生産性を向上しよう!(その2)
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
基本的な政府の対応策は第3章と同じだ。政府はインフレ率を年率5%にするために、企業に対して販売価格と賃金を毎年5%上げるように要請し、達成していない企業には法人税の追加税率の適用と青色申告の取り消しをする税制改正を可決した。
これによって、日本中全ての企業が物価と賃金を10年間5%引き上げることとなった。
物価高についての報道は予想していたよりも少なかった。垓のシミュレーション結果を見る限り、内閣支持率も大きく変わらずインフレ率5%を誘導できていた。
垓のダイジェスト映像は空港を映し出した。
レポーターが旅行者にインタビューしている。
「どちらに旅行ですか?」
「ハワイです!」と元気な女性がレポーターの質問に答えた。
「海外旅行が安くなった、という実感はありますか?」
「もちろんです。旅行代金が下がったわけじゃないけど、給料が増えたから海外旅行に行きやすくなったかなー」
女性は嬉しそうに答えている。この女性はインフレの恩恵を受けているようだ。
垓のダイジェスト映像は他にも海外旅行を楽しんでいる国民の様子を映し出していた。
インフレで国内物価は上がっているものの、外に気をそらすことで国民をうまく誘導できているようだ。
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「いい感じですね!」と僕は思わず言った。
「そうね」と新居室長は機嫌良さそうに映像を見ている。
「収入と支出がかさ上げされただけで、実際には何も変わらないんだけどなー」と茜。
インフレは日本の名目GDPの増加に貢献した。
物件が上がって給与も上がる。同じ比率で上げているから実質賃金は改善しない。
だから、国民の生活が改善するわけではない。誰も生活が楽になったとは思っていないだろう。
でも、これで良いのだ。国民は以前と同じ生活ができているから特に不満も出ていない。
名目物価指数と名目賃金が上がるため、他国と比較すると日本の地位は相対的に上昇する。
僕は年率5%のインフレ政策は成功だと確信した。
こうして、僕たちはインフレによる日本の国際競争力の強化を政府に提案することにした。
***
政権幹部に説明に行った新居室長が国家戦略特別室に戻ってきた。
「どうでした?」と僕は新居室長に尋ねる。
「インフレは支持率が下がるからダメだって」
「あっ、前の政策提案を覚えてたんですか?」
「そうみたいね。忘れているかと思ったんだけど……支持率に関係することは覚えているみたい」
僕たちの提案は物件上昇に合わせて賃金も上げるものだ。
しかし、支持率が過去最低を更新している中で「これ以上支持率が下がったらどうるすんだ?」と政府関係者は気にしているらしい。
超高齢化社会の日本では高齢者の支持率は政権運営に直結する。
政府としては高齢者を無視するわけにいかないのだが……問題解決として有効なのだから、客観的に判断してもらいたいものだ。
「ボケてなかったかー」と茜は呆れている。
さて、次の案を考えよう。




