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こちら国家戦略特別室  作者: kkkkk
第4章 インボイス制度を浸透させろ
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廃業します!(その2)

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。


 次に、インボイス制度が始まるまでの間、消費税の納税がどのように行われていたかを説明する。今度は図表23を見てほしい。


【図表23:従来の消費税の扱い】

挿絵(By みてみん)


※この図は仕入税額控除を無視して作成しています。



 課税事業者は消費税を納付する必要のある事業者だから図表23の上段のように、消費者が払った消費税10円を税務署に支払う。一方、免税事業者は消費税を支払う義務がないから、消費者から消費税として受け取った10円を税務署に払わない(下段)。


 つまり、従来は課税事業者も免税事業者も消費者から消費税を受け取っていたのに、課税事業者だけが消費税を納税していた。そして、免税事業者は消費税を納税しないから、利益になっていた。



 消費税は国が消費者に対して課している税金だから、本来の制度趣旨からすれば、免税事業者が消費税を消費者から受け取ること自体がおかしいはずだ。

 免税事業者は消費者から受け取った消費税を税務署(国)に払っていない、これを本来あるべき消費税の形に近づけるために採用されたのがインボイス制度だ。


 インボイス制度が導入された後は、課税事業者でなければ消費税を請求できない。つまり、免税事業者が商品を販売する場合、図表24のように消費者に消費税10円は請求できず、消費税抜きの価格100円で販売することになる。

 言い方をかえれば、消費者は免税業者から商品を買った方が消費税分安くなる、とも言える。


【図表24:免税事業者の消費税】

挿絵(By みてみん)

 



 **


 これを声優の例に置き換えて説明しよう。インボイス制度がスタートする前は、免税事業者であっても消費税を顧客に請求できた。


 声優の報酬(税抜)が月50万円、報酬に係る消費税額が5万円としよう。この声優の従来の手取り、課税事業者に変更した場合、免税事業者を継続した場合を比較したものが図表25だ。


【図表25:声優の手取り】

挿絵(By みてみん)


※上記は仕入税額控除を無視した金額です。仮に簡易課税制度を採用していた場合、消費税の納税額は50%(上記の場合は2万5,000円)です。


 インボイス制度がスタートするまでは報酬額50万円と消費税5万円を会社から受け取って、消費税の納税はゼロだから、手取りは55万円であった(図表25の#1)。


 インボイス制度がスタートして、会社は声優に「消費税を請求するのであればインボイスを発行してください!」と言うようになった。

 そして、声優はインボイスを発行するために課税事業者になって消費税を請求するか、免税事業者を継続して消費税の請求をやめるか、を選択することになった。


 声優が課税事業者になった場合、消費税5万円の納税が必要になるから、手取りは50万円になる(図表25の#2)。

 免税事業者を継続した場合、会社から消費税5万円を受け取ることはできないから、手取りは50万円になる(図表25の#3)。


 声優はインボイス制度がスタートしたら5万円手取りが減るから、「インボイス制度を廃止してほしい!」と訴えている。


 ただ、よく考えてほしい。消費税の制度趣旨を考えると、そもそも今まで消費税を受取っていた免税事業者がおかしいのだ。


 国税庁は小規模事業者の消費税の確定申告・納税の事務負担を考えて、免税事業者が消費税を受取ったとしても支払いを免除してきた。


 極端な言い方をすれば、「年間100万円までなら万引きオッケーです!」と許容してきたのと同じだ。

 でも、日本の財政赤字はいよいよ深刻になってきて、財政赤字を少しでも穴埋めする必要がある。だから、「やっぱり、万引きはダメです!」と言い出した。

 つまり、本来の消費税の形に近づけるために政府が採用した方法が今回のインボイス制度だ。


 インボイス制度は本来国(税務署)が受取るべき消費税を受取るための税制改正。免税事業者が受取っていた消費税を国に払ってもらうために行われた。


 ***


 ちなみに、適格請求書発行事業者(インボイスを発行できる事業者)の登録件数は、国税庁の公表資料によれば2023年9月末時点で378万件だ。

 2023年3月末時点の国税庁の発表では、法人のインボイス登録者のうち約9割が課税事業者(約1割が免税事業者)、個人事業主は約7割が課税事業者(約3割が免税事業者)だった。

 2023年5月に実施した東京商工リサーチのデータによれば、インボイス登録者の数は法人:個人事業主=2:1らしいので、免税事業者でインボイス登録した事業者数は以下の通りと推測される。


法人の免税事業者=378万件×2/3×10%=25.2万件

個人の免税事業者=378万件×1/3×30%=37.8万件


 法人と個人事業主を合計すると63万件。インボイス登録者数のうち16.7%(=63万件÷378万件)が新規で消費税を支払うことになった免税事業者といえる。


 2023年度の一般会計歳入(当初予算)のうち消費税は23.4兆円だ。免税事業者が消費者からどれだけ消費税を受取っているかは不明であるが、1~2兆円でも税収が増えれば政府としては有難いはずだ。


 ***


 消費税の制度趣旨を考えれば、インボイス制度は特に不当な税制改正ではない。だから、僕自身はインボイス制度を廃止してほしい、という事業者の訴えの意味が分からない。

 茜も同じように思っているのだろう。


 さて、仕事なのでインボイス制度を浸透させるための対策を考えようと思う。

 何がいいかな?


 何も思い付かない……



【備考】

ちなみに、疑問に思う人がいるかもしれないので念のために解説しておくと、法人や個人事業主の課税業者の全てがインボイス登録をしているわけではない。つまり、課税業者でもインボイス発行業者ではない場合がある。

例えば、商店街で通行人相手にコロッケを売っているお店は、お客さんからインボイスの発行を要求されない。だから、課税業者であってもインボイス発行業者として登録する必要がない。



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