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こちら国家戦略特別室  作者: kkkkk
第7章 事業承継を促進しろ!
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えっ、閉店するの?(その1)

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。


 僕の名前は志賀しが 隆太郎。28歳独身だ。日本の国家戦略特別室で課長補佐をしている。僕の仕事は国で発生した問題を解決すること。

 国家戦略特別室のメンバーは上司の新居にい幸子室長と同僚のあかね幸子、そして僕を合わせて3人。今日も厄介事が国家戦略特別室にやってくる。


 僕が国家戦略特別室のドアを開けようとしたら、茜の大声が聞こえてきた。


「えぇぇぇ? 駅前の焼き鳥屋さん、閉店するの?」


 駅前の焼き鳥屋さん、僕も何度か行ったことがある。たしか、人の良い店主が経営していた小さなお店だ。チェーン店にはない素朴な味付け、常連さんと楽しそうに話しながら串を焼く姿が目に浮かんだ。都内に何店舗かあったはずだ。


 経営が行き詰ったのだろうか?

 それとも、店主が身体を壊したのだろうか? 

 僕は理由が気になってしかたがない。


 僕はドアを開けるなり「それ本当?」と茜に真意を確認した。


「あー、志賀。おはよう。本当らしいよ。新居室長情報だけど」と茜は言った。


「あ、志賀くん。来月で閉店するらしいから、今夜行ってみる?」と新居室長のお誘いがあった。


 閉店前に一度行ってみたい気はするけど、こういうときは誘いにのった方がいいのだろうか? 二人きりで行くのは避けた方がいいかもしれないな。


「そうですね。いいですね」と僕は答えた。


「私も! 私も行く!」と茜ものってきた。


「えー? あんたが来るとせっかくのデートが……」

「いいじゃん。ねえ、志賀?」


 急に話を振られた僕は「僕は構わないけど」と曖昧な返事をした。

 二人きりで焼き鳥屋に行くよりはいいだろう……


 ***


 その日の夜、僕たちは焼き鳥屋に行った。

 飲み物の注文をした後、茜が「おじちゃん、この店来月末までって本当?」と聞いた。


「本当だよ。贔屓にしてもらったのに……ごめんね」

「結構流行ってるから、閉めなくてもいいと思うんだけど。理由はなんなの?」と茜はずかずかと質問していく。人には聞かれたくないこともあるだろうに。

 ただ、僕も閉店理由に興味があるので聞き耳を立てる。


「おかげさまで売上はそんなに悪くないんだけど、俺も年だしそろそろ引退しようと思ってさ」

「後継ぎはいないの?」

「後継ぎがね……いなくて。だから閉めるんだ」

「これだけ流行ってたら、誰か、継ぎたいって人いそうだけどな」

「こんな小さな焼き鳥屋、やりたいってやついないよー」


 最近、跡継ぎがいなくて廃業する会社が多いと聞く。事業承継は身近な焼き鳥屋にも関係がある問題なのだ。


「誰かに『この店やらない?』って聞いてみたの?」と茜は店主に質問する。

 完全に空気を読まない発言だが、僕も興味があるところだ。僕は二人の会話を盗み聞きする。


「息子にだけは」

「何て言ってた?」

「息子は継がないって……さ」

「息子以外は? 聞いてないの?」

「聞いてないね。そもそも、誰に聞けばいいか分からないし」


 店主の話では、焼き鳥屋は儲かっているようだ。だけど、後継ぎがいないから店を閉めることを決断した。このタイプの廃業は多い。


 最近はM&Aによる事業承継や民間ファンドによる事業承継も盛んになっている。全ての会社の引受先が見つかるわけではないが、優良事業を引き継げることから事業承継のニーズは高い。


 中小企業庁の試算によれば、2025年までに中小企業の経営トップが70歳を超える企業の数は245万社ある。そのうち127万社が後継者未定といわれている。

 日本の事業者数(法人・個人合わせて)は約800万件だから、企業の高齢化、後継者不足は深刻な状況といえる。


 日本では業績が悪くなくても後継者不在による倒産が増えている。帝国データバンクによれば毎年400件は後継者不在による倒産が発生しているそうだ。


 ――これが日本の現状なんだよな……


 僕は近場で経営者不在による倒産を見た気がした。


 **


 オーダーが溜まっていることを心配したスタッフが「店長!」と声を掛けた。店主は茜に捕まって話し込んでしまったようだ。店主は茜に断ってから焼き鳥を焼くために厨房へと戻っていった。

 茜はテーブルに盛られた焼き鳥を食べながら僕たちに提案した。


「ねえ、このお店の後継者を探さない?」


 茜の気持ちは分かるが、僕たちは専門家ではない。素人が変に関わってもいいことはないだろう。


「素人が後継者を探すって言っても、難しいと思うよ」

「別に私たちが直接探すわけじゃない。例えば、中小企業基盤整備機構に「事業承継・引継ぎ支援センター」ってあるでしょ。そこに相談するとか……」

「ああ、そういうことね。それだったらいいんじゃないかな」


 僕は茜が自力で探そうとしてはいないことを聞いて少し安心した。


<その2に続く>


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