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こちら国家戦略特別室  作者: kkkkk
第6章 日本政府の新規事業を考えろ
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公営カジノを開業しよう(その2)

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。


 国会において、担当大臣からIRを本格的に開始する前に試験的にカジノを運営してみるという説明がなされた。カジノはギャンブル依存症を増やすなどの反対意見も出たものの、羽田空港と成田国際空港に公営カジノを開業する法案が賛成多数により国会で可決した。


 垓のダイジェスト映像は空港内のカジノの出入口を映し出した。


 カジノの入り口には競馬新聞を読んでいる中年男性が列を作っている。その様子を調査していたレポーターは、カジノの出入口に立っている中年男性の一人に話しかけた。


「どうして、カジノの出入口に立っているのですか?」とレポーターは中年男性に質問した。


 中年男性は読んでいた競馬新聞からレポーターに視線を移す。カメラマンが撮影していることに驚いているようだ。


「これ、撮影?」

「ええ、そうです。最近、カジノの出入口に列ができていると情報があったので取材にきたんです」


 中年男性は状況を理解したようで、「いやー、テレビに出るのは恥ずかしいなー」と照れ笑いをしている。


「それで、どうしてカジノの出入口に立っているのですか?」

「あぁ、パスポートを借りる予定の観光客を待ってるんだ」

「パスポートを借りる? どうしてですか?」


 中年男性は小声で「ここだけの話だよ」とレポーターに言った。


「あんた、カジノに行ったことある?」

「空港内にこの前開業したカジノですよね?」

「そう、それ」

「いえ、まだですけど」

「じゃあ、知らないかもだけど……日本人はカジノに入場するのに入場料が10,000円いるんだよ。外国人だったら無料なんだけどさー」

「あー、観光客からパスポートを借りて、外国人のフリをしてカジノに入場するんですね!」

「しー、声が大きいって! 警察官に聞かれたら、どうするんだよ!」

「すいません……」


 日本政府はシンガポールのカジノを参考に、日本人に対してカジノの入場料を設定したようだ。


※シンガポールでは非居住者がカジノに入場する場合は無料ですが、居住者がカジノに入場する場合は入場毎に150シンガポールドル(約15,000円)が掛かります。


 海外のカジノには自国民入場禁止や有料のものがある。カジノに入りたい自国民から「パスポート貸してくれないか?」と聞かれた経験がある人もいるだろう。


 レポーターは外国人からパスポートを借りる行為に驚いている。そもそも、誰か分からない人にパスポートを貸してくれるのか、不思議に思っているようだ。


「観光客はパスポートを貸してくれるんですか?」

「ああ、借りれるよ」

「知らない人にパスポートを貸すなんて、信じられないんですけど」

「あんた、このアプリ知ってるか?」


 中年男性はそういうとスマートフォンのアプリをレポーターに見せた。中年男性は説明を続ける。


「このアプリはパスポートを借りたい日本人と、小遣い稼ぎしたい外国人をマッチングしてるんだ」

「へー、マッチングアプリなんですね」

「このアプリで相手を探すんだ。1時間3,000円払えばパスポートを借りられる」

「入場料が10,000円ですから、3時間までならパスポートを借りた方が得しますね」

「そうだろ。外国人の中には日本に入国した後、パスポートを貸して儲けている奴もいる。1日10時間貸せば3万円だからな。旅費なんてすぐに回収できる」

「へー、そういうことですか」

「まぁ、持ちつ持たれつだな」


 ここで中年男性へのインタビューは終了した。


「こうして、ギャンブル中毒者はカジノに入場しているようです。現場からは以上です!」とレポーターは締めくくった。


 ***


 垓のダイジェスト映像は別の場面に切り替わった。


 国会で担当大臣が野党議員から質問されている。今週発売された週刊誌の記事に関することらしい。


「大臣、空港に設置したカジノから3兆円の利益が出たことは素晴らしいことだと思います。でも、収益の大半がマネーロンダリングによる手数料収入だと、この週刊誌に書かれています」

「週刊誌をまだ見ていないので、詳細は分かりません」

「この週刊誌によればマネーロンダリングの内容はこうです」


 野党議員は手許に用意していたフリップ(図表38-3)を大臣に見せた。


【図表38-3:カジノの仕組み】

挿絵(By みてみん)

 


「犯罪組織が得た犯罪資金をカジノに1億円持ち込みます。その後、カジノで儲けた金として犯罪組織は9,000万円受取ります。カジノの手数料は1,000万円ですね。そうすると、犯罪資金がカジノで儲けた金になりますから、資金洗浄できるわけです」

「だから、知りませんって」


 とぼける大臣に対して、野党議員は質問を続ける。


「さらに、政治家が貰った裏金を資金洗浄するためにカジノが使われている、と週刊誌には書かれています。大臣はカジノで資金洗浄したことはありますか?」

「知りません」

「あるかないか、で答えて下さい。「知りません」と答えるとやっていると思われますよ」

「記憶にありません」


「カジノの事業報告書によれば利益は3兆円です。ということは、単純計算すると公営カジノが30兆円のマネーロンダリングに関わったということになりますね。その辺りはどうお考えでしょうか?」

「どう……と言われても。ただの憶測ですよね。週刊誌の記事を国会議員が鵜呑みにするのもどうかと思いますよ」


「大臣、カジノの従業員の証言もありますから、言い訳はやめて下さい。財政赤字を減らそうと必死なのは分かりますけど、マネーロンダリングは犯罪ですよ。分かっているんですか?」

「だから、カジノの運営については……現在調査中の為お答えできません!」


 垓のダイジェスト映像はそこで終わっていた。


 ***


 映像を見終わった僕たち。


「30兆円もマネロンするって……ウケるなー!」と茜は爆笑している。


「これ、どうしましょう?」と僕は新居室長に確認する。


「3兆円の財源確保は大きいけど……マネロンだしね。やめときましょう」

「そうですね……」


 僕たちは公営カジノ事業をペンディングにすることにした。


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