちの弾数は残り四発。いざと言う時のためにも一発も無駄にはできない。


「外したら待つのは死のみ、か……」


一人ボソッと呟き、それもまたいつも通りの事か、と薄く笑い、握っている拳銃に残りの弾を込めていく。


幾度(いくど)となく越えてきた死線。きっとこれからも越え続けなければならないのだろう。それは私が軍に属しているからなのか、それとも戦場(ここ)が私の居場所だからなのか……。


「……そろそろだな」


距離にして約20メートルと言ったところだろうか。左右に一人ずつ、その少し後ろに更にもう一人。仕留め損ねた兵士はこいつらで最後だ。


「クソッ!どこに行きやがった!」


「探せ!まだ遠くには行っていないはずだ!」


殺気立っている左右の兵士は最早死んだも同然だ。彼等は周りが見えていない。血眼(ちまなこ)になって探しているのがあだになっている。


問題なのは彼等の少し後ろに控えている、警戒心を剥き出しにしながら辺りを見回している奴だ。指揮官クラスではないにせよ、中々腕の立つ人物と見て間違いないだろう。


注意しなければならないのは奴だけだ。三対一という圧倒的不利な状況ではあるが、泣き言は言っていられない。こいつらを仕留めれば任務は達成だ。


「━━っ」


私は小さく息を吐き、拳銃のグリップを握り直した。よし、大丈夫だ。問題ない。


私はまず最初に、左右の殺気立っている兵士の片付けから開始した。視界の狭まっている彼等は隙だらけだ。瓦礫(がれき)の山から身を素早く出し、ゆっくりと彼等の眉間(みけん)に狙いを定め、その命を刈り取る。彼等の頭からほとばしる鮮血が月明かりに照らされ、地面を赤く染めていく。


「次は━━」


……私の見立てはやはり間違いではなかった。残りの一人は私の動きに反応していて、既にライフル銃を構えこちらに狙いを定めている。仲間の死をものともしていない。


━━コイツは、強い。


その刹那、炸裂する閃光と激しい銃声。間一髪のところで瓦礫に身を隠した私は、次の一手を考えていた。


残りの弾数は二発。私の居場所は既に割れているため奇襲は出来ない。しかし真正面からの撃ち合いでは私に勝算はないだろう。私の拳銃が奴の眉間を撃ち抜く前にライフル銃で蜂の巣にされてしまう。


私は使えそうなものが無いかと辺りを見渡した。だが生憎、ここは屋外。目に付くものと言えば瓦礫(がれき)硝子(がらす)の破片くらいで他に使えそうなものは何も無い。


奴が徐々に距離を詰めてきている。死の足音は一歩、また一歩と静かに、だが確実にその歩みを進めている。


「万事休す、か……」


流石の私もここまでなのかもしれない。せめて手榴弾(しゅりゅうだん)の一つでも持ってきていれば戦況は大きく変わったと言うのに。


……うん……?手榴弾(しゅりゅうだん)……?


私は震える左目から死の恐怖を捨て去り、チラッと先程仕留めた兵士の腰についている革製のポーチを見た。あの形状、そしてあの位置にあるということは……。


そこからの判断は早かった。深く息を吸い込み、瓦礫(がれき)の山から一瞬身を出した私はそのポーチに狙いを定め引き金を引いた。


ほんの少しのタイムラグの後、ポーチの中から爆発音と共に大量の破片が飛び散った。


「━━っ!!」


爆発と破片をもろに受けた奴は、血を撒き散らしながら私のすぐ近くまで吹き飛ばされてきた。


「ガハッ……」


「……どうやら私の勝ちみたいね。その傷じゃもう長くないでしょう?」


「クソッタレ……噂通りの強さだ……せ、戦場を駆け回る……赤い瞳の、少女……」


「……」


「たっ、助けてくれ……」


「ふっ……命乞いだなんて、笑わせてくれるわ」


「俺には、家族が……」


「……お前達が殺してきた罪のない人達にだって、家族はいたんだ」


私は奴に近付き、拳銃を眉間(みけん)に突き付けた。


「や、やめっ……」


「せめてもの情けよ。すぐ楽にしてあげるわ……」


乾いた銃声が夜の闇に紛れながらも確かに響いた。


命をまた一つ、奪い取った感覚が手に伝わった。何度やってもこの感覚は慣れない。ある程度距離が離れていればまだマシではあるが、ゼロ距離で眉間(みけん)を撃ち抜いたとなると、やはりどうしても良い気分にはならない。


「ふう……」


まだゆらゆらと硝煙(しょうえん)を出している拳銃を腰のホルダーに納め、軽く震えている右手を左手でそっと押さえる。小さく息を吐き出し、熱くなっている頭を落ち着かせる。


ああ、どうやら今回も、私は生き残ったらしい。


『━━こちら作戦本部より隻眼(モノクル)へ。現在の状況を伝えろ』


独特のノイズ音の後、制服の内ポケットに入っている小型の無線機から本部より入電があった。私は無線機を手に取り、マイクに向かって報告を行った。


「報告、こちら隻眼(モノクル)。目標の制圧、及び残党兵の無力化に成功。任務完了です」


『こちら作戦本部。了解した。合流地点(ランデブーポイント)で待機しろ。回収班がそちらに向かう。ご苦労であった』


「了解しました」


無線のやり取りを終えた私は、まだ固まりきってない奴の死体からドッグタグを探し出し、表に刻まれている名前と裏に刻まれている獅子の紋章を見た。


━━キャメル・ボロフスキー。これが奴の名前……。そして裏面に刻まれている獅子の紋章━━私達の敵であり、復讐しなくてはならない存在である東の国(イーストランド)の武装勢力『セット』の一員である証……。


私はドッグタグの一枚を回収し、残りのもう一つはキャメルの手の中に納めた。


「悪く思うな……これが戦争だ」


今日もまた、東の国(イーストランド)の軍事拠点を一つ壊滅させた。これで私が壊滅させた軍事拠点は累計で十個を超えた。それなのに未だに続いている西(ウエスト)(イースト)の戦争。私はあと何回これを繰り返せば良いのだろうか。何回、人を殺せば良いのだろうか。


静かになった(うす)ら肌寒い戦場で一人満天の星を見上げ、ぼんやりと考える。ぽっかりと浮かんでいる三日月は何も答えないまま、ハーフアップにしている私の白髪をキラキラと照らしながらいつものように細く(わら)っていた。


「……前線基地(ベース)に戻ろう」


築いてきた死体の山を背に、司令から指示された合流地点(ランデブーポイント)に向かってゆっくりと歩みを進める。肩の辺りには冷たい重さが強くのしかかっていて、名状しがたい不快感が心の中で黒く渦巻いている。


私はまた、背負わなければならないのか。だがそれももう仕方のないことだ。どうせ私には戦う以外の選択肢は残されていないのだから。今日も、明日も、そしてその先も……。


初めまして、高山と申します。


初投稿故、上手く書けているか分かりかねますが、楽しんで頂ければ幸いです。


月に1〜2話くらいのペースで更新出来たら良いなって思っています。次回の投稿日は未定です。


コメント等頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。


それでは。

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