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こちら国家戦略特別室  作者: kkkkk
第2章 空き家問題を解決しろ!
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相続空き家の3,000万円特別控除を使えないかな? (その3)

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。


 一通り説明を終えた茜は僕に言った。


「実勢価格が相続税評価額よりも高い場合(ケース1)は、売却した後に相続すると税額が3,640万円。だけど、相続した後に売却したら税額は2,130万円。だから相続する前に売ったらダメ。だよね?」

「そうだね」

「逆に、実勢価格が相続税評価額よりも低い場合(ケース2)は、売却した後に相続すると税額が20万円。相続した後に売却したら税額は630万円。だから、相続する前に売った方がいい。だよね?」

「そうだね」


「つまり、実勢価格が相続税評価額より高い不動産を持っている人は、相続する前に売らない。都市部に不動産を持っている場合は、このケースになると思う」

「そうだろうね。都市部の不動産は相続税評価額の方が低いから」


※場所によって差があります。都心の土地の場合、実勢価格は路線価(税法上の評価額)の数倍になるケースもあります。



「逆に、実勢価格が相続税評価額よりも低い不動産を持っている人、つまり地方の不動産を持っている人は、先に売却した方が相続税は減る。だから、相続前に不動産を売りたいよね?」

「そういうことになるね」

「地方の不動産の場合、『相続空き家の3,000万円特別控除』が使えても、使えなくても、相続前に不動産を売るのが基本的に正解」

「たしかに……」


 茜は話を続けた。


「さらに、現状は、相続した不動産を売却した場合は『相続空き家の3,000万円特別控除』が使える。だから、ケース1の税額の差はもっと大きい」

「『相続空き家の3,000万円特別控除』を前倒ししたら、ケース1の差は縮まるんじゃないの?」

「あまり変わらないと思うよ」


 茜はそういうと僕にグラフ(図表10)を見せた。


【図表10:売却価格による税額の比較】

挿絵(By みてみん)


※売却価格を2,500万円ごとに計算しているため、グラフの形状が正確ではありません。



「『相続空き家の3,000万円特別控除』を前倒しできた場合を計算すると、ケース1の場合は譲渡所得税1,500万円が、1,050万円に下がる」

「450万円も得するじゃない!」


※計算過程は以下の通りです。

譲渡所得=売却価格-取得費-控除額=2億円-1億円-3,000万円=7,000万円

譲渡所得税額=7,000万円×15%=1,050万円


「まあ、下がるね。この場合のケース1の相続税は2,230万円(計算過程は省略)。だから、税額合計は3,280万円(=2,230万円+1,050万円)になる」

「税額合計は3,640万円から3,280万円に下がるから……360万円税金が安くなってる」


「そうね。でも、元々相続してから売却する場合は『相続空き家の3,000万円特別控除』が使えるでしょ。税額合計は1,680万円(630万円+1,050万円)なんだ。前倒しできたとしても相続前に売却しない方が税金は安くなる」

「そう……だね」


 自信がなくなってきた僕は茜に質問する。


「『相続空き家の3,000万円特別控除』を前倒しする意味はないと思う?」

「全くないわけじゃない。ケース2で取得費が低くて譲渡所得が発生する場合には意味がある」

「ふーん。どれくらいの対象者になると思う?」

「まず、相続税の支払いが必要なのが全体の10%くらいでしょ」

「そうだね」


※国税庁が公表している『令和3年分 相続税の申告事績の概要』によれば、2021(令和3)年度の相続税の課税割合は9.3%です。


「そのうち、実勢価格が相続税評価額よりも低い場合で、取得費が低くて譲渡所得が発生する場合。そういう人は前倒ししたら得するね」



【図表11:前倒しで得する人】

挿絵(By みてみん)



「ほとんどいなくない?」

「そうね。取得費500万、相続税評価額1億円、実勢価格7,000万円の場合は、税金が400万円くらい安くなるよ」

「ぐぬぅぅぅ……ピンポイントすぎる……ダメじゃん」


 僕は茜の話を聞いて悟った。

 スーパーコンピューター垓でシミュレーションするまでもなく、『相続空き家の3,000万円特別控除』を前倒ししても、何の効果もないだろう。


「ダメ元でシミュレーションしてみる?」と茜が提案したのだが、僕は「別にいい」と断った。


 そしたら、「志賀みたいなバカな奴が引っかかるかもしれないしさー」と茜に言われた。実に屈辱的だ。


 落ち込んでいたら、新居室長が僕の横に座ってきて優しく話しかけられた。


「私と志賀くんの家は、私が死ぬまで売ったらダメよ!」

「はあ……」

「だって、都市部の不動産は相続した方がいいらしいし……それに、二人の思い出が詰まってるから……」


 新居室長は僕を優しいまなざしで見ている。

 そのまなざしは、僕を心配しているのか、それとも、弱った獲物を狩ろうとする捕食者の目なのか……僕には判別がつかない。


 とにかく、空き家問題の解決までの道のりは長そうだ。


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