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こちら国家戦略特別室  作者: kkkkk
第5章 ゼロゼロ融資の崩壊を防げ!
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お役所仕事大作戦!(その1)

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。


 ゼロゼロ融資の返済期間延長に失敗した僕は少し落ち込んでいる。


 ゼロゼロ融資の返済開始時期を延ばせば、コロナ禍から立ち直っていない企業を救うことができると僕は思っていた。だが、残念ながらそれを利用して利益を得ようとするものがいる。このケースでは銀行だ。


 政府がばら撒く公的資金は、どこかの誰かが必ず搾取するようにできている。つまり、何かの制度が開始されれば、公的資金を狙ったハイエナたちが一斉に動き出すのだ。太陽光発電のFIT(固定価格買取制度)が開始されたときもそうだったし、今回のゼロゼロ融資もそうだ。

 本来は困窮する企業を救済するための公的資金なのに、関係のないどこかの誰かが搾取していく。


 似たような性質のものとして寄附金がある。

 僕たちが災害地の復興のために寄附しても、間にいくつも経由してお金が送られるので、最終的に現地に送られるお金は10%くらいになる。間でどこかの誰かが搾取しているからだ。

 公的資金も同じで、結局は誰かが搾取するための手段でしかない。


――お金が絡むとモラル・ハザードが起きるんだよな……


 僕がため息をついていたら、茜が「上に立つ人間は、他人のことを考えてはいけない!」と言い出した。


「いやー、国民のためになる政策を考えないといけないでしょ」と僕は反論する。


「そんな青臭いこと言ってるから、ゼロゼロ融資が回収できなくなるんだよ」

「そうだけどさー」


 僕には茜に言い返すだけの自信と体力がない。茜は自論を展開する。


「苦しんでいる人を救いたい。志賀はそう思ってるんだろ?」

「そうだよ。悪いか?」


「それは自己満足以外の何物でもない!」

 茜は半笑いで僕に言った。


「じゃあ、何もするなってこと?」

「ワトソン君、正解だ。そういうことだ!」

「誰がワトソン君だ……お前の助手じゃねーよ」

「まぁ、それは置いといて……私が思うに、こういうことだと思うんだ」


 そういうと茜はホワイトボードに図を書き始めた。


【図表35:ゼロゼロ融資の返済期間による資金量】

挿絵(By みてみん)

 


「これ見てよ」と茜が言うから、「見てるよ」と僕は不機嫌そうに返答する。


「ゼロゼロ融資は不況から好景気にかわっていく段階で、資金的に厳しい企業を支えるためのものだよね」

「そうだね」

「当初の融資期間は、つまり、ゼロゼロ融資の返済開始は不況を乗り切った後に設定されている。そして、その頃には企業の資金繰りは回復しているはずだから、問題なく回収できるはず。それが、ゼロゼロ融資を開始した時に想定したものだ」


 茜は図の返済開始<当初>と記載された時点を指した。


「制度を開始した時には、ゼロゼロ融資の返済を開始しても【本来の資金量】にある資金量は確保できると政府は想定していた。手許資金の水準としては、コロナ禍前の水準をイメージしていたと思う」

「まあね」

「でもね、ゼロゼロ融資を借りたのは資金繰りが改善するような会社じゃなかった。ゾンビ企業がゼロゼロ融資を借りて、返せなくなっただけ。だから、ゼロゼロ融資の返済開始時期を後倒ししても企業の業績は改善しない」


 僕は茜に何も言い返せない。


「銀行は企業の業績が改善しないことを把握していた。融資先のモニタリングは定期的にしているからね」

「まぁね」

「業績が悪化した企業への貸付は不良債権化する。だから、銀行はゼロゼロ融資の返済が開始されるまでの2年間で、自行の貸付を回収する方針に変更した」

「それで、企業の資金は赤字で書いた【銀行借入返済による資金量】になると言いたいわけだ」

「そう」

「でもさ、銀行は貸出先がなくて困ってると聞くよ。そんなに直ぐに回収しなくもいいんじゃないの?」

「銀行は借入が必要ない優良企業にだけ借りてほしいんだよ。いくら金余りでも不良債権は回収するよ」


 僕は茜の言いたいことは理解している。銀行は企業の業績が改善しないことを知っていて、ゼロゼロ融資の返済資金まで自行の貸付金回収に回させたと言いたいのだ。


「銀行が2年間に企業の余剰資金を全て借入返済に回させるのは分かった。それで、具体的にどうするつもりなの?」と僕は茜に確認する。


 茜は腰に手を当てて言った。


「やられる前に、やるのよ!」


 茜の言いたいことは想像がつく。銀行が回収する前に回収してしまえ、ということだろう。

 僕は念のために茜に確認する。


「銀行よりも先に回収する、ってことかな?」

「そう。会社の手許資金は有限なんだから、銀行が全て回収する前にゼロゼロ融資を回収してしまえばいい」

「そうしたら、会社の資金繰りが破綻しない?」

「するかもね」


 茜は資金繰りに困窮する企業を救済する気がなさそうだ。


「それだと、ダメじゃない?」

「そんなことない。2年後に資金繰りが破綻するか、今資金繰りが破綻するか。大差ない」

「……」

「それに、前回のシミュレーションで分かったけど、2年間待ったらゼロゼロ融資の回収率が10%になったでしょ。それは、2年間で会社の手許資金が減ったから。会社が今破産したら、回収率が10%じゃなくて、30%とか40%になるはず」

「回収率は上がるだろうな」

「ゼロゼロ融資は国民の税金なんだから、回収率が高い方がいい。だから、ゼロゼロ融資の返済開始を延長せずに、すぐに会社から回収するべきなの」

「そうすると、茜の案は?」


「聞きたい?」

「聞きたいから、教えてよ」

「本当に聞きたい?」

「分かったから……」


「名付けて、お役所仕事大作戦!」

 茜は人差し指を上に上げて言った。


「お役所仕事大作戦? 何するの?」

「聞きたい?」

「分かったから……」


「何もしない!」

 茜はドヤ顔で言い放った。


 確かに、役所は何もしないよな……


<その2に続く>


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